米国の有力大学には、数兆円規模に達する巨額の資産を保有する大学があります。
こうした大学が持つ重要な財産の一つがエンダウメントです。
エンダウメントとは、卒業生や富裕層などから受けた寄付を中心として形成された基金を長期的に運用し、その運用収益を教育や研究、奨学金などに利用する仕組みです。
寄付された資金をその年にすべて使うのではありません。
元本を長期間維持しながら資産運用を行い、そこから生まれた収益の一部を毎年大学運営に使います。
この仕組みによって、現在の寄付を将来の学生や研究者のためにも利用できます。
少子化によって授業料収入への依存が課題となる日本の大学にとっても、エンダウメントという考え方は重要になっています。
エンダウメントとは何か
エンダウメントは、大学などが長期的に保有する基金を意味します。
日本語では大学基金や寄付基金などと表現されることがあります。
ただし、単に寄付金を積み立てておくだけではありません。
大きな特徴は、長期的な資産運用を前提としていることです。
例えば卒業生から一億円の寄付を受けたとします。
その一億円をすぐに教育や研究へ使えば、その時点では大きな支援になりますが、資金はなくなります。
一方、一億円を基金として保有し、長期的に運用すれば、そこから毎年収益を得られる可能性があります。
その収益の一部を奨学金や研究費に利用しながら、基金そのものは将来へ残します。
現在の寄付を何十年にもわたって大学の活動に生かすことが、エンダウメントの基本的な考え方です。
寄付金を運用する仕組み
エンダウメントでは、集めた資金を様々な資産に投資します。
現金や預金だけではなく、債券や株式などを組み合わせて運用します。
大規模なエンダウメントでは、さらに幅広い資産へ分散投資する場合があります。
大学が長期的に存続することを前提とすれば、基金についても数十年という長い時間軸で運用できます。
個人の場合、老後には運用資産を取り崩す必要があります。
一方、大学は特定の年齢で活動を終える組織ではありません。
将来にわたって教育や研究を続けることが前提です。
そのため、短期的な値動きだけに左右されず、長期的な収益を目指す運用が可能になります。
ここが個人の資産運用との大きな違いです。
運用益をすべて使うわけではない
エンダウメントでは、運用によって利益が出たからといって、その利益をすべて大学運営に使うわけではありません。
大学は毎年一定のルールに基づいて基金から資金を取り崩します。
例えば基金残高に対して一定割合を教育や研究などへ支出し、残りは基金の中に残します。
基金を長期間維持するためには、物価上昇への対応も必要です。
百億円の基金を長期間百億円のまま維持しても、物価が上昇すれば実質的な価値は低下します。
そのため運用収益の一部を再投資し、基金そのものの実質的な価値を維持する必要があります。
現在の学生だけに基金を使い切るのではなく、将来の学生にも同じような恩恵を残すという考え方です。
奨学金の重要な財源になる
エンダウメントの代表的な使い道が奨学金です。
大学の授業料が高くなれば、家庭の経済力によって進学できる大学が左右されやすくなります。
そこで大学が独自の奨学金を充実させます。
基金の運用収益を奨学金へ回すことができれば、毎年一定数の学生を継続的に支援できます。
例えば卒業生が、自分と同じように経済的な事情を抱える学生を支援したいと考えて寄付することがあります。
その寄付を基金として長期運用すれば、一人の卒業生からの寄付によって将来の複数世代の学生を支援することも可能になります。
エンダウメントには、世代を超えて教育機会を支える役割があります。
研究にも長期資金が必要になる
エンダウメントは研究活動にも利用されます。
研究の中には、短期間では成果が出ないものがあります。
特に基礎研究では、実用化まで何十年もかかる場合があります。
外部の研究資金だけに依存すると、資金提供者が重視する分野や研究期間などの影響を受けることがあります。
大学自身が大きな基金を持っていれば、大学の判断によって長期的な研究を支援できます。
若手研究者へ研究費を提供したり、新しい研究分野へ先行投資したりすることも可能になります。
基金が大きいほど、大学が独自の研究戦略を進める余地も広がります。
エンダウメントは財務上の資産であると同時に、大学の教育や研究の自由度を支える資産でもあります。
米国大学でエンダウメントが発達した理由
米国の大学でエンダウメントが大きく発達した背景には、寄付文化があります。
大学を卒業した後も母校との関係を維持し、寄付によって大学を支援する卒業生が数多く存在します。
