日本の農業では、農業者の高齢化と減少が急速に進んでいます。
現在は農家が耕している田んぼや畑でも、その農家が高齢になって農業をやめれば、数年後には耕す人がいなくなる可能性があります。
そこで重要になるのが、現在誰が農地を耕しているのかだけではなく、将来誰がその農地を利用するのかをあらかじめ考えておくことです。
そのためにつくられるのが地域計画です。
地域計画は、おおむね10年後を見据え、地域の農地を誰が利用していくのかを地域で話し合い、将来の農地利用の姿を明確にする仕組みです。
企業による農業参入が増えていくなか、地域計画は農家だけの問題ではなく、新しい担い手を地域へ呼び込むための重要な仕組みにもなっています。
地域計画とは何か
地域計画は、地域の農業者や関係者が話し合い、将来の農業のあり方や農地利用の姿を明確にするものです。
重要なのは、現在の農地利用だけを見る制度ではないことです。
農業では、一度耕作する人がいなくなって農地が荒れてしまうと、再び農地として利用するために大きな費用と労力が必要になる場合があります。
そのため、農業者が引退してから次の利用者を探すのでは遅いことがあります。
現在の農業者が何年後まで農業を続けるのか。
その後の農地を誰が引き受けるのか。
地域内の農業法人へ集めるのか。
新規就農者を呼び込むのか。
企業に参入してもらうのか。
こうした将来の農地利用について、地域全体で考えるのが地域計画です。
なぜ十年後を考える必要があるのか
農業は、短期間で担い手を交代できる産業ではありません。
農地を借りれば、翌日から誰でも農業ができるわけではないからです。
農業機械や施設を準備し、農業技術を身につけ、人材を確保する必要があります。
地域によっては水利や農道の管理などについて、地域の農業者との協力も必要になります。
企業が農業へ参入する場合にも、事業計画を立て、農地を確保し、設備投資を行うまでには時間がかかります。
だからこそ、農地の担い手がいなくなってから対応するのではなく、10年程度先を見ながら農地利用を考えておく必要があります。
地域計画は、農業者の引退と次の担い手への交代を事前に準備する仕組みと考えることができます。
将来の農地利用を地図で見える化する
地域計画では、将来の農地利用について地図を使って見える化することが重要になります。
これが目標地図です。
地域には多数の農地があります。
それぞれについて所有者や現在の耕作者が異なり、農地の大きさや形も違います。
文章だけで将来の農地利用を考えても、どの農地を誰が利用するのかを把握することは簡単ではありません。
そこで地図上で農地を確認しながら、将来の利用者を考えていきます。
これによって、特定の担い手が利用する農地をできるだけ近くにまとめることも検討しやすくなります。
地域計画は、農地の担い手を決めるだけではなく、農地の集積や集約を進める基礎にもなるのです。
担い手がいない農地が大きな問題になる
地域計画を作成する過程では、将来誰が利用するのか決まっていない農地も見えてきます。
これが日本農業の大きな課題です。
2025年4月時点の地域計画では、2035年に担い手がいない農地が134万ヘクタールに上るとされています。
全体の3割を超える規模です。
現在は農業者が耕作していても、高齢化によって10年後には農業を続けられない可能性があります。
その農地を引き継ぐ人がいなければ、耕作されなくなるおそれがあります。
地域計画によって将来の農地利用を見える化すると、こうした担い手不足を具体的な農地単位で把握できるようになります。
問題を数字だけではなく、どの地域のどの農地で起きるのかという形で把握できることに意味があります。
地域内の農業者だけでは農地を引き受けきれない
これまで農業では、農家が引退すると近隣の農家が農地を借りて経営規模を拡大することが一般的でした。
しかし、農業者そのものが減少すれば、この方法にも限界があります。
一人の担い手が引き受けられる農地には限度があります。
経営面積を増やすには、農業機械や人員を増やさなければならない場合もあります。
地域内の既存農業者だけでは、将来空いてくる農地をすべて引き受けられない地域が増える可能性があります。
そこで、新規就農者や農業法人、さらに農業を本業としない企業など、地域外から新しい担い手を呼び込むことが重要になります。
地域計画は、農地を守るための計画であると同時に、新しい担い手を探すための計画でもあります。
農地バンクと地域計画は連動する
地域計画を実際の農地利用につなげるうえで重要な役割を担うのが農地バンクです。
農地バンクは、農地を貸したい所有者などから農地を借り受け、担い手へ貸し付ける仕組みです。
地域計画で将来の農地利用の方向性を決めても、それだけでは農地の貸し借りは実現しません。
農地所有者と新しい担い手との間で、実際に農地の利用関係を設定する必要があります。
