ETFは株式と同じように、証券取引所が開いている時間であれば売買できます。
しかし、売りたい投資家と買いたい投資家が常に同じ時間、同じ数量、同じ価格で存在するとは限りません。
それでも多くのETFでは、画面を見ると買値と売値が継続的に表示されています。
この売買を支えている重要な存在がマーケットメーカーです。
マーケットメーカーはETFなどについて買値と売値を提示し、市場に流動性を供給します。
ETF市場が巨大化し、商品数も急増するなか、マーケットメーカーの役割はますます重要になっています。
一方で相場が急変すると、普段は狭かった買値と売値の差が急に広がることがあります。
ETFはいつでも同じ条件で売買できるわけではありません。
マーケットメーカーとは何か
マーケットメーカーとは、金融市場で継続的に買値と売値を提示し、投資家が取引しやすい環境を作る市場参加者です。
証券会社や専門の金融業者などがこの役割を担います。
例えばあるETFについて、
1000円なら買います
1002円なら売ります
という二つの価格を市場へ提示します。
ETFを売りたい投資家は1000円でマーケットメーカーへ売ることができます。
ETFを買いたい投資家は1002円でマーケットメーカーから買うことができます。
投資家同士の注文が偶然一致するのを待たなくても、売買が成立しやすくなるのです。
売値と買値とは何か
市場には一般的に買い気配と売り気配があります。
買い気配は、その価格なら買いたいという注文です。
売り気配は、その価格なら売りたいという注文です。
例えば、
最も高い買値が1000円
最も安い売値が1002円
だったとします。
この場合、投資家がすぐに売りたければ1000円付近で取引します。
すぐに買いたければ1002円付近で取引します。
この二つの価格の差がスプレッドです。
この例では2円がスプレッドになります。
スプレッドは投資家にとって実質的なコストになる
ETFのコストというと、信託報酬などの運用管理費用に注目しがちです。
しかし市場でETFを売買するときにはスプレッドも重要です。
例えば1000円で買えると思っていたETFを実際には1002円で購入し、すぐに売ろうとすると1000円でしか売れないとします。
市場価格そのものが動いていなくても2円の差があります。
売買を頻繁に行う投資家ほど、このスプレッドの影響は大きくなります。
したがってETFを見る際には、運用管理費用だけでなく市場でどの程度狭いスプレッドで売買できるかも重要です。
マーケットメーカーはなぜ売買価格を提示できるのか
マーケットメーカーはETFの適正価値を推定しながら価格を提示します。
ETFには、その裏側に株式や債券などの資産があります。
例えばS&P500連動ETFであれば、S&P500を構成する株式の価格からETF一口当たりの理論的な価値を推定できます。
その価値を参考に、
この価格なら買ってもよい
この価格なら売ってもよい
という注文を出します。
ETFの市場価格が理論的な価値から大きく離れれば、裁定取引の機会が生じます。
マーケットメーカーなどの取引が価格差を縮小させる方向に働きます。
マーケットメーカーは在庫リスクを負う
マーケットメーカーは単に投資家の注文を仲介しているだけではありません。
自らETFを買ったり売ったりするため、価格変動リスクを負います。
例えば投資家から大量のETFを買い取った直後に、そのETFの価格が急落すれば損失が発生します。
そこでマーケットメーカーは、ETFを保有する一方で関連する現物株や先物などを売買し、価格変動リスクを抑えることがあります。
これをヘッジといいます。
マーケットメーカーの価格提示能力は、ETFだけでなく、その裏側にある資産やデリバティブ市場の流動性にも支えられています。
流動性とは何か
流動性とは、金融商品を大きく値段を動かさずに売買できる程度を表します。
流動性が高い市場では、大きな注文を出しても市場価格への影響が比較的小さくなります。
一方、流動性の低い市場では少し大きな注文だけでも価格が大幅に動くことがあります。
ETFの流動性を見る場合には、ETFそのものの売買高だけを見ればよいわけではありません。
ETFが保有する資産の流動性も重要です。
ETFの売買高が少なくても取引できる場合がある
例えば、あるETFの一日の売買高が少なかったとします。
一見すると売買しにくいETFに見えます。
しかしETFの裏側にある投資対象が大型株など非常に流動性の高い資産であれば、マーケットメーカーは必要に応じてETFを設定したり解約したりできます。
そのためETF自体の過去の売買高だけでは、実際の流動性を完全には判断できません。
ETFには株式とは異なる設定と解約の仕組みがあるからです。
これがETFの流動性を理解する際の重要なポイントです。
マーケットメーカーと指定参加者は同じなのか
ETFには指定参加者という金融機関も存在します。
指定参加者は、ETFの運用会社との間で大量のETFを設定したり解約したりする役割を担います。
一方、マーケットメーカーは市場で買値と売値を提示し、投資家が売買しやすくする役割を担います。
同じ金融機関が両方の役割を担う場合もありますが、役割そのものは異なります。
マーケットメーカーは取引所での流動性を支えます。
指定参加者はETFと裏側の資産を結び付けます。
