個人向け国債の相続税優遇とは何か 高齢者の預金を国債へ動かす仕組み編

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個人向け国債への税制優遇を巡って、NISAへの組み入れとともに注目されているのが相続税の優遇です。

自民党内では、個人向け国債にかかる相続税を減免する案が提起されています。

この案が注目される理由は、日本の家計が持つ巨額の金融資産とその保有者の年齢構成にあります。

日本の家計には1100兆円を超える現預金があります。その多くを保有する高齢世代にとって、相続税は資産をどこに置くかを考えるうえで重要な問題です。

もし預金で持っていれば通常どおり相続税の対象になる一方、個人向け国債に替えることで相続税が軽くなる制度ができればどうなるでしょうか。

高齢者が預金を個人向け国債へ移す大きな動機になる可能性があります。

国債を相続するとどうなるのか

個人向け国債を持っている人が亡くなった場合、国債が消えてしまうわけではありません。

個人向け国債も相続財産になります。

預金や株式、不動産などと同じように、亡くなった人が保有していた財産として相続手続きの対象になります。

相続人は金融機関で所定の手続きを行い、個人向け国債を引き継ぐことになります。

つまり、

預金なら相続財産になる

国債なら相続財産にならない

という違いは現在ありません。

どちらも原則として相続税を計算する際の財産に含まれます。

現在の相続税評価

相続税を計算するときには、亡くなった人が持っていた財産について相続税上の価額を求めます。

これを相続税評価と考えると分かりやすいでしょう。

個人向け国債については、相続開始時に中途換金した場合に受け取ることができる金額によって評価するのが基本的な考え方です。

個人向け国債には、発行から一定期間が経過すると中途換金できる仕組みがあります。

そのため、額面金額だけを見るのではなく、中途換金時に受け取れる金額を基礎として相続税評価を考えます。

一方、銀行預金についても、相続開始時点の預入残高などを基礎として相続財産に含めます。

したがって現在の制度では、相続税対策だけを目的として預金を個人向け国債へ移しても、それだけで財産評価額が大幅に下がるわけではありません。

ここが重要です。

相続税を減免する案とは何か

そこで議論されているのが、個人向け国債について相続税上の優遇措置を設ける考え方です。

ただし、具体的な制度はまだ決まっていません。

2027年度税制改正に向けた議論の段階であり、

国債の一定額を相続財産から除外するのか

評価額を一定割合引き下げるのか

相続税額そのものを軽減するのか

対象となる国債や保有期間を限定するのか

といった具体的な仕組みは今後の検討事項です。

したがって現時点では、個人向け国債を購入すれば相続税が安くなると考えることはできません。

あくまで税制改正に向けて浮上している政策案です。

1000万円の国債ならどうなるのか

相続税優遇の効果を理解するため、仮の制度で考えてみましょう。

例えば1000万円の個人向け国債について、相続税評価額を20%減額できる制度が作られたとします。

これは現在決まっている制度ではなく、仕組みを理解するための仮定です。

通常なら1000万円程度が相続税の計算対象になるところ、800万円として評価できることになります。

課税対象となる財産が200万円減るわけです。

相続税率が仮に20%の人なら、単純化すれば40万円程度の税負担の差につながります。

国債の保有額が大きくなるほど、その効果も大きくなります。

高齢者が資産の置き場所を考えるときに、こうした違いは大きな意味を持ちます。

なぜ高齢者の国債購入につながるのか

相続税優遇が政策として強力なのは、高齢者の資産選択に直接働きかけるからです。

例えば1000万円を銀行の定期預金で持っている人がいるとします。

預金として持っていても、個人向け国債として持っていても、安全性を重視した金融資産である点では似ています。

ところが、

預金なら通常どおり相続税の対象

個人向け国債なら一定の相続税優遇

という違いができれば状況が変わります。

どうせ当面使わないお金なら、国債に替えておこうと考える人が増える可能性があります。

特に相続税の課税が見込まれる金融資産の多い高齢者ほど、その動機は強くなります。

これが相続税優遇によって預金から国債へ資金を誘導する仕組みです。

利子と相続税の両方が重要になる

高齢者が預金と個人向け国債を比較するときには、相続税だけを見るわけではありません。

通常の運用期間中に受け取れる利子も重要です。

市場金利の上昇によって、個人向け国債の金利は銀行の定期預金より高いケースが出ています。

つまり、

保有している間は預金より高い利子を受け取れる

相続時には税負担を軽くできる

という二つのメリットが組み合わされれば、個人向け国債の魅力は大きく高まります。

税制優遇の内容によっては、高齢者の資産選択をかなり大きく変える可能性があります。

