暗号資産では、取引所で購入したビットコインなどを自分で管理するウォレットへ移すことがあります。
取引所の履歴を見ると、この操作が出金や送付と表示されることがあります。
ここで注意したいのは、暗号資産を外部へ送ったからといって、必ず税金が発生するわけではないことです。
自分が保有する暗号資産を自分のウォレットへ移しただけなら、通常は所有者が変わっていないため、その移動だけで売却益が確定するわけではありません。
一方、その暗号資産を商品購入に利用したり、他人へ譲渡したり、別の暗号資産へ交換したりすれば、課税関係が生じる可能性があります。
暗号資産の税務では、送金したという事実だけではなく、その送金によって誰が暗号資産を保有することになったのかを見ることが重要です。
ウォレットとは何か
ウォレットとは、暗号資産を利用するために必要な秘密鍵などを管理する仕組みです。
暗号資産そのものがスマートフォンやパソコンの中に保存されているというより、ブロックチェーン上の暗号資産を管理するための情報をウォレットで管理すると考えると分かりやすいでしょう。
暗号資産取引所に暗号資産を預けている場合には、取引所側の仕組みを通じて管理します。
一方、自分で管理するウォレットへ移せば、自分自身で秘密鍵などを管理することになります。
暗号資産では、取引所に置く方法と自分のウォレットで管理する方法を使い分けることができます。
取引所から自分のウォレットへ移すことがある
例えば国内の暗号資産取引所でビットコインを購入したとします。
そのまま取引所に置いておくこともできますが、自分で管理するウォレットへ送ることもできます。
この場合、取引所から見ると暗号資産が外部へ出ていくため、履歴上は出金や送付などと表示されます。
しかし、送付先が自分自身のウォレットであれば、経済的な所有者は変わっていません。
銀行Aの自分名義の口座から銀行Bの自分名義の口座へ資金を移すことに似ています。
単に保管場所を変更しただけなら、それ自体を売却と考えるわけではありません。
自分のウォレットへの移動だけなら通常は利益は確定しない
例えば10万円で購入した暗号資産が30万円まで値上がりしているとします。
その暗号資産を取引所から自分のウォレットへ移しました。
20万円の含み益があります。
しかし、移動しただけで所有者が変わっていなければ、通常はこの20万円の利益がその時点で確定するわけではありません。
取得価額も基本的にはそのまま引き継いで管理する必要があります。
ウォレットへ移したからといって、取得価額が移動時の30万円に変わるわけではありません。
将来その暗号資産を売却などしたときには、元の取得価額を基礎として損益を計算することになります。
出金履歴だけでは税務上の意味は分からない
問題は、取引所の履歴だけでは送金の目的まで分からないことです。
同じ出金という表示でも、実際には複数のケースがあります。
自分のウォレットへの移動かもしれません。
別の取引所にある自分の口座への移動かもしれません。
商品購入のための支払いかもしれません。
家族や知人など他人への送付かもしれません。
海外取引所へ送り、そこで別の暗号資産へ交換した可能性もあります。
取引所の履歴に出金としか記録されていなければ、それだけでは税務上どのような取引だったのか判断できません。
商品購入に使えば課税関係が生じる
自分のウォレットへ移した暗号資産を、その後商品購入に利用した場合には状況が変わります。
例えば10万円で取得した暗号資産をウォレットへ移し、その後価値が30万円になったところで30万円の商品を購入したとします。
取引所からウォレットへ移した時点では利益は確定していません。
しかし商品購入に利用した時点では、30万円相当の経済的価値を取得しています。
単純化すると、
30万円から10万円を差し引いた20万円
について利益を認識することになります。
課税関係を見るタイミングは、取引所から出金したときではなく、実際に暗号資産を処分したときです。
別の暗号資産へ交換した場合にも注意する
ウォレットから暗号資産を送って、別の暗号資産へ交換する場合にも課税関係を確認する必要があります。
例えばビットコインを自分のウォレットからサービス提供者などへ送り、その対価として別の暗号資産を受け取ったとします。
この場合、ビットコインを処分し、別の暗号資産を取得したものとして損益計算が必要になることがあります。
日本円を一度も受け取っていなくても同じです。
したがって、ウォレットから外部へ送った後に何が起きたのかまで追跡できる記録が必要になります。
別の取引所へ移しただけなら取得価額は消えない
国内取引所Aで購入した暗号資産を、自分のウォレットを経由して取引所Bへ移すこともあります。
