市場金利の上昇を背景に、個人向け国債の金利が大きく上昇しています。
2026年8月募集の固定5年の利率は年2.06%となり、税引後では年1.6415110%です。
同じ2.06%という金利でも、実際に受け取れる金額は2.06%ではありません。個人向け国債の利子には税金がかかるからです。
現在、財務省と金融庁は2027年度税制改正で個人向け国債に何らかの税制優遇を設けることを検討しています。
仮に利子が非課税になる仕組みが導入されれば、同じ金利でも投資家の手取りは増えます。
では、現在はどれくらい税金がかかっているのでしょうか。
現在の国債利子への課税
個人向け国債を購入すると、半年ごとに利子を受け取ります。
この利子は、そのまま全額を受け取れるわけではありません。
現在、個人向け国債を含む国債の利子には20.315%の税金がかかります。
つまり、100円の利子が発生しても、実際に受け取れるのは約80円です。
税金については、金融機関があらかじめ差し引いて支払う仕組みになっています。
そのため、一般的には国債を持っている人が利子を受け取るたびに税金を計算して納付する必要はありません。
この仕組みを源泉徴収といいます。
預金の利息にも基本的に同じような税金がかかるため、個人向け国債だけに特別に重い税金が課されているわけではありません。
所得税と住民税
20.315%という税率は、一つの税金ではありません。
内訳は所得税と復興特別所得税が15.315%、住民税が5%です。
合計すると、
15.315%と5%で20.315%
となります。
例えば1万円の利子を受け取る場合を考えてみます。
税金がなければ1万円をそのまま受け取れます。
しかし20.315%が差し引かれると、税額は約2032円となり、手取りは約7968円です。
100万円や1000万円といったまとまった金額を国債で運用する場合には、この税金の差が大きくなります。
税引前金利と税引後金利の違い
金融商品の金利を見るときに重要なのが、税引前と税引後の違いです。
例えば固定5年の個人向け国債の金利が年2.06%だったとします。
これは税引前の金利です。
100万円を保有している場合、単純計算した年間利子は、
100万円掛ける2.06%で2万600円
となります。
しかし、この2万600円をすべて受け取れるわけではありません。
20.315%の税金が差し引かれます。
税額は年間で約4185円です。
したがって手取り利子は、
約1万6415円
となります。
100万円を運用した場合の税引後利回りは約1.64%です。
財務省が公表している固定5年の税引後利率も1.6415110%となっています。
税引前では2%を超えていても、実際に家計に入る利子は約1.64%になるわけです。
1000万円なら税金はいくらになるのか
運用額を1000万円にすると、税金の影響がより分かりやすくなります。
年2.06%なら、年間の税引前利子は20万6000円です。
ここから約20.315%の税金が差し引かれます。
税額は年間で約4万1850円です。
手取り利子は約16万4150円となります。
固定5年なので、金利が変わらず満期まで保有したと単純化すると、5年間の税引前利子は約103万円です。
そこから税金が約20万9000円差し引かれ、手取りは約82万1000円になります。
金利が2%を超えてくると、税金による手取りの違いも無視できない金額になります。
非課税になった場合はどうなるのか
ここで仮に、個人向け国債の利子を完全に非課税にする制度が導入されたとします。
1000万円を年2.06%で運用すれば、年間利子20万6000円をそのまま受け取れることになります。
現在の手取りは約16万4150円ですから、年間で約4万1850円増えます。
5年間なら単純計算で約20万9000円の差になります。
つまり、表面金利が上がらなくても、税金がなくなるだけで実質的な運用利回りが上昇します。
現在の税引後利率は約1.64%です。
完全非課税なら2.06%をそのまま受け取れます。
約0.42ポイントの利回り上昇と同じ効果が生まれることになります。
金利を上げなくても国債の魅力を高められる
ここが税制優遇の重要なところです。
国が個人向け国債そのものの金利を引き上げなくても、税金を軽減すれば投資家から見た実質的な利回りを高くできます。
例えば年2.06%の個人向け国債について税金をゼロにすれば、投資家にとっては税引後利回りが約1.64%から2.06%へ上昇します。
銀行の定期預金にも通常は利息に税金がかかります。
個人向け国債だけに税制上の優遇措置が設けられれば、同じ安全資産でも税引後の収益にはさらに差が生じる可能性があります。
そのため、税制優遇の内容によっては銀行預金から個人向け国債への資金移動を強く促すことになります。
すでに非課税になる制度もある
実は現在でも、一定の人については国債の利子を非課税にできる制度があります。
障害者などの非課税貯蓄制度です。
一般にマル優や特別マル優と呼ばれる制度で、一定の要件を満たす人については国債などの利子を非課税にできます。
したがって、国債の利子を非課税にする仕組み自体が全く存在しないわけではありません。
ただし、現在検討されている個人向け国債の税制優遇は、より幅広い個人投資家の国債購入を促す政策として議論されている点が重要です。
具体的な対象者や非課税額などはまだ決まっていません。
税制優遇は誰に大きなメリットがあるのか
税制優遇の効果は、保有する国債の金額が大きいほど大きくなります。
100万円なら年間数千円の差でも、1000万円なら年間数万円、さらに大きな金融資産を持つ人なら差は拡大します。
このため税制優遇を設ける場合には、
どこまで非課税にするのか
保有額に上限を設けるのか
対象となる国債を限定するのか
といった制度設計が重要になります。
無制限に税制優遇を認めれば、金融資産を多く持つ人ほど大きな恩恵を受けるからです。
政府・与党内に慎重論がある背景には、このような税負担の公平性の問題もあります。
結論
個人向け国債の利子には現在20.315%の税金がかかります。
そのため、固定5年の税引前金利が年2.06%であっても、実際の税引後利率は約1.64%になります。
1000万円を運用すれば、年間約20万6000円の利子に対して約4万1850円の税金がかかり、手取りは約16万4150円となります。
仮に利子が完全に非課税になれば、この約4万1850円をそのまま受け取れるようになります。
つまり税制優遇とは、国債の表面金利を上げなくても、投資家の実質的な利回りを高める政策でもあります。
そして重要なのは、その先です。
個人向け国債の税引後利回りが高くなれば、1100兆円を超える家計の現預金の一部が国債へ動く可能性があります。
個人にとっては数万円の税負担の違いでも、日本全体で考えれば数十兆円、場合によっては100兆円規模の資金移動につながる可能性があります。
個人向け国債の税制優遇を考えるときには、単に税金が安くなる制度としてではなく、家計のお金を預金から国債へ動かす政策として見ることが重要です。
参考
日本経済新聞 2026年8月21日 朝刊 個人向け国債に税優遇 財務省など要望へ、与党には慎重論
日本経済新聞 2026年8月21日 朝刊 個人向け国債 預金より運用有利に
日本経済新聞 2026年8月21日 朝刊 家計資産、国債シフトの芽