再就職支援というと、希望条件に合う求人を探して紹介してもらうことを思い浮かべる人が多いかもしれません。
しかし、シニアの再就職では求人を紹介するだけで問題が解決するとは限りません。
長年事務職として働いてきたので事務職を希望する。
管理職だったので同じような役職を探す。
定年前と同程度の賃金を希望する。
こうした希望が現在の労働市場と合っていなければ、求人を何件紹介しても就職につながらない可能性があります。
そこで重要になるのがキャリアコンサルティングです。
本人の経験や能力、価値観などを整理し、これからどのように働くのかを一緒に考える支援です。
AIによる求人検索やマッチングが発達するほど、人間の相談員には求人を探すこととは違う役割が求められるようになります。
キャリアコンサルティングとは何か
キャリアコンサルティングとは、働く人や求職者が自分の職業生活について考え、適切な職業選択や能力開発を行えるよう支援することです。
単に、
この会社が求人を出しています
と仕事を紹介するだけではありません。
これまで何をしてきたのか。
どのような能力を身につけたのか。
これから何をしたいのか。
どのような働き方を希望するのか。
そのために何を学ぶ必要があるのか。
こうしたことを相談しながら整理します。
本人が自分で今後のキャリアを考え、意思決定できるよう支援することが重要になります。
キャリアコンサルタントとは何か
キャリアコンサルタントは、キャリアコンサルティングを行う専門家です。
日本ではキャリアコンサルタントは国家資格となっています。
相談者の職業経験や希望などを聞きながら、
能力の整理
職業選択
キャリア形成
能力開発
などを支援します。
キャリアコンサルタントが相談者に代わって、
あなたはこの仕事に就くべきです
と決めるわけではありません。
本人が自分の経験や価値観を整理し、納得して選択できるよう支援することが基本です。
職業人生が長くなり、一度入った会社で定年まで働くことが当たり前ではなくなるほど、このような支援の重要性は高まります。
職業紹介とは何が違うのか
職業紹介とキャリアコンサルティングは関係していますが、役割は同じではありません。
職業紹介では、
求職者
と
求人企業
を結びつけます。
例えば、
経理経験者を募集している会社があります
という情報を求職者へ提供します。
一方、キャリアコンサルティングでは、その前の段階から考えます。
本当に経理を続けたいのか。
経理経験の中で何が強みなのか。
別の仕事でも利用できる能力はないか。
希望する働き方は何か。
必要なリスキリングは何か。
つまり職業紹介が、
どの求人に応募するか
を支援するものだとすれば、キャリアコンサルティングは、
これからどのように働くか
を考える支援だと整理できます。
シニアほどキャリアの棚卸しが重要になる
シニアには数十年間の職業経験があります。
これは大きな財産ですが、経験が多いほど整理することも難しくなります。
例えば、
営業を30年間してきた
という人がいたとします。
その一言だけでは具体的な能力は分かりません。
実際には、
新規顧客を開拓した
重要顧客と交渉した
部下を育成した
販売計画を作った
営業組織を改善した
クレームに対応した
など、多くの経験が含まれている可能性があります。
キャリアコンサルティングでは、こうした経験を一つずつ振り返り、
何ができるのか
を整理します。
これがキャリアの棚卸しです。
本人も気づいていない能力を見つける
長年同じ会社で働いていると、自分が日常的に行ってきたことを能力だと思わなくなることがあります。
例えば、
関係部署との調整
部下への指導
顧客との交渉
トラブル対応
業務改善
などです。
本人にとっては、
仕事だから普通にやっていた
ことかもしれません。
しかし別の会社では、その能力を必要としている可能性があります。
相談員との対話によって、
なぜその問題を解決できたのか
どのような工夫をしたのか
どのように人を動かしたのか
と掘り下げていくと、本人が意識していなかった能力が見えてきます。
これがポータブルスキルの発見にもつながります。
希望と労働市場の現実を結びつける
キャリアコンサルティングでは、本人の希望を尊重することが重要です。
しかし、希望をそのまま受け入れるだけでは十分ではありません。
例えば事務職を希望していても、その地域で事務職の求人数が少なく、求職者が非常に多ければ就職は難しくなります。
その場合には、
事務職の求人倍率はどうなっているのか
どの職種なら求人が多いのか
自分の能力を生かせる別の仕事はないか
を考える必要があります。
本人の希望と労働市場の現実の両方を見るのです。
希望を否定するのではなく、客観的な情報を示したうえで選択肢を広げることが重要になります。
シニアでは働く目的そのものを整理する
定年前の会社員では、働く大きな目的が収入である場合が多いでしょう。
しかし定年後は事情が変わります。
生活費を得たい。
老後資金を増やしたい。
専門知識を生かしたい。
社会とのつながりを維持したい。
人の役に立ちたい。
健康のために働きたい。
人によって目的は異なります。
そのため、
どの会社に入るか
だけでなく、
なぜ働くのか
を整理することが重要になります。
