大学にとって卒業生は、学位を授与した時点で関係が終わる存在ではありません。
卒業後、企業や官公庁で働く人もいれば、経営者や研究者、専門職として活躍する人もいます。海外で仕事をする人や、自ら会社を起こす人もいます。
こうした卒業生とのつながりを大学の重要な資産として捉える考え方が広がっています。
その中心にあるのがアルムナイです。
アルムナイとは卒業生を意味しますが、単なる卒業者名簿という意味ではありません。
大学と卒業生、卒業生同士が長期的につながり、教育や研究、就職支援、寄付などを通じて大学を支えるネットワークとして捉えることができます。
少子化によって授業料収入への依存が難しくなるなか、大学が卒業生との関係をどのように築き、寄付などの支援につなげられるかが重要になっています。
アルムナイとは何か
アルムナイとは、一般に学校などの卒業生を意味します。
大学では、卒業生のネットワーク全体をアルムナイネットワークと呼ぶことがあります。
従来、日本の大学では卒業生との関係を同窓会が担うことが多くありました。
同窓会名簿を管理したり、卒業生の交流会を開催したり、大学祭や記念行事に卒業生を招いたりします。
しかし、現在のアルムナイとの関係は、それだけにとどまりません。
大学が卒業生へ研究成果や大学の近況を継続的に発信したり、卒業生が学生の就職相談に乗ったり、企業との共同研究を仲介したりすることもあります。
卒業生が大学の教育や研究を支援する寄付も、その関係の一つです。
大学にとってアルムナイは、資金だけではなく知識、人脈、経験を提供してくれる重要な支援者になります。
卒業後も大学との関係を維持する
大学が卒業生から寄付を集めようとしても、卒業後何十年も連絡を取っていなかった人に突然寄付を求めて簡単に応じてもらえるわけではありません。
そのため重要になるのが、卒業後も関係を維持することです。
例えば大学の広報誌やメールなどを通じて、大学の教育や研究について定期的に情報を届けます。
新しい研究施設が完成したことや、学生が国際大会で活躍したこと、研究成果が社会で実用化されたことなどを伝えることができます。
卒業生向けの講演会やホームカミングデーなどを開催し、キャンパスを訪れる機会をつくる方法もあります。
こうした接点が積み重なることで、卒業生は大学の現在を知ることができます。
自分が学生だった頃の大学ではなく、現在どのような教育や研究を行っている大学なのかを理解してもらうことが、将来の支援につながります。
同窓会とアルムナイ戦略は少し違う
同窓会とアルムナイネットワークは重なる部分が多くあります。
ただし、大学経営の視点から考えると役割は少し異なります。
同窓会は卒業生同士の親睦や交流を中心とする組織として発展してきました。
一方、大学のアルムナイ戦略では、卒業生と大学との関係を継続的に管理し、大学の教育や研究、学生支援などにもつなげていきます。
例えば企業で働く卒業生が、在学生に仕事について説明することがあります。
経営者となった卒業生が学生のインターンシップを受け入れることもできます。
研究者となった卒業生が母校との共同研究を始めることもあります。
そして、大学の活動に共感した卒業生が寄付をする場合もあります。
卒業生との関係を単なる交流ではなく、大学と卒業生が互いに価値を提供する関係へ発展させることがアルムナイ戦略の特徴です。
卒業生は寄付をする可能性が高い
大学が寄付を集める場合、卒業生は重要な対象になります。
大学との接点がまったくない人と比べれば、卒業生には大学で学んだ経験があります。
授業を受け、友人をつくり、クラブやサークルに参加し、就職活動を経験した場所でもあります。
大学時代に良い経験をした人であれば、母校への愛着を持っている可能性があります。
社会人として経済的な余裕が生まれたとき、自分が受けた教育を次の世代へ返したいと考える人もいます。
例えば奨学金への寄付なら、経済的に困難な後輩を支援できます。
研究基金への寄付なら、自分が学んだ研究分野を支援できます。
卒業生にとって母校への寄付は、自分の経験と結び付けやすい寄付先の一つです。
最初から大口寄付を求める必要はない
大学への寄付というと、富裕層から数千万円や数億円を集めるイメージがあります。
しかし、すべての卒業生が大口寄付をできるわけではありません。
むしろ重要なのは、若い時期から少額でも寄付を経験してもらうことです。
例えば卒業後数年の人が毎年三千円や五千円を寄付するとします。
一回の金額は大きくありません。
しかし、それを十年、二十年と続ければ、大学との関係も継続します。
その人が昇進したり、企業経営者になったりして経済的な余裕が大きくなれば、将来寄付額が増える可能性があります。
