人口減少が自治体財政に与える影響というと、まず住民税の減少が思い浮かびます。
住民が減れば、個人住民税を負担する人も減る可能性があるからです。
しかし、人口減少の影響は住民税だけではありません。
企業活動が縮小すれば法人関係の税収にも影響します。
住宅や土地の需要が弱まれば、長期的には固定資産税の税源にも変化が生じる可能性があります。
さらに事業所税では、人口減少によって都市そのものが課税団体の要件を満たさなくなり、税源そのものを失うケースまで現れています。
一方、人口が減ったからといって、道路や上下水道などのインフラ維持費が同じ割合で減るわけではありません。
人口減少時代の自治体財政では、税収の減少と支出を減らしにくいという二つの問題を同時に考える必要があります。
個人住民税は人口減少の影響を受けやすい
地方税の中でも、人口との関係が分かりやすいのが個人住民税です。
個人住民税は、一定の所得がある住民が自治体へ負担する税金です。
そのため、人口が減少し、納税者となる住民が減れば、税収にも下押し圧力がかかります。
特に影響が大きいのが生産年齢人口の減少です。
人口が同じ割合で減ったとしても、働いて所得を得る現役世代が大きく減少すれば、住民税の税源は弱くなりやすくなります。
若年層が進学や就職を機に大都市へ転出する地域では、人口減少だけでなく納税者層の流出という問題も抱えることになります。
人口が減れば必ず住民税収が同じ割合で減るわけではない
もっとも、人口が1%減れば住民税収も必ず1%減るという単純な関係ではありません。
個人住民税は所得にも左右されるからです。
人口が減っても、一人当たりの所得が上昇すれば税収減少をある程度補える可能性があります。
賃上げが進めば、納税者数が減少しても一人当たりの住民税額が増えることがあります。
反対に、人口がそれほど減っていなくても、地域経済が低迷して所得が減少すれば住民税収は弱くなる可能性があります。
したがって、自治体財政を考えるときには、人口の数だけでなく年齢構成、雇用、所得水準まで見る必要があります。
企業が減れば法人関係の地方税にも影響する
人口減少は企業活動にも影響します。
地域の消費者が減れば、小売業やサービス業などの市場が縮小します。
働き手が減少すれば、人材確保が難しくなります。
その結果、企業が事業を縮小したり、別の地域へ拠点を移したりすることも考えられます。
企業活動が縮小すれば、法人住民税や法人事業税などの地方税収にも影響します。
つまり、人口減少は個人住民税を直接減らすだけではありません。
地域経済を通じて企業関係の税収にも波及する可能性があります。
事業所税では課税団体そのものから外れることがある
人口減少と地方税の関係を象徴するのが事業所税です。
事業所税は東京都区部や政令指定都市などのほか、一定の人口要件を満たす都市などで課税されます。
人口30万人という基準が重要な意味を持っています。
2026年には秋田市と福岡県久留米市が要件を満たさなくなり、課税団体の指定から外れました。
これによって事業所税の課税団体は77団体から75団体へ減少しました。
ここでは、人口減少によって税収が少しずつ減るだけではありません。
一定の人口基準を下回ることで、その税金を課税する資格そのものを失うという問題が生じています。
事業所税は全国で4000億円を超える税収がある
事業所税は一般にはあまり知られていませんが、課税団体にとって重要な財源です。
令和6年度決算額では、全国の事業所税収は資産割が2807億円、従業者割が1298億円でした。
合計すると4105億円です。
事業所税は道路や上下水道などの都市環境の整備や改善に充てる目的税です。
そのため、課税団体から外れる自治体では、単に一つの地方税収を失うだけではありません。
都市インフラを支えるために使ってきた財源が失われることになります。
人口減少が地方税制そのものの適用範囲を変えてしまう例といえます。
固定資産税は人口減少と少し違う動きをする
固定資産税は、住民税とは人口減少の影響の受け方が異なります。
固定資産税は土地、家屋、償却資産などに対して課税されるため、人口が減ったからといって直ちに税収が同じ割合で減るわけではありません。
人口が減っても住宅や工場などの固定資産が存在していれば、課税対象そのものは残ります。
そのため、人口減少の初期段階では、個人住民税などと比較すると税収が急激には減少しにくい面があります。
自治体にとって固定資産税が重要な基幹税となっている理由の一つでもあります。
しかし、長期的には人口減少の影響を免れるわけではありません。
土地や住宅の需要低下は固定資産税にも影響する
人口が長期的に減少すると、住宅や土地への需要が低下する地域が出てきます。
