ふるさと納税で1万円を自治体に寄付すると、その1万円がすべて地域振興や行政サービスに使われるわけではありません。
返礼品を用意するためのお金が必要です。
返礼品を寄付者に届ける送料もかかります。
ふるさと納税の仲介サイトを利用すれば、サイト運営事業者への手数料なども発生します。
さらに寄付を受け付け、管理するための事務費用も必要です。
こうした費用が積み重なると、寄付金のかなりの部分が寄付者への返礼や寄付を集めるための経費として使われます。
そこで設けられているのが、募集に要する費用を寄付額の5割以下とする、いわゆる「経費5割ルール」です。
ふるさと納税が自治体の財源として本当に効率的なのかを考えるうえで、非常に重要なルールです。
経費5割ルールとは何か
ふるさと納税には、返礼品の調達額を寄付額の3割以下とする基準があります。
しかし、自治体が負担する費用は返礼品だけではありません。
そこで返礼品の調達費などを含め、寄付を募集するために必要となる費用全体についても上限が設けられています。
現在は、こうした募集費用を寄付額の5割以下に抑えることが求められています。
例えば1億円の寄付を集めた自治体であれば、募集に要する経費を原則として5000万円以下にする必要があります。
裏返せば、制度上は寄付額の半分近くが経費として使われる可能性があるということです。
返礼品調達費だけで最大3割程度になる
経費の中で最も分かりやすいのが返礼品の調達費です。
返礼品については、原則として調達額を寄付額の3割以下にする必要があります。
1万円の寄付であれば3000円以下。
10万円なら3万円以下です。
仮に自治体が3割いっぱいまで返礼品に使えば、寄付額の70%が残ります。
しかし、そこからさらにさまざまな費用が差し引かれます。
その代表が送料です。
返礼品を届ける送料も自治体の負担になる
ふるさと納税では、全国各地から寄付が集まります。
北海道の自治体から東京の寄付者へ返礼品を送ることもあれば、九州から北海道へ送ることもあります。
当然、配送費が発生します。
冷蔵や冷凍が必要な肉、魚介類、乳製品などでは、通常の宅配便より送料が高くなることがあります。
大型の商品であれば、さらに費用がかかります。
寄付者から見ると返礼品は無料で送られてくるように見えますが、実際には誰かが配送費を負担しています。
多くの場合、その費用はふるさと納税の募集経費の一部となります。
返礼品そのものを3割以下に抑えても、送料を加えれば自治体の負担はさらに大きくなるわけです。
仲介サイトにも費用がかかる
ふるさと納税が急速に普及した背景には、インターネット上の仲介サイトの存在があります。
寄付者は全国の自治体の返礼品を検索し、比較して、そのまま寄付手続きを行うことができます。
自治体にとっても、自前で大規模な寄付受付システムを構築する必要がなく、全国の利用者へ返礼品を紹介できるメリットがあります。
しかし、当然ながら無料ではありません。
仲介サイトの利用に伴う手数料などが発生します。
寄付額が大きくなれば、こうした費用の絶対額も大きくなります。
ふるさと納税が巨大市場になるほど、寄付金の一部が自治体や地域事業者ではなく、制度を仲介する民間事業者へ流れる構造も大きくなります。
見えにくい事務経費もある
ふるさと納税には、返礼品や送料以外にもさまざまな事務が必要です。
寄付の受付。
返礼品の発注。
寄付者情報の管理。
問い合わせへの対応。
寄付金受領証明書などの発行。
返礼品事業者との調整。
システムの利用や保守。
こうした業務を自治体職員だけで処理するとは限りません。
民間事業者へ業務を委託すれば、その委託費用も発生します。
ふるさと納税の寄付額が増えれば増えるほど、事務処理量も増加します。
そのため「寄付金を集めれば、その分だけ自治体の自由に使える財源が増える」と単純にはいえないのです。
1万円寄付しても1万円が地域に残るわけではない
仮に1万円の寄付について考えてみます。
返礼品の調達に3000円かかったとします。
さらに送料や仲介費用、事務費用などが発生します。
これらを合わせて2000円かかれば、合計経費は5000円です。
自治体に実質的に残るのは5000円となります。
もちろん実際の経費率は自治体や返礼品によって異なります。
すべての寄付について必ず半分しか残らないという意味ではありません。
返礼品を希望しない寄付者もいますし、経費を低く抑えている自治体もあります。
重要なのは、寄付額と自治体が行政目的などに使える金額は同じではないということです。
なぜ経費率が問題になっているのか