そこで農地バンクが間に入り、地域計画を踏まえて農地を担い手へつないでいきます。
地域計画が農地利用の設計図だとすれば、農地バンクはその設計図を実際の農地利用へ移す仕組みと考えることができます。
農地の集積と集約にもつながる
地域計画には、農地の集積と集約を進める役割もあります。
農業者が減少するなかでは、残った担い手がより広い農地を耕作する必要があります。
しかし、単純に農地をたくさん借りればよいわけではありません。
農地が各地に点在していれば、農業機械の移動時間や燃料費が増え、生産性が低下します。
地域計画を作成する段階で、どの担い手がどの農地を利用するのかを地域全体で考えれば、できるだけ隣接する農地を同じ担い手へまとめることも可能になります。
農地の集積だけではなく集約を進めるためにも、地域全体を見渡した計画が必要なのです。
企業参入の候補地も見つけやすくなる
地域計画は企業の農業参入とも関係します。
企業が農業へ参入したいと思っても、どの地域に農地があり、将来どれだけ利用できるのかが分からなければ事業計画を立てにくくなります。
一方、自治体側から見れば、将来担い手がいなくなる農地が地域計画によって明確になれば、企業に対して具体的な参入提案ができるようになります。
たとえば、現在は複数の農業者が耕していても、数年後にはまとまった面積が空くことが分かっていれば、その地域へ企業を誘致することも考えられます。
企業にとっても、将来的に農地を拡張できるかどうかは重要な判断材料です。
地域計画による農地利用の見える化は、企業と地域を結び付けるための情報基盤にもなります。
農業参入ポータルとの連携も重要になる
農林水産省は、企業の農業参入を支援するため農業参入ポータルを整備しています。
さらに2026年11月からは、企業が借用可能な農地を検索できるシステムの運用を始める予定です。
そこでは農地の面積だけではなく、農地の集積状況や将来的な拡張可能性なども確認できるようになります。
こうした情報を提供するうえでも、地域計画によって将来の農地利用が整理されていることには大きな意味があります。
企業が全国の農地情報を比較しながら、
どこで農業を始めるのか
どれくらいの面積を確保できるのか
将来さらに規模を拡大できるのか
といった判断をしやすくなります。
地域計画と農地情報のデジタル化が組み合わされれば、企業の農業参入の方法そのものが変わる可能性があります。
地域計画を作っただけでは農地は守れない
ただし、地域計画を作成すれば農地問題が解決するわけではありません。
計画上、将来の利用者が決まっていても、その担い手が実際に農業経営を続けられなければ意味がありません。
大規模化すれば農業機械や人材への追加投資が必要になる場合があります。
また、10年間の間には農業者の引退時期や経営状況も変化します。
新しい企業が参入する可能性もあれば、逆に予定していた担い手が農業から撤退することもあります。
そのため地域計画は、一度作って終わりではなく、地域の状況に応じて見直していくことが重要です。
計画を実際の農地利用につなげ続けることが求められます。
農地政策が現在から未来へ変わる
地域計画の重要な意味は、農地政策の時間軸を変えることにあります。
これまでは、農地が使われなくなった後に新しい利用者を探すという対応になりがちでした。
しかし、農業者の高齢化が急速に進むなかでは、それでは間に合わない地域が増えてきます。
そこで、現在農地を耕している段階から10年後の利用者を考えるようになります。
農地を誰が所有しているのかだけではなく、将来誰が利用するのかを地域全体で考えるわけです。
農業者が減ることを前提として、それでも農地を維持する仕組みをつくるという発想への転換といえます。
結論
地域計画とは、おおむね10年後を見据え、地域の農地を将来誰が利用するのかを地域で話し合い、農地利用の姿を明確にする仕組みです。
背景には、農業者の高齢化と減少があります。
2025年4月時点の地域計画では、2035年に担い手がいない農地が134万ヘクタールに上り、全体の3割を超えるとされています。
現在の農業者だけで将来の農地を維持することが難しくなる以上、農業法人、新規就農者、企業など新しい担い手を取り込む必要があります。
地域計画によって将来の農地利用を見える化し、農地バンクを通じて実際の貸し借りにつなげ、さらに農地の集積や集約を進めていくことが重要になります。
企業にとっても、将来利用できる農地や拡張可能性が分かれば、農業参入の事業計画を立てやすくなります。
農地問題は、農地が足りないという問題だけではありません。
農地はあるのに、それを耕す人がいなくなることが大きな問題です。
地域計画は、10年後にその農地を誰が耕すのかを今から考えることで、日本の農業生産基盤を次の世代へつなぐための重要な仕組みといえます。
参考
日本経済新聞 2026年8月16日 朝刊 企業、農地探しやすく 農水省がサイト、参入を後押し