寄付を一回限りの取引として考えるのではなく、卒業生との長期的な関係の一部として考えることが重要です。
少額寄付を継続寄付へ育てる
大学にとって安定した寄付収入をつくるには、継続寄付が重要です。
例えば毎年一万人から一万円ずつ寄付してもらえれば、一年間で一億円になります。
これが毎年続けば、大学にとって一定の予測が可能な財源になります。
そのためには寄付した人に、寄付後も大学の活動を伝える必要があります。
奨学金への寄付であれば、何人の学生を支援できたのかを報告します。
研究への寄付であれば、研究がどのように進展したのかを伝えます。
寄付者が自分のお金が役立っていると実感できれば、翌年も支援しようと考えやすくなります。
寄付、成果報告、共感、再寄付という循環をつくることが重要です。
寄付以外にも大学を支援できる
アルムナイとの関係を寄付だけで考える必要はありません。
卒業生には様々な形で大学を支援してもらうことができます。
例えば企業で働く卒業生が在学生の就職相談に乗ることができます。
卒業生が講師として授業に参加し、実務経験を学生に伝えることもできます。
経営者であれば、自社でインターンシップを受け入れることもできます。
大学の研究者と企業をつなぎ、共同研究を始めるきっかけをつくる卒業生もいるでしょう。
こうした関係を続けているうちに、大学への理解や愛着が深まり、結果として寄付につながることがあります。
最初から寄付だけを求めるより、様々な形で大学との関係を持ってもらう方が、長期的な支援者を育てやすくなります。
卒業生同士のつながりにも価値がある
アルムナイネットワークには、大学だけではなく卒業生側にもメリットがあります。
例えば異なる業界で働く卒業生同士が知り合えば、新しいビジネスにつながる可能性があります。
若い卒業生が先輩からキャリアについて助言を受けることもできます。
海外で働く卒業生同士が現地でネットワークをつくることもできます。
大学がこうした交流の場を提供すれば、卒業生にとって大学との関係を維持する意味が生まれます。
大学から一方的に寄付を求める関係ではなく、大学と卒業生の双方にメリットがある関係をつくることが重要です。
アルムナイネットワークが活発になれば、その中から大学の教育や研究を積極的に支援する人も現れます。
ふるさと納税も再接点になる
大学支援型のふるさと納税も、卒業生との関係をつくり直す方法の一つです。
卒業後長期間大学と接点がなかった人でも、ふるさと納税の返礼品をきっかけに母校へ再び関心を持つ可能性があります。
学生食堂の食事券や大学で開催される講演、大学の教育や研究から生まれた商品などは、卒業生に大学を思い出してもらうきっかけになります。
最初は返礼品に興味を持って寄付したとしても、その後大学の活動を知り、直接寄付や継続寄付へ進む可能性があります。
ふるさと納税を単なる資金調達手段ではなく、卒業生と大学を再びつなぐ入口として活用することもできます。
卒業生の数そのものが大学の資産になる
大学は毎年卒業生を送り出します。
一学年五千人が卒業する大学であれば、二十年間で十万人の卒業生が生まれます。
この人たちとの関係が卒業と同時に切れてしまえば、大学にとって大きな機会を失うことになります。
一方、卒業後も関係を維持できれば、十万人規模の支援者ネットワークを形成できます。
その中には企業経営者や研究者、専門家、地域のリーダーなど様々な人がいます。
寄付だけではなく、人材紹介、就職支援、共同研究、起業支援など多くの形で大学に貢献してもらえる可能性があります。
大学にとって卒業生の数は、単なる過去の卒業者数ではありません。
関係を維持できれば、将来の大学を支える人的な資産になります。
結論
大学が卒業生から寄付を集める背景には、アルムナイとの長期的な関係があります。
アルムナイとは単に卒業生を意味するだけではなく、大学と卒業生、卒業生同士がつながるネットワークとして捉えることができます。
大学にとって卒業生は、寄付をしてくれる可能性があるだけの存在ではありません。
学生の就職支援、インターンシップ、共同研究、起業支援など、様々な形で大学を支えることができます。
その関係の延長線上に寄付があります。
重要なのは、卒業した直後から大口寄付を求めることではありません。
少額寄付や大学行事への参加などを通じて関係を維持し、大学が社会にどのような価値を提供しているのかを継続的に伝えることです。
少子化によって学生数が減少するなか、大学にとって卒業生はますます重要な存在になります。
大学が持つ最大の資産の一つは、建物や土地だけではありません。
何十年にもわたって社会へ送り出してきた卒業生とのつながりも、大学の将来を支える重要な資産です。
参考
日本経済新聞 2026年8月18日 朝刊 大学、個人寄付呼び込む ふるさと納税活用し文化醸成