ふるさと納税には、個人を対象とした制度だけでなく、企業を対象とした仕組みもあります。
それが企業版ふるさと納税です。
正式には地方創生応援税制と呼ばれ、企業が国の認定を受けた自治体の地方創生事業に寄付すると、法人関係税について税制上の優遇を受けられる制度です。
この企業版ふるさと納税を、大学と自治体が連携する事業に活用することも考えられます。
例えば地域の大学による人材育成や研究開発、地域産業との共同研究、若者の地域定着などを地方創生事業として位置付け、企業から寄付を集める方法です。
企業、自治体、大学を一つの事業で結び付けることができれば、企業の資金を地域の教育や研究へ振り向ける新しい仕組みになります。
企業版ふるさと納税とは何か
企業版ふるさと納税は、企業が自治体の地方創生に関する事業へ寄付する制度です。
個人版のふるさと納税と同じように自治体への寄付ですが、税制上の仕組みは異なります。
企業は自治体が実施する地方創生事業の内容を見て、自社が応援したい事業へ寄付します。
対象となるのは、国の認定を受けた地域再生計画に位置付けられた事業です。
例えば地域産業の振興、子育て支援、観光振興、人材育成、移住促進など様々な事業が考えられます。
その中に大学と連携した事業を組み込むこともできます。
大学そのものへ直接寄付する制度ではなく、自治体の地方創生事業を企業が寄付によって支援する仕組みであることが重要です。
個人版ふるさと納税とは仕組みが違う
個人版のふるさと納税では、個人が自治体へ寄付します。
一定の上限の範囲内であれば、寄付額のうち二千円を超える部分について所得税や住民税から控除を受けることができます。
返礼品が用意されている自治体も多くあります。
企業版では、企業が自治体へ寄付します。
税負担の軽減も、所得税や個人住民税ではなく、法人税や法人住民税、法人事業税などの法人関係税を通じて行われます。
また、企業版ふるさと納税では、個人版のような返礼品を受け取る制度ではありません。
企業が寄付の見返りとして経済的な利益を受けることは制度の趣旨と合いません。
企業による地方創生への支援を税制面から後押しする仕組みです。
大学へ直接寄付する制度ではない
企業版ふるさと納税で大学を支援する場合に注意したいのは、企業が大学へ直接寄付するわけではないことです。
寄付先は自治体です。
自治体が大学と連携した地方創生事業を計画し、その事業に企業が寄付します。
例えば自治体と大学が共同で地域産業のデジタル化を支援する人材育成事業を実施するとします。
企業がその事業に企業版ふるさと納税を利用して寄付します。
自治体は寄付金を活用して事業を実施し、大学が教育や研究などを担当します。
企業から自治体、自治体の地方創生事業を通じて大学との連携へという流れになります。
通常の大学への法人寄付とは、お金の流れも制度上の目的も異なります。
大学の人材育成を地方創生に結び付ける
大学と企業版ふるさと納税を組み合わせやすい分野の一つが人材育成です。
地方では若者の流出や専門人材の不足が大きな課題となっています。
大学が地域産業に必要な人材を育成し、卒業後に地域企業へ就職する人を増やすことができれば、地方創生につながります。
例えば情報技術や人工知能を学ぶ教育プログラムを大学と自治体が共同で設けることが考えられます。
地域企業が必要としているデジタル人材を大学で育成します。
企業版ふるさと納税による寄付を教育環境の整備などに活用できれば、企業の資金を地域の人材育成へ振り向けることができます。
企業にとっても、将来的な人材不足への対応につながる可能性があります。
共同研究を地域産業の振興につなげる
大学と地域企業の共同研究も地方創生事業になり得ます。
例えば地域の農産物を利用した新商品を大学と企業が共同で開発することが考えられます。
製造業が集積する地域であれば、大学の研究者と地域企業が新しい材料や生産技術を研究することもできます。
自治体がこうした産学連携を地方創生事業として進め、企業版ふるさと納税によって外部企業から資金を集める方法があります。
大学の研究成果が地域企業へ移転されれば、新商品や新事業が生まれる可能性があります。
さらに新しい雇用が生まれれば、若者の地域定着にもつながります。
大学への支援を単独の教育政策としてではなく、地域産業政策と組み合わせることが重要です。
企業には税制上のメリットがある
企業版ふるさと納税の大きな特徴が税制上の優遇です。
