貸倒損失の損金算入時期とは何か なぜ好きな年度に計上できないのか編

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取引先に対する売掛金や貸付金が回収不能になった場合、税務上は一定の要件を満たせば貸倒損失として損金算入することができます。

しかし、ここでもう一つ重要な問題があります。

それは、

いつ貸倒損失として処理するのか

という問題です。

例えば1000万円の貸付金について、数年前から取引先の経営状態が悪化していたものの、会社が貸倒処理をしないまま債権として計上し続けていたとします。

その後、利益が大きく出た事業年度に、

以前から回収できなかった1000万円を今年まとめて貸倒損失にしよう

という処理はできるのでしょうか。

税務上、貸倒損失を好きな事業年度に計上することはできません。

貸倒れの類型ごとに、どの事業年度の損金になるのかを判断する必要があります。

貸倒損失では「損金にできるか」と同じくらい「いつ損金になるか」が重要なのです。

貸倒損失は利益調整のための制度ではない

法人税は、原則として各事業年度に発生した所得を基礎として計算されます。

そのため、費用や損失についても、どの事業年度に帰属するのかが重要になります。

貸倒損失も同じです。

会社が、

今年は利益が少ないから貸倒処理をしない

来年は利益が多そうだから来年処理する

と自由に損金算入時期を選べると、事業年度間で所得を移動させることができてしまいます。

そこで税務上は、貸倒れが生じた事実とその時期を基礎として、損金算入する事業年度を判断します。

三つの貸倒れで時期の考え方が違う

これまで取り上げてきたように、税務上の貸倒損失は大きく三つに整理できます。

法律上の貸倒れ

事実上の貸倒れ

形式上の貸倒れ

です。

それぞれ貸倒れとして認識する根拠が異なるため、損金算入時期の考え方も異なります。

法律上の貸倒れでは、法的整理などによって債権が切り捨てられた事実が重要です。

事実上の貸倒れでは、金銭債権の全額を回収できないことが明らかになった時期が重要になります。

形式上の貸倒れでは、取引停止後1年以上経過するなど、所定の条件を満たした時期が問題になります。

まず自社の債権がどの類型に該当するのかを整理することが必要です。

法律上の貸倒れはいつ損金になるのか

法人税基本通達9-6-1では、一定の法的整理などによって金銭債権が切り捨てられた場合、その切り捨てられた金額について貸倒れとして取り扱います。

例えば民事再生手続などによって1000万円の債権のうち700万円が切り捨てられ、300万円を弁済する再生計画が確定したとします。

この場合には、法律上700万円の債権を回収できなくなる事実が生じます。

したがって、基本的にはその債権切捨ての法律上の効力が生じた事業年度に損金算入することになります。

会社が、

今年は利益が少ないから来年まで700万円を債権として残しておこう

と自由に先送りする性質のものではありません。

法律上債権が消滅した時期を確認することが重要です。

債務免除では書面の日付が重要になる

債務者の債務超過状態が相当期間継続し、弁済を受けることができないと認められる場合などに、債権者が書面によって債務免除を行うケースがあります。

この場合にも、いつ債務免除の効力が生じたのかが重要になります。

例えば3月決算法人が3月31日付で債務免除通知書を作成したとしても、実際に相手へ通知したのが4月だったというケースでは、単純に書面に記載した日付だけで判断することは危険です。