単に自分が保有する暗号資産の保管場所や取引場所を変えただけなら、その移動だけで取得価額がリセットされるわけではありません。
例えば100万円で取得した暗号資産を取引所Bへ移した時点で時価が150万円になっていても、単なる自己間移動であれば50万円の含み益が直ちに実現したとは考えません。
取引所Bでその後200万円で売却すれば、元の取得価額を基礎として損益を計算する必要があります。
どこで購入したのかという最初の記録まで遡れることが重要です。
送金手数料についても記録しておく
暗号資産をウォレットへ移動すると、送金手数料などが発生することがあります。
暗号資産の種類やネットワークの混雑状況などによって、手数料は変動します。
税務上の所得計算では、取引に伴って支払った費用についても、その内容に応じた処理を確認する必要があります。
したがって送金した数量だけではなく、手数料としてどれだけの暗号資産を支払ったのかも記録しておくことが重要です。
数量が少しずれているだけでも、長期間に多数の取引を行えば残高が合わなくなる原因になります。
税務調査では送金先を説明する必要が生じることがある
暗号資産取引業者に残る記録から、ある日にビットコインを外部へ送付したことが分かったとします。
税務当局から見れば、その暗号資産がその後どうなったのかは、取引所の記録だけでは分からない場合があります。
そこで納税者側が、
自分のウォレットへ移しただけです
別の自分名義の取引所へ移しました
その後商品購入に利用しました
などと説明できることが重要になります。
説明するためには、ウォレットアドレスや送金日時、数量、その後の取引履歴などを保存しておく必要があります。
ブロックチェーンの記録だけでは十分とは限らない
暗号資産の取引はブロックチェーン上に記録されます。
そのため、取引履歴が残っているから自分で記録する必要はないと思うかもしれません。
しかし、ブロックチェーンから分かるのは、あるアドレスから別のアドレスへ一定量の暗号資産が移動したという事実が中心です。
そのアドレスが誰のものなのか。
自己間移動なのか。
商品購入なのか。
贈与なのか。
別の取引所への送金なのか。
こうした経済的な意味まで自動的に説明してくれるわけではありません。
そのため、自分自身で取引の目的を記録しておく必要があります。
ウォレットごとに管理すると分かりやすい
複数のウォレットを利用する場合には、それぞれに名称や用途を決めて管理すると分かりやすくなります。
例えば長期保有用、取引用、決済用などです。
さらに、どのウォレットアドレスが自分のものなのかを一覧にしておけば、後から自己間移動を説明しやすくなります。
取引日時、暗号資産の種類、数量、送金元、送金先、送金目的、手数料などを記録しておけば、確定申告時の確認作業も容易になります。
暗号資産の税務では、取引金額だけでなく資産の移動経路を管理することが重要です。
2028年以降は取引経路の重要性がさらに高まる
2028年から一定の暗号資産取引について申告分離課税が導入される見込みです。
新制度では、特定暗号資産であるか、対象となる暗号資産取引業者を通じた取引であるかなどが課税方式に影響します。
そのため、国内登録業者の口座内で行った取引なのか、外部ウォレットへ移した後の取引なのかを区別する重要性が高まります。
海外取引所や分散型のサービスなどを利用すれば、さらに異なる課税関係を検討する必要が生じる可能性があります。
税率が変わるだけでなく、取引経路を説明できる記録がこれまで以上に重要になるわけです。
結論
暗号資産を取引所から外部へ送ったからといって、それだけで必ず税金が発生するわけではありません。
自分の取引所口座から自分のウォレットへ移しただけであれば、通常は所有者が変わっていないため、その移動だけで値上がり益が確定するわけではありません。
一方、その後暗号資産を商品購入に利用したり、別の暗号資産と交換したり、他人へ譲渡したりすれば、課税関係が生じる可能性があります。
問題は、取引所の履歴ではいずれも出金や送付と表示されることがある点です。
そのため、どのウォレットが自分のものなのか、いつ、どこへ、何の目的で暗号資産を送ったのかを記録しておくことが重要です。
2028年以降は暗号資産の種類や取引業者によって課税方式が異なる可能性もあるため、単なる金額の記録だけではなく、暗号資産がどの経路を通って移動したのかまで説明できる管理が重要になります。
参考
日本経済新聞 2026年8月15日朝刊 資産運用の税、ルール点検 暗号資産、28年に税率変更
日本経済新聞 2026年8月15日朝刊 金融商品として規制