NISAの海外投資はなぜ円安要因になるのか 毎月の積立投資から生まれる円売り編

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NISAを利用して海外株式へ投資する人が増えています。

特に人気が高いのが、全世界株式型や米国株式型の投資信託です。

投資家自身は日本円で投資信託を購入するため、ドルを買っているという感覚はあまりないかもしれません。

しかし投資先が米国株式などの海外資産であれば、その資金は最終的に海外の資産へ振り向けられます。

このためNISAを通じた海外投資の拡大は、外国為替市場で円売り要因の一つになる可能性があります。

特に重要なのが積立投資です。

一時的に海外株式を購入するのではなく、毎月決まった金額を投資する人が増えれば、家計から海外へ継続的に資金が流れることになります。

NISAと円相場の関係を考えるには、個人が投資信託を購入した後、そのお金がどこへ向かうのかを見る必要があります。

海外投資信託を買う資金はどこへ行くのか

例えば毎月5万円を全世界株式型の投資信託へ積み立てている人がいるとします。

投資家は証券口座から5万円を支払います。

決済は日本円です。

そのため本人から見ると、

5万円で投資信託を買った

というだけに見えます。

しかし投資信託は集めた資金を運用する必要があります。

全世界株式型であれば、日本だけでなく米国や欧州、新興国など世界各国の株式へ投資します。

米国株式型なら主として米国企業の株式へ投資します。

つまり日本の家計が円で投資信託を購入した資金の一部は、運用を通じて海外資産へ振り向けられます。

日本国内の円預金から海外の株式市場へ資金が移動することになるのです。

円から外貨への交換はどこで起きるのか

海外資産を購入する場合、どこかで通貨を交換する必要があります。

例えば米国株式は基本的に米ドルで取引されます。

日本の投資家が円で投資信託を購入したとしても、その円をそのまま米国株式市場へ持っていって株式を購入することはできません。

運用会社などはファンドの運用や資金管理の過程で必要な外貨を調達します。

経済的に見れば、

円資金が海外資産へ向かう

という資金移動が発生します。

ただし実際の運用では、投資信託が保有する現金、日々の解約資金との相殺、先物などのデリバティブ取引、為替取引などが組み合わされるため、

投資家が5万円積み立てた瞬間に5万円分の円が必ず売られる

という単純な関係ではありません。

それでも日本から海外資産への投資が長期的に増えれば、円と外貨の需給を考えるうえで重要な資金フローになります。

オルカンを円で買っても為替の影響を受ける

全世界株式型の投資信託は日本円で購入できます。

そのため、

円で買っているから為替とは関係ない

と思う人もいるかもしれません。

しかし投資信託の購入通貨と、投資先の通貨は別です。

例えば投資信託の中に米国株式が大量に含まれていれば、その資産価値はドル円相場の影響を受けます。

米国株式のドル建て価格が変わらなくても円安ドル高になれば、円換算した資産価値を押し上げる方向に働きます。

反対に円高ドル安になれば、円換算した資産価値を押し下げる方向に働きます。

全世界株式型であれば米ドルだけではなく、ユーロなど複数の通貨に関係する資産を保有しています。

つまり円で購入できる海外投資信託も、実質的には海外通貨や海外経済の影響を受ける資産なのです。

積立投資が重要なのはなぜか

NISAと円相場を考えるとき、特に重要なのが積立投資です。

例えば100万円を一度だけ海外株式へ投資する場合、海外への資金移動も基本的には一時的です。

一方、毎月5万円を20年間積み立てる場合を考えてみます。

年間では60万円です。

20年間なら、運用損益を考えない単純な元本だけでも1200万円になります。

一人ではそれほど大きな金額に見えないかもしれません。

しかし100万人が毎月5万円を海外資産へ積み立てれば、毎月500億円です。

年間では6000億円になります。

さらに投資家が増えれば金額も大きくなります。

積立投資は相場を見ながら一度だけ行う投資ではありません。

毎月ほぼ機械的に資金が投入されます。

この継続性が為替市場を考えるうえで重要になります。

円高でも円安でも海外投資が続く

従来の外貨投資では、為替相場によって売買行動が変化することがありました。

円高になれば、

ドルが安くなったから買おう

と考えます。

円安になれば、

ドルが高くなったから買うのをやめよう

と考える人もいます。

ところが積立投資では考え方が違います。

毎月5万円と決めていれば、

1ドル140円でも買う

1ドル150円でも買う

1ドル160円でも買う

という投資になります。

為替相場を予想して売買するのではなく、決めた金額を定期的に投資するからです。

そのため円安になったからといって海外への資金流出がすぐ止まるとは限りません。

NISAによる積立投資が広がるほど、為替水準に左右されにくい海外への資金フローが形成される可能性があります。

新NISAが海外投資を後押しする理由

NISAでは対象となる株式や投資信託の売却益などを非課税にできます。

長期の資産形成を考える個人にとって大きなメリットです。

特につみたて投資枠では、長期の積立や分散投資に適した一定の投資信託などが対象になっています。

その中には海外株式を中心に運用する商品があります。

また成長投資枠では、一定の外国株式なども購入できます。

つまりNISAは日本人の家計資産を、

預金から投資へ

動かすだけではありません。

