相続空き家の3000万円特別控除とは何か 実家を売ったときの譲渡所得を減らす制度編

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親が亡くなって実家を相続したものの、子どもたちはすでに別の場所に自宅を持っている。

このような場合、相続した実家を売却することがあります。

そこで問題になるのが税金です。

不動産を売却して利益が出れば、原則として譲渡所得に対して所得税や住民税がかかります。

特に親が数十年前に取得した土地では、当時の取得費が低かったり、取得時の資料が残っていなかったりするため、想像以上に大きな譲渡所得が発生することがあります。

こうした相続空き家の売却を後押しする制度が、いわゆる相続空き家の3000万円特別控除です。

正式には被相続人の居住用財産に係る譲渡所得の特別控除の特例といいます。

一定の要件を満たせば、相続した実家などを売却した際の譲渡所得から最高3000万円を控除できます。

なぜ相続空き家に特別控除があるのか

この制度の背景には、日本で増え続ける空き家問題があります。

親が亡くなった後、実家を相続した子どもがすでに別の地域で生活していれば、その家に住む人がいなくなります。

しかし、

思い出のある家なので売りにくい

荷物の整理が終わらない

解体費用がかかる

税金が心配

兄弟姉妹で話し合いがまとまらない

といった理由から、そのまま放置されることがあります。

空き家を長期間放置すると建物が老朽化し、周辺環境にも悪影響を及ぼしかねません。

そこで一定の相続空き家を早期に売却する場合に税負担を軽減し、市場への流通を促す目的で特例が設けられています。

3000万円控除とはどのような仕組みか

不動産を売却した場合の譲渡所得は、基本的には売却代金そのものに課税されるわけではありません。

概念的には、

売却代金から取得費や譲渡費用などを差し引いて譲渡所得を計算する

という仕組みです。

例えば相続した実家を4000万円で売却し、取得費や売却費用などを差し引いた譲渡所得が2500万円だったとします。

相続空き家の特例の要件を満たして3000万円の特別控除を利用できれば、2500万円から3000万円まで控除できるため、課税対象となる譲渡所得はゼロになります。

一方、譲渡所得が4000万円であれば、3000万円を控除した残りの1000万円が課税対象となるイメージです。

税負担を大きく左右する制度であることが分かります。

どんな実家でも対象になるわけではない

親が住んでいた家を相続して売却すれば、すべて3000万円控除を受けられるわけではありません。

代表的な要件の一つが建築時期です。

対象となる家屋は原則として1981年5月31日以前に建築されたものです。

これは旧耐震基準の時代に建てられた住宅を念頭に置いた制度だからです。

相続空き家問題では、築年数の古い住宅が特に問題になりやすいため、こうした要件が設けられています。

区分所有建物は対象外になる

対象となる家屋については、区分所有建物登記がされている建物ではないことも要件です。

そのため、一般的な分譲マンションの一室について、この相続空き家特例を利用することはできません。

主に戸建て住宅を想定した制度と考えると分かりやすいでしょう。

親がマンションで一人暮らしをしていた場合には、別の税制上の特例が利用できないかを検討することになります。

被相続人が一人で暮らしていたことが基本になる

原則として、相続開始の直前に被相続人以外の人がその家に住んでいなかったことも重要な要件です。

例えば父親が亡くなる直前まで、母親と一緒にその家で生活していた場合には、通常はこの要件を満たしません。

一方、父親が亡くなり、その時点で一人暮らしだった実家が空き家になったケースは、この制度が想定している典型的な場面です。

一定の要件のもとで、老人ホームなどへ入所していた被相続人についても特例の対象となる場合があります。

高齢者が施設へ入居した後に亡くなるケースが増えていることを踏まえた取扱いです。

相続してから売却するまでにも条件がある

相続後の利用状況にも注意が必要です。

相続した家屋や敷地について、相続開始から売却までの間に事業、貸付け、居住などに利用していないことなどが求められます。

つまり親の死亡後に実家を賃貸住宅として長期間貸し、その後売却したようなケースでは、特例を利用できない可能性があります。

空き家のまま売却することを基本的に想定した制度です。

相続した実家について、

自分で住むのか

人に貸すのか

売却するのか

という判断は、税制にも影響します。

売却には期限がある

相続空き家の3000万円特別控除で特に重要なのが期限です。

対象となる譲渡は、原則として相続開始の日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに行う必要があります。

例えば親が2026年8月に亡くなった場合を考えてみます。

単純に死亡から3年以内というだけではなく、3年を経過する日の属する年の年末までが一つの期限になります。

そのため、いつ相続が発生したのかによって実際に利用できる期間は変わります。

また、現行制度では特例そのものの適用期限も設けられています。

売却を検討する場合には、相続開始からの期限と制度自体の適用期限の双方を確認する必要があります。

売却価格にも要件がある

この特例には売却代金についての要件もあります。

売却代金が1億円以下であることが基本的な条件です。

高額な相続不動産を対象とした制度ではなく、一般的な相続空き家の流通促進を目的とした制度だからです。

土地や建物を分割して売却した場合などには、複数の譲渡代金を合計して判定することがあります。

一つの売却だけを見て1億円以下だから大丈夫、と単純に判断できない場合があるため注意が必要です。

古い家をそのまま売却できるのか

相続空き家特例は、旧耐震基準で建てられた古い住宅を主な対象としています。

そこで問題になるのが耐震性です。

従来は、相続人が売却する前に、

耐震改修をする

または

建物を取り壊して更地にする

といった対応が必要になることが大きなハードルになっていました。

古い実家を相続した人にとって、売却前に多額の費用をかけて耐震改修や解体をするのは簡単ではありません。

この点について制度改正が行われています。

売却後に買主が耐震改修や取り壊しをする方法もある

2024年1月1日以後の譲渡については、一定の要件を満たせば、売却した年の翌年2月15日までに買主側で耐震改修や取り壊しを行った場合についても特例を利用できる仕組みが設けられています。

