企業は長く経営を続けていると、さまざまな事業を持つようになります。
本業の周辺分野へ進出することもあれば、新しい成長分野を求めて全く異なる事業を始めることもあります。
M&Aによって複数の事業をまとめて取得することもあります。
こうして事業が増えていくと、その会社の成長戦略の中心となる事業と、中心から外れた事業が混在するようになります。
後者をノンコア事業と呼ぶことがあります。
ノンコア事業というと、赤字事業や不要な事業という印象を持つかもしれません。
しかし、ノンコア事業は必ずしも赤字ではありません。
利益を出している優良事業でも、その企業が持つ意味が小さくなればノンコア事業になることがあります。
事業ポートフォリオ改革では、黒字か赤字かだけではなく、なぜ自社がその事業を持つ必要があるのかが問われています。
コア事業とは何か
ノンコア事業を理解するには、まずコア事業を考える必要があります。
コア事業とは、企業の競争力や成長戦略の中心となる事業です。
たとえば、その会社が持つ独自技術を最大限に生かせる事業があります。
長年築いてきたブランドが競争力になる事業もあります。
顧客基盤や販売網を利用できる事業もあります。
重要なのは、その会社が事業を行うことによって他社より高い価値を生み出せるかどうかです。
同じ事業でも、企業によってコア事業になる場合とノンコア事業になる場合があります。
企業の歴史ではなく、現在と将来の経営戦略との関係で判断する必要があります。
ノンコア事業とは何か
ノンコア事業とは、企業の中核的な経営戦略との関連性が低くなった事業です。
たとえば製造業の会社が、本業との関連性がほとんどないサービス事業を持っている場合があります。
そのサービス事業が利益を出していたとしても、
製造業の技術を利用していない
顧客を共有していない
販売網も共有していない
将来の成長戦略とも関係が薄い
のであれば、ノンコア事業と判断される可能性があります。
ノンコアという言葉は、その事業自体の良し悪しを表しているわけではありません。
その会社にとって中核的な事業なのかどうかを表しています。
昔の多角化経営とは何か
企業がノンコア事業を多く持つようになった背景の一つに多角化経営があります。
一つの事業だけに依存すると、その市場が縮小したときに会社全体が大きな影響を受けます。
そこで本業で稼いだ資金を使い、別の業界へ進出する企業がありました。
製造業が不動産事業へ進出する。
小売業が金融事業を始める。
商社が幅広い業界へ投資する。
多角化には経営を安定させるメリットがあります。
一つの事業が不振でも、別の事業の利益で補うことができます。
そのため、多角化そのものが問題なのではありません。
事業環境が変わればコアも変わる
重要なのは、コア事業とノンコア事業の区分が固定されているわけではないことです。
30年前には会社の中心だった事業でも、市場が縮小すれば位置付けが変わることがあります。
反対に、小さな新規事業として始めた事業が急成長し、将来のコア事業になる場合もあります。
たとえば企業がデジタル関連事業を小規模に始めたとします。
当初は本業を補助する事業にすぎなかったとしても、10年後に会社最大の成長分野になるかもしれません。
その一方で、かつての主力事業が成熟し、利益率も低下している可能性があります。
企業は定期的に、
何が現在のコア事業なのか
何を将来のコア事業にするのか
を見直す必要があります。
低収益事業を残す問題
ノンコア事業が問題になりやすい理由の一つが資本効率です。
たとえばノンコア事業に500億円の資本を投入しているとします。
その事業から得られる年間利益が10億円しかないとします。
一方、成長事業に500億円を追加投資すれば年間50億円の利益を期待できるとします。
会社が使える資本には限りがあります。
それでもノンコア事業に500億円を置き続ければ、成長事業へ投資する機会を失うことになります。
会計上は黒字でも、資本配分として最適ではない可能性があります。
人材もノンコア事業に使われている
企業が事業に投入しているのは資金だけではありません。
人材も重要な経営資源です。
ノンコア事業にも、
経営幹部
営業担当者
技術者
経理担当者
IT担当者
など多くの人材が配置されています。
特に経営陣の時間は限られています。
小規模なノンコア事業でも問題が頻繁に発生すれば、経営会議や取締役会で多くの時間を使うことになります。
その時間を成長事業の戦略に使えたかもしれません。
ノンコア事業を整理する意味は、資金を回収することだけではありません。
限られた人材や経営者の時間を重要な事業へ集中させる意味もあります。
黒字なら残せばよいとは限らない
企業経営では、
黒字だから売る必要はない
という判断が行われることがあります。