貸倒損失の時期を決めるために形式的に日付を調整するのではなく、債務免除が法律上いつ成立したのかを確認する必要があります。

そのためにも、債務免除通知書や送付記録などを保存しておくことが重要です。

事実上の貸倒れは明らかになった事業年度

法人税基本通達9-6-2による事実上の貸倒れでは、時期について非常に重要な考え方が示されています。

債務者の資産状況や支払能力などからみて、金銭債権の全額が回収できないことが「明らかになった事業年度」に貸倒れとして損金経理するというものです。

つまり、

いつから支払いが遅れていたか

だけではありません。

いつ全額回収不能であることが明らかになったか

が問題になります。

ここが事実上の貸倒れにおける時期判定の中心です。

数年前から経営不振だった場合はどうするのか

例えば取引先が3年前から赤字だったとします。

2年前には債務超過になりました。

1年前には銀行からの追加融資も受けられなくなりました。

そして今年、すべての事業を停止し、換価できる財産もなく、保証人からの回収もできないことが判明したとします。

この場合、

3年前から赤字だったから3年前が貸倒れの年度

とは限りません。

赤字や債務超過だけでは、必ずしも全額回収不能とはいえないからです。

逆に、今年になって初めて全額回収不能が明らかになったのであれば、今年の事業年度で貸倒損失を検討することになります。

重要なのは、経営状態が悪化し始めた時期ではなく、貸倒れの要件を満たした時期です。

全額回収不能が以前から明らかだった場合

反対のケースも考えてみましょう。

2年前の時点ですでに債務者は事業を停止し、財産もなく、保証人にも支払能力がなく、全額回収不能であることが明らかになっていたとします。

しかし会社は貸倒処理を行わず、1000万円の貸付金を帳簿に残していました。

そして今年、会社に大きな利益が出たため、

この1000万円を今年の貸倒損失にしよう

と考えたとします。

このような場合には、今年になって初めて回収不能が明らかになったわけではありません。

貸倒損失の計上時期について問題が生じる可能性があります。

税務上の貸倒れは、会社が処理したい時期を自由に選択する制度ではないからです。

損金経理要件とは何か

事実上の貸倒れでは、「貸倒れとして損金経理をする」という点も重要です。

損金経理とは、法人が確定した決算において費用または損失として経理することをいいます。

例えば1000万円の貸付金について事実上の貸倒れを適用するのであれば、会計上も貸倒損失などとして処理する必要があります。

税務申告書だけで、

1000万円を損金にします

と申告調整すればよいというものではありません。

したがって事実上の貸倒れでは、

全額回収不能が明らかになった事業年度

実際に損金経理した事業年度

との関係が非常に重要になります。

形式上の貸倒れは1年経過の判定が重要

法人税基本通達9-6-3による形式上の貸倒れでは、継続的な取引を行っていた債務者について一定の条件を満たしたうえで、取引停止後1年以上経過していることなどがポイントになります。