働く目的が明確になれば、必要な賃金、勤務日数、仕事内容などの優先順位も決めやすくなります。
希望条件の優先順位を整理する
再就職では、すべての希望条件を満たす求人が見つかるとは限りません。
例えば、
高い賃金
自宅から近い
事務職
週3日
残業なし
以前の経験を生かせる
という条件をすべて求めれば、求人は限られます。
そこで、
絶対に譲れない条件
できれば満たしたい条件
変更してもよい条件
に分けます。
例えば収入を最優先するなら勤務時間を増やす。
自由時間を重視するなら賃金を一定程度下げる。
経験を生かしたいなら勤務地を広げる。
このように条件の優先順位を整理することもキャリアコンサルティングの重要な役割です。
リスキリングの方向も一緒に考える
再就職のために学び直そうと思っても、
何を勉強すればよいのか
分からないことがあります。
そこで、まず希望する仕事と現在の能力を比較します。
例えば、
営業経験は豊富
顧客対応もできる
しかしデジタルツールの利用経験が少ない
という場合には、デジタル分野を補うことが考えられます。
経理経験はあるがクラウド会計を使ったことがないなら、その部分を学びます。
つまり、
自分が持っている能力
と、
仕事に必要な能力
との差を見つけます。
キャリアコンサルティングは、資格取得を勧めることそのものが目的ではありません。
再就職から逆算して、必要な学びを考えることが重要です。
AIは求人を探すことが得意になる
AIが発達すると、職業相談の仕事にも変化が起こります。
AIは大量の求人情報を分析することが得意です。
求職者の職歴や希望条件を入力すれば、
条件に合う求人
経験を生かせる求人
これまで考えていなかった求人
を短時間で提示できるようになる可能性があります。
さらに職務経歴からスキルを抽出し、企業が求める能力との共通点を分析することもできます。
これまで相談員が時間をかけて行っていた求人検索や条件照合の一部をAIが担当できるようになります。
AI時代ほど人間の相談員が必要になる
AIが求人を探せるようになれば、
職業相談員はいらなくなるのではないか
という疑問が出てきます。
しかし、人間にはAIとは異なる役割があります。
例えば相談者が、
事務職を希望しています
と言ったとします。
AIなら事務職の求人を探すことができます。
人間の相談員なら、
なぜ事務職を希望するのですか
と尋ねることができます。
話を聞いていくと、
体力的な負担を避けたい
人と接する仕事が苦手
以前事務職だったので安心できる
という本当の理由が見えてくるかもしれません。
すると、
事務職以外にも条件を満たす仕事があります
と別の選択肢を考えることができます。
表面的な希望の奥にある価値観や不安を理解することは、人間の相談員に残る重要な役割です。
本人が納得して決めることが重要になる
AIが、
この仕事が最適です
と高い適合率を示しても、本人がその仕事を選ぶとは限りません。
仕事は人生の大きな部分を占めます。
賃金だけでなく、
やりがい
人間関係
働く時間
生活とのバランス
将来の希望
なども関係します。
特にシニアでは、残りの職業人生をどう過ごしたいのかという問題があります。
そのため最終的には、
本人が納得して選ぶ
ことが重要です。
キャリアコンサルタントは答えを与える人ではなく、本人が答えを見つけるための意思決定を支援する人なのです。
ハローワークも提案型へ変わる必要がある
AI時代のハローワークでは、求人を検索して紹介するだけでは民間の求人サイトなどとの差を出しにくくなります。
むしろ重要になるのは、
労働市場の情報を示す
本人の能力を整理する
職種転換を提案する
リスキリングにつなげる
希望条件を整理する
といった支援です。
求人を紹介する場所から、
職業人生を考える場所
へ役割を広げることが求められます。
そのためには相談員自身にも、労働市場、職業、スキル、AI、リスキリングなどについて高い専門性が必要になります。
結論
キャリアコンサルティングとは、求人を紹介するだけではなく、本人の経験、能力、価値観、希望などを整理し、これからの職業生活を考えるための支援です。
特にシニアの再就職では重要になります。
長年の職業経験がある一方で、その経験を別の会社でどのように生かせるのか本人自身が分からないことがあるからです。
管理職。
営業。
経理。
事務。
といった肩書や職種を具体的な能力へ分解すると、本人も気づいていなかったポータブルスキルが見つかる可能性があります。
さらに労働市場の情報と照らし合わせれば、これまで考えていなかった職種への転換や、必要なリスキリングも見えてきます。
AIが発達すれば、求人検索やスキルの照合は大幅に効率化されるでしょう。
だからこそ、人間の相談員には別の価値が求められます。
なぜその仕事を希望するのか。
何を大切にして働きたいのか。
どの条件なら変更できるのか。
本人の言葉の奥にある考えを引き出し、納得できる意思決定を支援することです。
AIが求人を探し、人間が人生の選択を支える。
キャリアコンサルティングは、AI時代の再就職支援でますます重要な役割を担うことになるでしょう。
参考
日本経済新聞 2026年8月19日朝刊 老いるハローワークとAI
厚生労働省 キャリアコンサルティング・キャリアコンサルタント