政府が狙うのは家計の巨額な現預金

政府にとって重要なのは、その先にあります。

日本の家計が保有する現預金は2026年3月末時点で1126兆円に達しています。

一方、家計が保有する国債は約20兆円です。

家計金融資産に占める国債の割合は1%にも届きません。

この巨大な現預金の一部が国債へ動けば、国にとって新しい国債の買い手が生まれます。

特に日本銀行が国債買い入れを縮小していく局面では、国債を安定的に購入する主体を増やすことが重要になります。

相続税優遇は、単なる高齢者向けの税負担軽減策ではなく、家計金融資産を国債市場へ誘導する政策としての意味を持つわけです。

相続税対策として国債を買う時代になるのか

もし個人向け国債に大きな相続税優遇が設けられれば、資産承継の考え方にも影響します。

現在、相続税対策では現預金と不動産の評価方法の違いなどが注目されることがあります。

現金1000万円は、基本的には1000万円の財産です。

これに対して、不動産などには独自の相続税評価方法があります。

もし個人向け国債にも政策的な評価減や非課税枠などが設けられれば、安全性や換金性の高い金融資産でありながら相続税上も有利という新しい選択肢が生まれる可能性があります。

その場合、相続を意識する高齢者の金融商品選びに大きな変化が起こるでしょう。

税制の公平性という問題

一方、相続税優遇には大きな問題もあります。

誰がその恩恵を受けるのかという問題です。

そもそも相続税は、すべての相続で発生するわけではありません。

基礎控除などがあるため、一定以上の財産を持つ場合に課税されます。

したがって個人向け国債の相続税を減免すると、金融資産を多く保有し、相続税が発生する世帯ほど恩恵を受けやすくなります。

例えば預金100万円しか持っていない人と、金融資産1億円を持っている人では、国債への相続税優遇から受けるメリットは大きく異なります。

このため、

国債を買える富裕層への優遇ではないか

高齢者に偏った税制ではないか

他の金融商品との公平性はどうするのか

といった議論が出てきます。

与党内に慎重論がある理由の一つです。

銀行には預金流出という逆風になる

さらに影響を受けるのが銀行です。

高齢者が持つ多額の預金が個人向け国債へ移れば、銀行から預金が流出します。

特に地方銀行は、預金全体に占める個人預金の割合が高いとされています。

銀行にとって預金は融資を行うための重要な資金源です。

個人向け国債への資金移動が大規模になれば、銀行は預金をつなぎ留めるために預金金利を引き上げたり、商品やサービスを充実させたりする必要が出てきます。

つまり国債の相続税優遇は、

相続税

だけの問題ではありません。

国債市場、銀行預金、地域金融までつながる政策になります。

制度が決まる前の購入には注意が必要

相続税対策という観点では、もう一つ重要な点があります。

現時点では個人向け国債への相続税優遇は決定していません。

税制改正要望に盛り込まれたとしても、そのまま制度になるとは限りません。

対象者、対象金額、対象となる国債、保有期間などについて条件が設けられる可能性もあります。

さらに、新たに購入する国債だけを対象とするのか、すでに保有している国債も対象になるのかによっても意味が変わります。

したがって、将来相続税が安くなるだろうという予想だけで個人向け国債を購入することは、現段階では相続税対策とはいえません。

実際の制度が決まってから内容を確認する必要があります。

結論

現在、個人向け国債も預金や株式などと同じように相続財産となり、原則として相続税の計算対象になります。

個人向け国債を購入しただけで、相続税が自動的に安くなるわけではありません。

しかし2027年度税制改正に向けて、個人向け国債の相続税を減免する案が議論されています。

もし大きな優遇措置が導入されれば、相続を意識する高齢者にとって、

預金で持つより国債で持つ

という選択をする理由が生まれます。

その背景には、1100兆円を超える家計の現預金を国債市場へ呼び込みたいという政策上の狙いがあります。

一方で、金融資産を多く持つ人ほど恩恵が大きくなる税制の公平性や、銀行からの預金流出という問題もあります。

個人向け国債の相続税優遇は、単なる相続税対策ではありません。

高齢者が持つ巨額の金融資産を預金から国債へ動かし、国債の新しい買い手を育てる仕組みになり得ます。

だからこそ今後の税制改正では、優遇するかどうかだけでなく、誰を対象に、いくらまで、どのような条件で優遇するのかが重要な論点になります。

参考

日本経済新聞 2026年8月21日 朝刊 個人向け国債に税優遇 財務省など要望へ、与党には慎重論

日本経済新聞 2026年8月21日 朝刊 個人向け国債 預金より運用有利に

日本経済新聞 2026年8月21日 朝刊 家計資産、国債シフトの芽

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