これにより、相続人が必ず売却前に耐震改修や解体を完了させなければならないわけではなくなりました。

例えば、

古い実家を現状のまま売却する

買主が購入後に建物を解体する

期限までに必要な状態にする

という取引でも、一定の条件を満たせば特例の対象になる可能性があります。

相続空き家の売却方法の選択肢が広がったわけです。

買主に任せる場合には特に注意する

ただし、売却後の耐震改修や取り壊しを買主に任せる場合には注意が必要です。

相続人自身では期限内に工事が行われるか完全にはコントロールできないからです。

買主が予定していた解体工事を遅らせれば、売主側が特例を利用できなくなる可能性があります。

そのため売買契約を締結するときには、

誰が解体するのか

いつまでに行うのか

必要な証明書をどう取得するのか

といった点を明確にしておくことが重要です。

税制上の要件と不動産売買契約をセットで考える必要があります。

相続人が3人以上なら3000万円ではない場合がある

制度改正でもう一つ重要なのが、相続人の人数による控除額の違いです。

2024年1月1日以後の譲渡について、相続または遺贈によって被相続人居住用家屋やその敷地等を取得した相続人の数が3人以上の場合には、一人当たりの特別控除額の上限が2000万円となります。

例えば兄弟2人で対象となる実家を相続した場合には、それぞれについて最高3000万円の控除を利用できる可能性があります。

一方、兄弟3人で相続した場合には、一人当たりの上限は最高2000万円となります。

相続人が多ければ無制限に3000万円控除を増やせる制度ではありません。

共有で相続する前に税金まで考える

実家を兄弟姉妹で共有相続するときには、

とりあえず3分の1ずつ

と考えがちです。

しかし、相続不動産については、その後の売却まで見据えて遺産分割を考える必要があります。

誰が実家を取得するのか。

売却代金をどのように分けるのか。

相続税の取得費加算の特例が関係するのか。

相続空き家の3000万円特別控除が利用できるのか。

税制上の特例には併用できるものとできないものがあります。

遺産分割の方法によって、その後の税負担が変わる可能性があるためです。

取得費が分からない古い実家ほど影響が大きい

築40年、50年という実家では、親が購入した当時の売買契約書が見つからないことがあります。

不動産の取得費が分からない場合には、一定の方法によって取得費を計算することになります。

その結果、実際にはそれほど大きな利益を得た感覚がなくても、税務上は大きな譲渡所得が計算される場合があります。

こうしたケースでは、3000万円の特別控除が利用できるかどうかによって税負担が大きく変わります。

古い実家を売却するときほど、

取得時の資料が残っているか

特例を利用できるか

を早い段階で確認することが重要です。

売ってから特例を調べるのでは遅い

相続空き家特例で最も避けたいのは、売却が終わってから制度を知ることです。

この特例には、

家屋の建築時期

被相続人の居住状況

相続後の利用状況

耐震基準

取り壊し

売却時期

売却価格

といった複数の要件があります。

売却方法そのものが特例の適否に影響する場合もあります。

したがって、不動産会社へ売却を依頼する段階から、

相続空き家の3000万円特別控除を利用したい

という前提で取引方法を検討することが重要です。

確定申告も必要になる

特例の要件を満たしていても、自動的に税金が安くなるわけではありません。

3000万円特別控除の適用を受けるためには、必要書類を添付して確定申告をする必要があります。

市区町村が発行する被相続人居住用家屋等確認書など、通常の不動産売却では必要としない書類も関係します。

相続した実家を売却するときには、

売買契約が終わればすべて終了

ではありません。

翌年の確定申告まで含めて一連の手続きとして考える必要があります。

結論

相続空き家の3000万円特別控除は、親が住んでいた一定の住宅を相続して売却した場合に、譲渡所得から最高3000万円を控除できる制度です。

空き家の発生を抑え、古い住宅を市場へ流通させることを目的としています。

ただし、親が住んでいた実家なら何でも対象になるわけではありません。

原則として1981年5月31日以前に建築された家屋であること、区分所有建物ではないこと、被相続人が一定の要件を満たして居住していたこと、相続後に事業や貸付けなどに利用していないことなど、複数の条件があります。

さらに売却時期や売却価格についても要件があります。

一定の場合には、売却後に買主が期限までに耐震改修や取り壊しを行う方法でも特例を利用できるようになりました。

一方、対象となる相続人が3人以上の場合には、一人当たりの特別控除額の上限は2000万円となります。

相続空き家を売却するときに重要なのは、

まず売ってしまい、その後で税金を考える

という順番にしないことです。

売却方法そのものが特例の適否を左右することがあります。

誰も住む予定のない実家を相続したのであれば、登記を済ませるだけでなく、売却する可能性があるのか、特別控除を利用できるのか、いつまでに売却する必要があるのかまで早い段階で確認することが重要です。

空き家は時間がたつほど老朽化します。

税制上の期限も待ってはくれません。

相続した実家を資産として次世代へ残すのか、それとも自分たちの世代で売却して整理するのか。

3000万円特別控除は、その判断を考えるうえで知っておきたい重要な制度です。

参考

日本経済新聞 2026年8月 マネー相談 黄金堂パーラー 相続空き家 上 登記の手続き

国税庁 被相続人の居住用財産を売ったときの特例

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