企業が自治体へ寄付すると、通常の寄付と同様に損金算入による税負担の軽減があります。
さらに企業版ふるさと納税では、一定の要件のもとで法人住民税、法人税、法人事業税から税額控除を受ける仕組みが設けられています。
これらを合わせることで、企業の実質的な負担を大きく抑えながら地方創生事業を支援できるようにしています。
ただし、実際の税負担軽減額は企業の所得や税額、寄付額などによって異なります。
寄付すれば必ず同じ割合だけ税金が減ると考えるのではなく、自社の税務状況を踏まえて判断する必要があります。
本社所在地への寄付には制約がある
企業版ふるさと納税には、どの自治体にでも自由に寄付して税額控除を受けられるわけではないという特徴があります。
企業の本社が所在する地方公共団体への寄付については、制度上の税額控除の対象にならないという制約があります。
企業版ふるさと納税は、企業の資金を本社所在地以外の地域の地方創生にも振り向けることを促す仕組みだからです。
例えば東京に本社を置く企業が地方大学と自治体の共同事業を支援するようなケースでは、制度を活用できる可能性があります。
企業にとっては、自社の事業拠点や取引先、創業者や従業員と関係の深い地域などを支援する方法にもなります。
企業は返礼品を受け取れない
個人版のふるさと納税では、返礼品が寄付をする大きな動機になっています。
企業版では考え方が異なります。
企業が寄付の見返りとして自治体から経済的な利益を受けることは認められていません。
例えば寄付をしたことを理由として、自治体がその企業の商品を購入することを約束するような関係は問題になります。
企業版ふるさと納税は、商品やサービスを購入する取引ではありません。
企業が地方創生事業の目的に共感し、その事業を支援することが基本になります。
一方、寄付企業の名称を自治体が公表するなど、社会貢献活動を知ってもらう機会になることはあります。
企業にとっては地域貢献や社会貢献の取り組みを示す一つの方法になります。
大学と企業の接点をつくる効果もある
企業版ふるさと納税を通じて、これまで接点のなかった企業と大学がつながる可能性もあります。
例えば自治体が大学と共同で半導体人材の育成事業を進めているとします。
その事業へ半導体関連企業が寄付すれば、企業は大学がどのような教育や研究を行っているのかを知ることになります。
その後、共同研究やインターンシップ、採用など別の関係へ発展することも考えられます。
最初の接点は寄付でも、その後は産学連携へ広がる可能性があります。
自治体には企業と大学をつなぐ役割も期待されます。
自治体には事業を説明する力が必要になる
企業から寄付を集めるためには、自治体が単に寄付をお願いするだけでは十分ではありません。
なぜその大学と連携するのか。
どのような地域課題を解決するのか。
寄付金によって何を実現するのか。
その結果、地域にどのような変化が生まれるのか。
こうした内容を企業へ具体的に説明する必要があります。
例えば大学の研究施設を整備したいというだけではなく、その施設によって地域企業との共同研究を増やし、新産業を育てるといった目的まで示すことが重要です。
企業が事業の社会的な意義を理解できれば、寄付を検討しやすくなります。
結論
企業版ふるさと納税は、企業が自治体の地方創生事業へ寄付し、法人関係税について税制上の優遇を受ける仕組みです。
大学への直接寄付とは異なり、寄付先は自治体です。
自治体が大学と連携した人材育成や研究開発、産業振興などを地方創生事業として進めることで、企業版ふるさと納税を大学との連携に活用できます。
企業にとっては、税負担を一定程度軽減しながら地域の教育や研究、人材育成を支援できる可能性があります。
大学にとっては、自治体を通じて新しい企業との接点を持つことができます。
自治体にとっては、企業の資金と大学の知識や人材を地域課題の解決へ結び付けることができます。
重要なのは、大学への資金提供だけを目的にしないことです。
大学の教育や研究を地域産業の振興、若者の定着、新しい雇用の創出などにつなげることで、企業版ふるさと納税の地方創生という目的が生きてきます。
企業、自治体、大学の三者を結び付けることができれば、企業版ふるさと納税は地域の将来を支える人材や研究への投資手段になります。
参考
日本経済新聞 2026年8月18日 朝刊 大学、個人寄付呼び込む ふるさと納税活用し文化醸成