この二つの仕組みによってETF市場は機能しています。
相場急変時には何が起こるのか
平常時にはマーケットメーカーが狭いスプレッドで大量の注文を提示していても、市場が急変すると状況が変わります。
マーケットメーカー自身も損失を避ける必要があるからです。
例えば対象株式が急落し、
次の瞬間に価格がいくらになるか分からない
現物株の売買が成立しにくい
先物市場も激しく変動している
という状態になったとします。
この状況で通常通り狭いスプレッドを提示すると、マーケットメーカーが大きな損失を負う可能性があります。
そこで売値と買値の差を広げます。
スプレッドが急拡大する理由
例えば平常時には、
買値1000円
売値1001円
だったETFがあるとします。
スプレッドは1円です。
市場が急変すると、
買値980円
売値1020円
というように差が広がる可能性があります。
ETFの理論的な価値そのものが40円動いたとは限りません。
マーケットメーカーが将来の価格変動リスクを考え、より大きな安全余裕を価格に反映している場合があります。
つまり相場急変時には、ETFを売買できるとしても非常に不利な価格になる可能性があります。
原資産の市場が閉まっている場合も注意が必要
ETFと投資対象資産の取引時間が一致していない場合があります。
例えば日本市場に上場する海外株ETFでは、日本の取引時間中に海外の現物株式市場が閉まっていることがあります。
その場合、マーケットメーカーは先物などを参考にETFの価値を推定します。
しかし重大なニュースが発生すると、現物市場が閉まっているため正確な価格を判断しにくくなります。
こうした場合にもスプレッドが広がる可能性があります。
ETFの流動性は、そのETFが上場している市場だけでは決まらないのです。
単一銘柄レバレッジETFでは難しさが増す
単一銘柄レバレッジETFでは、マーケットメーカーが負うリスクも大きくなります。
もともと値動きの大きい一社の株式に、さらに2倍や3倍のレバレッジがかかっているからです。
対象企業に重大なニュースが出れば、原株そのものが急騰や急落する可能性があります。
ETFの値動きはさらに大きくなります。
こうした状況ではマーケットメーカーが価格を提示すること自体が難しくなり、スプレッドが大幅に広がったり、場合によっては取引が一時停止したりする可能性があります。
いつでも売れることと希望価格で売れることは違う
ETFは取引時間中ならいつでも売買できると説明されることがあります。
しかし、これは希望する価格で必ず売買できるという意味ではありません。
市場が安定しているときには1000円前後で売買できていたETFでも、急落時には900円台でしか買い手がいない可能性があります。
売却そのものはできても、想定していた価格から大きく離れていることがあります。
特に市場急変時には、
売れるかどうか
だけではなく、
いくらなら売れるのか
が重要になります。
成行注文にも注意が必要になる
市場価格を指定せず、その時点で成立可能な価格で売買する注文を成行注文といいます。
流動性の高いETFを平常時に少量売買する場合には、希望価格から大きく離れないこともあります。
しかしスプレッドが広がっているときや注文量が少ないETFでは、想定以上に不利な価格で成立する可能性があります。
特に相場急変時のレバレッジETFでは価格が短時間で大きく変化することがあります。
ETFの売買では商品そのもののリスクだけでなく、どのような注文方法で取引するかも重要になります。
ETF市場を支える見えないインフラ
個人投資家がETFを購入するとき、マーケットメーカーの存在を意識することはあまりありません。
証券会社の画面に価格が表示され、注文を出せば取引が成立します。
しかしその裏側では、
マーケットメーカー
指定参加者
ETF運用会社
現物株式市場
先物市場
などが連動しています。
ETFの便利さは、こうした金融市場のインフラによって支えられています。
ETFの商品数が増え、より複雑な商品が登場するほど、マーケットメーカーの重要性も高まります。
結論
マーケットメーカーとは、ETFなどについて継続的に買値と売値を提示し、市場に流動性を供給する金融機関などです。
売りたい投資家と買いたい投資家が直接一致しなくても、マーケットメーカーが取引相手になることでETFを売買しやすくなります。
そして買値と売値の差であるスプレッドは、投資家にとって実質的な売買コストになります。
平常時にはスプレッドが小さくても、市場が急変すると状況は変わります。
マーケットメーカー自身が価格変動リスクを負うため、将来の価格を判断しにくくなればスプレッドを広げる可能性があります。
特に単一銘柄レバレッジETFのように値動きの大きな商品では、その影響が大きくなることがあります。
ETFは取引時間中なら売買できる金融商品です。
しかし、いつでも売買できることと、いつでも希望する価格で売買できることは同じではありません。
ETFの流動性を理解するには売買高だけを見るのではなく、マーケットメーカー、投資対象資産の流動性、スプレッドまで見る必要があります。
ETF市場の便利さの裏側には、常に売買価格を提示するマーケットメーカーという重要な存在がいるのです。
参考
日本経済新聞 2026年8月13日朝刊 米で新規ETF設定急増