投資先として海外資産が選ばれれば、

国内資産から海外資産へ

という資金移動も同時に進むことになります。

家計の資産形成政策と国際的な資金移動がつながっているのです。

海外投資が増えれば必ず円安になるのか

ここは慎重に考える必要があります。

NISAによる海外投資が増えたからといって、それだけで円相場が必ず下落するわけではありません。

外国為替市場は非常に巨大です。

円相場は、

日本と海外の金利差

中央銀行の金融政策

輸出入

海外企業による日本への投資

日本企業による海外投資

機関投資家の資金移動

投機的な取引

政府による為替介入

など非常に多くの要因によって動きます。

海外から日本株式や日本国債へ巨額の資金が流入すれば、円買い要因になる場合もあります。

したがって、

NISAが円安の原因である

と単純化することはできません。

より正確には、NISAを通じた海外投資の拡大は、円相場を動かす数多くの資金フローのうち、円売り方向に働き得る一つの要因と考えるべきです。

為替ヘッジありとなしでは何が違うのか

海外投資信託には、為替ヘッジを行う商品と行わない商品があります。

為替ヘッジとは、為替相場の変動が円換算した資産価値へ与える影響を抑えるための取引です。

例えば米国株式へ投資していても、為替ヘッジを行えばドル円相場の変動による影響を一定程度抑えることができます。

一方、為替ヘッジなしの商品では、海外株式の値動きに加えて為替変動の影響を受けます。

円安になれば円換算額を押し上げる方向に働き、円高になれば押し下げる方向に働きます。

ただし為替ヘッジは無料ではありません。

二つの通貨の金利差などによってヘッジコストが発生する場合があります。

日本より海外の金利が高い状況では、円から外貨への為替リスクをヘッジするコストが大きくなることがあります。

そのため長期投資では、為替変動を受け入れてヘッジなしの商品を選ぶ投資家もいます。

為替ヘッジをすると円売りがなくなるのか

為替ヘッジありの商品なら、海外投資と円相場の関係が完全になくなるわけでもありません。

ファンドは海外資産を保有しながら、為替変動を抑えるため反対方向の為替取引などを行います。

そのためヘッジなしの商品とは為替市場への影響の仕方が異なります。

重要なのは、

海外株式へ投資すること

為替リスクをどこまで負うこと

は別の問題だということです。

米国企業の成長には投資したいが、ドル円相場の変動はできるだけ避けたいという考え方もできます。

反対に世界の株式だけでなく、円以外の通貨へ資産を分散したいのであれば、為替ヘッジを行わない海外投資がその目的に合う場合があります。

何を分散したいのかによって選択が変わります。

外貨預金との違いは何か

NISAを通じた海外投資と外貨預金には共通点があります。

どちらも家計の円資産を海外通貨や海外資産へ振り向ける動きになり得ます。

しかし目的は異なります。

外貨預金では、

ドルなどの外国通貨を保有する

こと自体が中心です。

一方、海外株式型の投資信託では、

海外企業の成長へ投資する

ことが中心です。

その結果として為替変動の影響も受けます。

外貨預金の収益は主に預金金利と為替変動から生じます。

海外株式投資では企業の利益成長や株価変動に為替変動が加わります。

為替市場では似た方向の資金移動に見えても、家計にとっての投資目的は異なるのです。

家計の資産形成が為替市場を変える可能性

日本では長い間、家計金融資産の大きな部分が現金や預金に置かれてきました。

その資金がNISAなどを通じて投資へ移れば、金融市場の資金の流れも変わります。

さらに投資先として海外株式が多く選ばれれば、日本国内にとどまっていた家計資金の一部が世界の株式市場へ向かいます。

これは一時的な為替投機とは性格が異なります。

老後資金などを目的として10年、20年と続く可能性のある資産形成だからです。

しかも積立投資なら、毎月一定額の資金移動が続きます。

日本人の資産形成が預金中心から世界への分散投資へ変われば、その変化は長期的な円の需給構造にも影響を与える可能性があります。

結論

NISAを通じた海外投資は、円相場に対して円売り方向に働く可能性があります。

日本の投資家は円で投資信託を購入しますが、投資先が米国株式や世界株式であれば、その資金は最終的に海外資産へ振り向けられます。

特に重要なのが毎月の積立投資です。

円高でも円安でも一定額を継続的に投資する人が増えれば、日本の家計から海外へ向かう長期的な資金フローが形成されます。

ただしNISAによる海外投資だけで円相場が決まるわけではありません。

為替市場には金利差、貿易、企業活動、機関投資家の取引、海外から日本への投資など様々な要因があります。

そのためNISAは円安の唯一の原因ではなく、継続的な円売り要因になり得る資金フローの一つとして考える必要があります。

また為替ヘッジを行うかどうかによって、海外投資と為替相場との関係も変わります。

NISAの普及によって起きているのは、単なる預金から投資への変化だけではありません。

日本の家計資産が国内中心から世界へ分散していく構造的な変化でもあります。

毎月一人一人が積み立てる金額は小さくても、それが数百万人、そして何年にもわたって積み重なれば巨大な資金移動になります。

家計の長期的な資産形成が、外国為替市場の円の需給にも影響を与える時代になっているのです。

参考

日本経済新聞 2026年8月21日 朝刊 外貨預金の伸び最大 家計・企業、円から資産分散

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