ビットコインなどの暗号資産は、もともと銀行を介さずに価値を移転できる新しい決済手段として注目されました。
しかし現在では、その役割が大きく変わっています。
商品やサービスの支払いに利用するだけでなく、値上がりを期待して保有する投資対象としての性格が強まっているからです。
こうした変化を受け、日本では暗号資産を金融商品として規制する方向へ制度が大きく変わります。
金融商品取引法による規制が本格化すれば、暗号資産市場には株式市場に近い投資家保護や市場監視の考え方が導入されます。
2028年から予定される税制改正と合わせて見ると、暗号資産は日本の金融制度の中で新たな段階に入ろうとしています。
金融商品取引法とは何か
金融商品取引法は、株式や債券などの金融商品が取引される市場について基本的なルールを定める法律です。
目的の一つが投資家の保護です。
金融商品の取引では、投資家と金融機関の間に情報量や専門知識の差があります。
そのため、金融商品を販売する事業者に一定の説明や情報開示を求め、不公正な取引を規制する必要があります。
もう一つの重要な目的が、公正な市場を維持することです。
一部の人だけが重要な未公開情報を利用して利益を得たり、価格を人為的に動かしたりすれば、市場への信頼が失われます。
こうした行為を規制するための中心的な法律が金融商品取引法です。
暗号資産はこれまでも無規制だったわけではない
暗号資産が金融商品取引法の対象になると聞くと、これまでは規制されていなかったように思えるかもしれません。
しかし、暗号資産取引にはすでに一定の規制があります。
暗号資産交換業者には登録制度が設けられ、利用者の資産管理や本人確認などについてルールがあります。
暗号資産デリバティブについても金融商品取引法による規制があります。
今回重要なのは、投資対象としての暗号資産そのものについて、金融商品として市場規制を強化する方向が明確になったことです。
暗号資産の社会的な位置付けが、決済手段から投資資産へ大きく変化したことが背景にあります。
なぜ暗号資産を金融商品として扱うのか
ビットコインを購入する人の目的を考えると分かりやすいでしょう。
ビットコインを購入して、そのまま日常の買い物に使う人もいます。
しかし、価格上昇を期待して長期間保有する人も少なくありません。
株式や金などと同じように、資産運用の一部として暗号資産を保有するケースが増えています。
投資対象として市場規模が大きくなれば、価格形成の公正性や投資家保護が重要になります。
そのため、暗号資産についても既存の金融市場に近い規制を導入する必要性が高まったわけです。
金融商品になると何が変わるのか
金融商品としての規制が強化されると、暗号資産市場でも取引の公正性を守るためのルールが重要になります。
例えば未公開情報を利用した取引です。
ある暗号資産について価格に大きな影響を与える情報を事前に知った関係者が、その情報が公表される前に売買すれば、一般の投資家との間に大きな不公平が生じます。
株式市場では、こうしたインサイダー取引に厳しい規制があります。
暗号資産についても、同じように市場の公正性を確保する仕組みが導入されます。
相場操縦などの不公正取引も問題になる
市場の公正性を損なうのはインサイダー取引だけではありません。
実際には売買する意思がないのに大量の注文を出して他の投資家を誘導したり、複数の取引を使って取引が活発であるように見せたりする行為なども問題になります。
株式市場では、こうした相場操縦などの不公正取引が規制されています。
暗号資産市場でも価格形成が公正でなければ、一般投資家は安心して参加できません。
金融商品として扱うことには、暗号資産市場にも既存の証券市場で培われてきた市場規律を導入する意味があります。
投資家への情報提供も重要になる
金融商品へ投資するときには、その商品の特徴やリスクを理解する必要があります。
暗号資産の場合、価格変動だけではありません。
発行や管理の仕組み、ネットワークの構造、暗号資産固有の技術的なリスクなどがあります。
金融商品としての制度整備が進めば、投資判断に必要な情報をどのように投資家へ提供するかも重要になります。
暗号資産は種類が非常に多く、それぞれ仕組みも異なります。
名前が暗号資産というだけで、すべて同じリスクを持っているわけではありません。
取引業者にもより厳格なルールが求められる
投資家保護を実現するには、暗号資産を取り扱う事業者に対する規制も重要です。
顧客資産をどのように管理するのか。
取引情報をどのように管理するのか。
広告や勧誘をどのように行うのか。
利益相反をどう管理するのか。
市場の異常な取引をどのように監視するのか。
暗号資産が金融市場の一部として扱われるようになれば、取引業者にも金融機関としての高い管理体制が求められるようになります。