ふるさと納税の規模は急速に拡大しました。
記事によると、2025年度の寄付額は1兆3314億円となり、6年連続で過去最高を更新しています。
1兆円を大きく超える制度になれば、経費率が数%違うだけでも巨額のお金が動きます。
仮に1兆円の寄付について経費率が50%なら、5000億円です。
40%なら4000億円です。
その差は1000億円になります。
もちろん実際には自治体ごとに状況が異なりますが、経費率を引き下げることができれば、それだけ地域の行政や事業などに使える財源を増やせる可能性があります。
制度が巨大化したからこそ、経費率の問題が以前より重要になっているのです。
経費基準は4割以下へ向かう
総務省は、ふるさと納税の経費をさらに抑える方向で制度を見直しています。
今回の記事によれば、仲介手数料などを含めた経費全体について、現在の寄付額の5割以下から、2029年までに段階的に4割以下へ引き下げる方針です。
これは大きな変化です。
100万円の寄付で考えれば、経費の上限が50万円から40万円へ下がることになります。
単純化すれば、少なくとも寄付額の6割程度を自治体側に残す方向へ制度を変えていくという考え方です。
ふるさと納税を「寄付を集める競争」から「集めた寄付を地域にどれだけ残せるか」という競争へ変えていく意味もあります。
経費削減は自治体にとって簡単ではない
もっとも、経費率を下げればすべて解決するわけではありません。
返礼品の価格を過度に下げれば、地域事業者の利益が減ります。
送料を削減するにも限界があります。
事務費用を減らしすぎれば、自治体職員の負担が増える可能性があります。
仲介サイトへの依存度を下げれば手数料を抑えられるかもしれませんが、今度は寄付者を集める力が弱くなる可能性があります。
つまり経費率の引下げは、自治体に「効率的に寄付を集める仕組み」を求めることになります。
寄付額だけを競う時代から、費用対効果まで問われる時代へ変わっていくわけです。
返礼品事業者への地域経済効果も忘れてはいけない
一方で、返礼品調達費をすべて「無駄な経費」と考えるのも適切ではありません。
例えば地域の農家から米を3000円で調達すれば、その3000円は地域の生産者の売上になります。
地域の食品会社から返礼品を購入すれば、その会社の売上や雇用につながります。
配送を地域企業が担えば、そこにも経済効果があります。
つまり自治体の行政財源として残らなかった金額の一部も、地域経済へ還流している可能性があります。
問題なのは、経費がどこへ流れているかです。
地域事業者へ流れているのか。
地域外の仲介事業者へ流れているのか。
単純な経費率だけではなく、その中身を見る必要があります。
輸入ワイン問題ともつながっている
今回問題となった海外産高級ワインでも、この視点は重要です。
海外で生産された高級ワインを仕入れ、地域内で熟成させて返礼品として提供する場合、返礼品調達費のうちどれだけが本当に地域経済へ残るのでしょうか。
ワインそのものの仕入価格の大部分が海外産品の価値であれば、返礼品調達費が大きくても地域への経済効果は限定的かもしれません。
一方、地域内の熟成事業者に十分な付加価値が生じているのであれば、地域振興につながる余地があります。
地場産品基準と経費基準は別のルールですが、「寄付金が最終的にどこへ流れるのか」という点では密接につながっています。
結論
ふるさと納税の経費5割ルールとは、返礼品調達費や送料、仲介費用など、寄付の募集に必要となる費用全体を寄付額の5割以下に抑えるための基準です。
返礼品には3割ルールがありますが、残りの7割がそのまま自治体の行政財源になるわけではありません。
送料、仲介サイト、事務処理などにも費用がかかるからです。
そして、ふるさと納税が1兆円を大きく超える規模になった現在、経費率のわずかな違いが巨額の財源差につながります。
そのため制度は、経費全体をさらに抑え、より多くの寄付金を自治体や地域へ残す方向へ動いています。
ただし、返礼品調達費には地域事業者の売上になるという側面もあります。
重要なのは単純に経費を減らすことではありません。
寄付者が支払ったお金のうち、どれだけが地域に残り、地域の行政、産業、雇用へ還元されているのか。
ふるさと納税の本当の費用対効果を考えるには、「いくら寄付が集まったか」だけでなく、「そのうちいくらが地域に残ったか」を見る必要があるのです。
参考
日本経済新聞 2026年8月13日朝刊「ふるさと納税、返礼品の輸入ワインにメス 総務省 熟成で地場産品 1700自治体、適切か検証」