確かに赤字事業に比べれば、黒字事業を急いで整理する必要性は感じにくくなります。
しかし投資家が見るのは利益の有無だけではありません。
その利益を生み出すために、どれだけの資本を使っているのかも重要です。
1000億円を投入して20億円を稼ぐ事業と、1000億円を投入して150億円を稼ぐ事業では資本効率が大きく違います。
限られた1000億円をどちらに配分するのか。
これが事業ポートフォリオ経営の重要な判断になります。
売却すると事業が成長する場合もある
ノンコア事業の売却は、その事業を捨てることと同じではありません。
売却先の会社では、その事業がコア事業になる場合があります。
たとえばA社にとっては小さな周辺事業でも、B社にとっては主力事業と強いシナジーがあるかもしれません。
B社なら、
販売網を利用できる
技術を組み合わせられる
顧客を共有できる
より多くの投資資金を投入できる
という可能性があります。
その場合、A社が持ち続けるよりB社へ売却した方が、その事業自体が成長することもあります。
誰が持つことで事業価値を最大化できるのかという視点が重要になります。
事業ポートフォリオ改革とは何か
事業ポートフォリオとは、企業が持つ複数の事業の組み合わせです。
事業ポートフォリオ改革では、
どの事業を伸ばすのか
どの事業を維持するのか
どの事業を縮小するのか
どの事業を売却するのか
を継続的に見直します。
重要なのは、売却だけではありません。
ノンコア事業を売却して得た資金を成長事業へ再投資するところまで含めて考える必要があります。
たとえば1000億円でノンコア事業を売却し、その1000億円を成長分野へ投資します。
すると会社全体の売上高は一時的に減ったとしても、将来の利益成長率や資本効率が高まる可能性があります。
会社の大きさより、会社が生み出す価値を重視する考え方です。
アクティビストがノンコア事業を見る理由
アクティビストは企業を分析するとき、会社全体の利益だけを見るわけではありません。
事業別の収益性にも注目します。
この事業はなぜ必要なのか。
他の事業とのシナジーはあるのか。
投入資本に見合う利益を生み出しているのか。
売却すればいくらの資金を回収できるのか。
その資金を別の事業へ投入すれば、もっと高い収益を生み出せないか。
こうした分析を行います。
その結果、ノンコア事業の売却が企業価値向上につながると判断すれば、経営陣に改革を求めます。
昔から持っているという説明では足りない
企業が事業を長期間持ち続けていると、その存在が当たり前になります。
創業以来続けている。
過去の経営者が始めた。
取引先との関係がある。
多くの従業員が働いている。
こうした事情は重要です。
しかし資本市場では、それだけで事業を保有し続ける合理的な理由にはなりにくくなっています。
経営陣には、
なぜ現在もこの事業を自社が持つ必要があるのか
という説明が求められます。
歴史ではなく、将来の企業価値との関係で説明する必要があります。
ノンコア事業を機械的に売ればよいわけではない
一方で、ノンコア事業と判断されたものをすべて売却すればよいわけでもありません。
現在の利益は小さくても、将来の成長事業になる可能性があります。
本業の顧客を維持するために必要な事業もあります。
技術開発の基盤として重要な場合もあります。
複数の事業を組み合わせることで大きなシナジーが生まれている可能性もあります。
そのため重要なのは、
ノンコアだから売る
という機械的な判断ではありません。
保有する場合も売却する場合も、企業価値を高めるという基準で判断することです。
結論
ノンコア事業とは、単なる赤字事業や不要な事業ではありません。
企業の現在や将来の中核戦略との関連性が低くなった事業です。
利益を出している事業でもノンコアになる場合があります。
問題になるのは、その事業を持ち続けることで資金、人材、経営陣の時間といった限られた経営資源が使われることです。
その資源を成長事業へ移した方が大きな価値を生み出せるのであれば、事業売却が合理的な選択になる可能性があります。
だからこそ事業ポートフォリオ改革では、
赤字だから売る
黒字だから残す
という単純な判断では足りません。
なぜ自社がこの事業を持つのか。
他社ではなく自社が持つことでどのような価値を生み出しているのか。
限られた資本をこの事業へ投入することが最も合理的なのか。
企業には、この問いを繰り返すことが求められます。
ノンコア事業の問題とは、不要な事業を処分する話ではありません。
会社が将来どの事業で成長するのかを決め、そのために経営資源をどこへ集中させるのかという経営戦略そのものの問題なのです。
参考
日本経済新聞 2026年8月31日 朝刊 日本企業の準備不十分 影響強めるアクティビスト