少額の寄付を毎年続ける人もいれば、企業経営などで大きな資産を築いた後に巨額の寄付をする人もいます。
さらに生前の寄付だけではなく、遺言によって大学へ財産を残すこともあります。
こうした寄付が長期間にわたって積み上がり、巨大な基金へ成長してきました。
重要なのは、一人の富裕層によって突然巨大な基金ができたわけではないことです。
卒業生との関係づくりや寄付募集、基金運用を何十年、場合によっては百年以上続けてきた結果として大規模なエンダウメントが形成されています。
巨額の基金がさらに寄付を呼ぶ
大きなエンダウメントを持つ大学には、資金面で好循環が生まれる可能性があります。
基金の運用収益によって優秀な研究者を採用したり、研究設備を整備したり、学生への奨学金を充実させたりできます。
教育や研究の水準が高まれば、優秀な学生が集まります。
その卒業生が社会で活躍すれば、将来の寄付者になる可能性があります。
寄付によって基金が増え、基金によって教育や研究が充実し、その結果として新しい寄付者が育つという循環です。
大学にとってエンダウメントは、単に金融資産を増やす仕組みではありません。
教育や研究への投資と寄付を循環させる基盤になります。
日本の大学との違い
日本でも大学基金を設け、寄付を集めている大学は少なくありません。
しかし、米国の有力大学と比べると、寄付金の規模や基金の蓄積には大きな差があります。
背景の一つが寄付文化の違いです。
日本では大学への寄付が、米国ほど一般的な行動として定着しているとはいえません。
大学を卒業すると、母校との関係が薄くなる人も少なくありません。
大学側も従来は授業料や補助金などを中心として経営してきたため、卒業生から継続的に寄付を集める体制が十分に整っていないケースがあります。
エンダウメントを形成するためには、まず寄付をする人を増やす必要があります。
そのため、ふるさと納税を利用した大学支援やインターネット寄付など、寄付への入口を増やす取り組みにも意味があります。
日本でも資産運用の重要性が高まる
日本の大学でも、寄付金を集めるだけではなく、保有する資産をどのように運用するかが重要になります。
ただし、資産運用にはリスクがあります。
株式などへ投資すれば、市場の下落によって基金の評価額が大きく減る可能性があります。
一方、安全性だけを重視して低い利回りの資産に集中すれば、物価上昇によって基金の実質的な価値が低下することがあります。
そのため大学には、長期的な運用方針、資産分散、リスク管理、運用状況の監督などが必要になります。
エンダウメントを大きくするには、寄付を集める能力だけではなく、集めた資金を適切に管理し運用する能力も求められます。
日本がそのまま米国型を目指す必要はない
米国の大学が巨大なエンダウメントを持っているからといって、日本の大学が同じ仕組みをそのまま目指す必要があるとは限りません。
寄付文化や大学制度、授業料、税制などの環境が異なるからです。
重要なのは、日本の大学に合った資金循環をつくることです。
例えば卒業生から一度に巨額の寄付を集めることが難しければ、多くの卒業生から少額の継続寄付を集める方法があります。
ふるさと納税を通じて初めて大学を支援した人を、その後の直接寄付につなげることもできます。
企業との共同研究や法人寄付、遺贈寄付などを組み合わせる方法もあります。
こうした資金を長期間積み上げ、適切に運用することができれば、日本でも大学独自の安定財源を徐々に形成することができます。
結論
大学のエンダウメントとは、寄付などによって形成した基金を長期的に運用し、その運用収益を教育や研究、奨学金などへ継続的に活用する仕組みです。
寄付金をその年に使い切るのではなく、基金として将来へ残すことによって、一度の寄付を何世代もの学生や研究者の支援につなげることができます。
米国の有力大学では、長年にわたる卒業生からの寄付と資産運用によって巨額のエンダウメントが形成されてきました。
その運用収益が教育や研究を充実させ、大学の価値を高め、それがさらに寄付を呼ぶという循環も生まれています。
日本では米国ほど大学への寄付文化が広がっておらず、基金の規模にも大きな違いがあります。
しかし少子化によって授業料収入への依存が難しくなるなか、寄付を集め、それを将来へ残し、長期的に活用するという考え方の重要性は高まっています。
エンダウメントは単なる資産運用ではありません。
現在の卒業生や支援者の資金を、まだ大学に入学していない将来世代の教育や研究へ届けるための仕組みです。
参考
日本経済新聞 2026年8月18日 朝刊 大学、個人寄付呼び込む ふるさと納税活用し文化醸成