空き家や空き地が増え、不動産市場が縮小すれば、土地や家屋の価値にも影響する可能性があります。
企業が撤退して工場や店舗が減れば、事業用資産の税源も弱くなることがあります。
また、建物が老朽化して取り壊され、新しい建物が建設されなければ、家屋に対する固定資産税の税源も縮小します。
固定資産税は人口減少によってすぐになくなる税金ではありませんが、地域経済や不動産市場を通じて長期的な影響を受けることになります。
税収が減っても道路は同じ割合で減らない
人口減少時代の自治体財政で最も難しい問題が、税収と行政コストの減り方が一致しないことです。
例えば、人口が10%減少したからといって、道路を10%廃止できるわけではありません。
上下水道の管路を10%短くできるわけでもありません。
学校、消防、行政庁舎などについても、人口減少と同じ割合で直ちに縮小することは困難です。
特に道路や上下水道などのインフラは、整備した後も維持管理や更新が必要になります。
人口が減るほど、少ない住民で既存インフラを支える構造になっていきます。
一人当たりのインフラ維持負担が重くなる
例えば、ある都市のインフラ維持費が年間100億円だったとします。
人口が20万人であれば、単純に人口で割ると一人当たり5万円です。
人口が10万人へ半減しても、インフラ維持費が100億円から50億円へ簡単に半減するとは限りません。
仮に維持費が80億円までしか減らなければ、一人当たりでは8万円になります。
これは単純化した例ですが、人口減少社会のインフラ問題をよく表しています。
人口が減れば行政需要も減るという面はありますが、固定的な費用が多い分野では一人当たり負担が重くなる可能性があります。
税収減と社会保障需要が同時に進むこともある
人口減少は高齢化と同時に進む地域が多いという特徴があります。
現役世代が減少すれば、住民税などの税源が弱くなる可能性があります。
一方、高齢者の割合が高まれば、福祉、介護、移動支援などの行政需要が増えることがあります。
つまり、人口が減少するから自治体の支出も自然に減少するとは限りません。
税収を生み出す現役世代が減る一方で、行政サービスへの需要が高い住民の割合が増える可能性があります。
人口の総数だけでなく、人口構成の変化が自治体財政に大きな影響を与えます。
自治体間で税収格差が広がる可能性もある
人口減少は全国一律に進むわけではありません。
人口流入が続く大都市もあれば、急速な人口減少に直面する地方都市もあります。
企業や若い世代が集まる地域では、住民税や法人関係税などの税源を維持しやすくなります。
一方、人口と企業の両方が流出する地域では、複数の地方税が同時に弱くなる可能性があります。
さらに、事業所税のように人口基準によって課税団体から外れる制度があれば、人口減少地域ほど財源を失うことになります。
人口減少が自治体間の財政力格差を拡大させる可能性も考える必要があります。
人口を増やすだけでは解決できない時代になる
これまで自治体の人口減少対策では、移住促進や子育て支援、企業誘致などによって人口を増やすことが重視されてきました。
もちろん、人口や企業を維持する取り組みは重要です。
しかし、日本全体の人口が減少するなかで、すべての自治体が人口を増やし続けることは現実的ではありません。
これからは人口減少を止める政策だけでなく、人口が減少しても行政サービスを維持できる財政構造を作ることが必要になります。
公共施設の統廃合、インフラの集約、行政のデジタル化、自治体間の広域連携なども重要になります。
地方税制についても、人口減少を前提として考える時代に入っています。
結論
人口減少が自治体財政に与える影響は、個人住民税の減少だけではありません。
働く世代が減れば個人住民税の税源が弱くなり、地域経済が縮小すれば法人関係の地方税にも影響します。
固定資産税は人口減少の影響が比較的ゆっくり表れる税金ですが、長期的には土地や住宅の需要低下、空き家の増加、企業撤退などを通じて税源が変化する可能性があります。
さらに事業所税では、人口30万人という基準を下回ることで、自治体が課税団体そのものから外れるケースが現れています。
一方、人口が減っても道路、上下水道、公共施設などを同じ割合で減らすことはできません。
税収が減る一方で、既存インフラの維持費は残り、一人当たりの負担が重くなる可能性があります。
人口減少時代の地方財政で重要なのは、人口を増やす方法だけを考えることではありません。
人口が減少することを前提として、限られた税収でどの都市機能を残し、どのように行政サービスを維持するのかを考えることです。
事業所税の課税団体減少は、その大きな課題が地方税の世界でも現実になり始めたことを示しています。
参考
税のしるべ 2026年8月10日 事業所税の課税団体が減少、人口減で30万人以上の要件を満たせず