ここでも事業年度をまたぐ場合には注意が必要です。

例えば3月決算法人について、形式上の貸倒れにおける1年の起算点が2025年5月31日だったとします。

1年以上経過するのは2026年5月31日以降です。

したがって2026年3月期の決算時点では、まだ1年以上経過していません。

2027年3月期になって初めてこの期間要件を満たすことになります。

「ほぼ1年だから」という理由で前倒しすることはできません。

最後の弁済があると時期が変わることがある

形式上の貸倒れでは、取引停止日だけを確認すればよいわけではありません。

取引停止後に最後の弁済期や最後の弁済がある場合には、それらとの関係で1年の起算点を確認する必要があります。

例えば取引を2025年4月に停止したものの、2025年9月に債務者から一部入金があったとします。

この場合、

取引停止からは1年以上たった

という理由だけで判断することはできません。

最後の弁済時などを踏まえて期間を判定する必要があります。

そのため、

最終取引日

最終請求日

最後の弁済期

最後の入金日

を正確に管理しておくことが重要です。

決算直前の貸倒処理は特に資料が重要

貸倒損失は法人の所得を直接減少させます。

特に決算直前に多額の貸倒損失を計上した場合には、その時期について税務調査で確認される可能性があります。

例えば3月決算法人が3月31日に5000万円の貸倒損失を計上していた場合、

なぜ3月31日に回収不能と判断できたのか

2月末ではまだ回収可能だったのか

翌4月に発生した事実を3月期の判断材料にしていないか

といった点が問題になることがあります。

決算日後に判明した事実を、当然に決算日時点ですでに存在していた事実として扱えるわけではありません。

各事業年度終了時点の状況を明確にする必要があります。

後から判明した事情との区別も重要

例えば3月31日時点では取引先が営業を続けていたものの、4月15日に突然破産を申し立てたとします。

この場合、

4月に破産したのだから3月末時点でも回収不能だったはずだ

と単純に判断することはできません。

3月末時点でどのような事実が存在していたのかを確認する必要があります。

一方、4月に入ってから取得した資料によって、3月末時点ですでに存在していた財産状況が確認できる場合もあります。

したがって、後日入手した資料だからすべて無関係というわけでもありません。

重要なのは、その資料が「いつ発生した事実」を示しているのかという点です。

貸倒損失の年度を証明する資料とは

貸倒損失の損金算入時期を説明するためには、時系列で資料を整理することが有効です。

例えば、

取引停止日

最後の弁済期

最後の入金日

督促日

債務者との面談日

破産手続開始日

破産管財人からの通知日

担保評価を行った日

保証人の資力を確認した日

債務免除通知日

などです。

さらに、

その日に何が判明したのか

それによって会社がどのように判断したのか

を記録しておけば、数年後の税務調査でも説明しやすくなります。

貸倒損失では「証拠の内容」だけではなく「証拠の日付」も重要なのです。

貸倒損失は早すぎても遅すぎても問題になる

貸倒損失では、早すぎる計上が問題になることは比較的分かりやすいでしょう。

まだ回収可能性がある段階で損失計上すれば、税務上否認される可能性があります。

しかし、遅すぎる処理にも注意が必要です。

本来以前の事業年度で貸倒れとして認識すべきだったものを、利益が多く出た年度まで意図的に残しておくことは、事業年度ごとの所得計算という法人税の基本的な考え方と整合しません。

したがって貸倒債権については、

まだ早いから待つ

という判断だけではなく、

すでに貸倒れの要件を満たしていないか

という確認も毎期必要になります。

債権管理と決算手続きを連動させる

実務では、経理部門だけで貸倒れを判断することが難しい場合があります。

営業担当者は取引先の状況を知っていても、経理部門には情報が届いていないことがあります。

法務部門が破産通知を受け取っていても、決算担当者が知らないケースもあります。

そのため決算時には、

長期滞留債権

支払遅延先

取引停止先

法的整理先

債務超過先

などを一覧化し、営業、経理、法務などで情報を共有する仕組みが重要になります。

貸倒損失の適切な損金算入時期を判断するためには、税務知識だけでなく社内の債権管理体制も重要なのです。

結論

貸倒損失は、企業が好きな事業年度を選んで損金算入できるものではありません。

法律上の貸倒れでは、法的整理や債務免除などによって債権の切捨てや消滅の効力が生じた時期が重要になります。

事実上の貸倒れでは、債務者の資産状況や支払能力などから金銭債権の全額を回収できないことが明らかになった事業年度が重要です。

形式上の貸倒れでは、取引停止後1年以上など所定の条件を満たした時期を正確に確認する必要があります。

つまり貸倒損失では、

回収できるか

という金額の問題だけでなく、

いつ回収不能になったのか

という時間の問題も同じくらい重要です。

税務調査に備えるためには、回収不能と判断した根拠だけではなく、その判断に至った時系列まで記録しておく必要があります。

貸倒損失は利益調整のための費用ではありません。

債権の価値が税務上失われた事実を、その事実が生じた適切な事業年度に反映するための処理なのです。

参考

税のしるべ 2026年8月3日 「連載『不良債権に係る税務上の取扱いの再確認』税理士・東辻 淳次 第5回/回収不能の場合の貸倒れ」

国税庁 法人税基本通達 第9章第6節 金銭債権の貸倒れ

国税庁 タックスアンサー 貸倒損失として処理できる場合

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