規制強化は暗号資産を禁止することではない
金融規制が強化されると、暗号資産取引を制限するための制度だと受け取られることがあります。
しかし、規制の目的は必ずしも市場を縮小することではありません。
公正な取引ルールを設けることで、投資家が安心して参加できる市場をつくることも目的です。
株式市場も厳しい規制のもとで運営されています。
情報開示やインサイダー取引規制があるからこそ、多くの個人や機関投資家が参加できます。
暗号資産についても、市場が拡大するほど一定のルールが必要になります。
金融商品化とETFには関係がある
暗号資産を金融商品として扱うことは、将来の金融商品開発にも関係します。
海外では現物ビットコインETFなどが普及し、証券口座を通じて暗号資産の価格変動へ投資できるようになっています。
日本でも暗号資産ETFなどを本格的に制度化するのであれば、暗号資産そのものについて市場監視や投資家保護の仕組みを整えることが重要になります。
ETFだけを既存の金融規制の中に入れても、その裏側にある暗号資産市場の価格形成が不透明では十分とはいえません。
金融商品化は、暗号資産と既存の証券市場をつなぐための制度基盤にもなります。
税制改正とも同じ方向を向いている
金融商品取引法の改正と2028年からの税制改正は、別々の制度ですが方向性には共通点があります。
これまで個人の暗号資産利益は原則として雑所得として総合課税されてきました。
一方、株式の売却益は申告分離課税です。
2028年から一定の暗号資産取引について20%を基本とする申告分離課税へ移行することで、税制も株式などの金融商品に近づきます。
さらに一定の損失について3年間の繰越控除が設けられます。
金融規制と税制の両方が、暗号資産を投資対象となる金融資産として扱う方向へ動いているわけです。
税制優遇だけを切り離して見るべきではない
暗号資産の申告分離課税については、最高税率が高い総合課税から約20%の課税へ変わる点が注目されます。
しかし、制度全体では税負担の軽減だけが行われるわけではありません。
特定暗号資産という対象範囲を設ける。
取引業者から税務当局への報告制度を整備する。
金融商品取引法による市場規制を強化する。
インサイダー取引などを禁止する。
こうした仕組みが同時に整備されます。
税制上は金融商品として扱いやすくする一方、市場規制や税務情報についても金融商品にふさわしい仕組みを求めるという考え方です。
投資家にとっても取引所選びが重要になる
暗号資産が金融商品として制度化されるほど、どこで取引するかの重要性も高まります。
国内で登録された業者なのか。
どの暗号資産を取り扱っているのか。
顧客資産の管理体制はどうなっているのか。
新しい税制の対象となる取引なのか。
投資家は単に手数料が安い、取扱銘柄が多いという理由だけではなく、規制や税制まで含めて取引業者を選ぶ必要があります。
暗号資産市場が成熟するほど、制度に沿った取引環境を利用する意味が大きくなります。
暗号資産は特殊な世界から金融市場の一部へ
暗号資産は長い間、株式や債券とは異なる特殊な投資対象として扱われてきました。
しかし、ETF、デリバティブ、機関投資家による投資などが拡大すると、既存の金融市場との境界は小さくなります。
その結果、税制についても市場規制についても、従来の金融商品に近い制度が必要になります。
金融商品取引法による規制強化は、暗号資産が金融市場の外側にある特殊な存在から、金融システムの中に組み込まれる資産へ変化していることを示しています。
結論
暗号資産が金融商品になるということは、単に法律上の名称が変わるという意味ではありません。
暗号資産を投資対象として位置付け、株式市場などと同じように投資家保護と公正な価格形成を重視する市場へ移行していくことを意味します。
金融商品取引法による規制が強化されれば、インサイダー取引や相場操縦などの不公正取引に対する規制、市場監視、取引業者の管理体制などが重要になります。
同時に2028年から一定の暗号資産取引について申告分離課税が導入され、税制も株式などに近づきます。
つまり、税負担を金融商品に近づける一方で、投資家保護、市場規制、税務情報の把握についても金融商品としてのルールを整えるということです。
暗号資産の金融商品化は、規制強化だけを意味するものではありません。
暗号資産を既存の金融市場の中に本格的に組み込み、より多くの投資家が参加できる市場へ変えていくための制度転換として捉えることが重要です。
参考
日本経済新聞 2026年8月15日朝刊 資産運用の税、ルール点検 暗号資産、28年に税率変更
日本経済新聞 2026年8月15日朝刊 金融商品として規制