破産した取引先への債権はいつ貸倒れにできるのか 倒産イコール貸倒れではない理由編

会計
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取引先が破産した場合、その会社に対する売掛金や貸付金はすぐに貸倒損失として処理できるのでしょうか。

実務では、

取引先が破産したのだから全額貸倒れにしよう

と考えたくなるところです。

しかし、税務上は「破産したこと」と「債権が貸倒れになったこと」は必ずしも同じではありません。

破産手続が始まっても、債務者に財産が残っていれば、債権者は破産手続を通じて配当を受けられる可能性があります。

つまり、破産手続開始決定があったという事実だけでは、金銭債権の全額が回収不能になったとは限らないのです。

貸倒損失を計上するためには、破産という出来事だけを見るのではなく、その後の回収可能性まで確認する必要があります。

破産とは何か

破産とは、債務者がすべての債務を支払うことが困難になった場合などに、その財産を換価し、原則として債権者に配当するための法的手続です。

法人が破産すると、一般的には裁判所によって破産手続開始決定が行われ、破産管財人が選任されます。

破産管財人は債務者の財産を調査し、売却できる財産を換価して、一定のルールに従って債権者への配当を行います。

したがって、

破産した

ということは、

債権者が一円も回収できない

という意味ではありません。

債務者に換価できる財産が残っていれば、その財産から一定の配当を受けられる可能性があります。

破産手続開始決定だけでは債権は消滅しない

ここが税務上重要なポイントです。

裁判所による破産手続開始決定があったとしても、それだけで債権者が持つ売掛金や貸付金が法律上消滅するわけではありません。

例えば1000万円の売掛金を持つ取引先が破産したとします。

破産財団に一定の財産が残っており、最終的に債権額の5パーセントの配当を受けられる可能性があるのであれば、50万円を回収できる可能性があります。

この段階で、

1000万円全額が回収不能になった

と判断することはできません。

破産手続開始決定と貸倒損失の損金算入時期を機械的に一致させないことが重要です。

事実上の貸倒れでは全額回収不能が必要になる

破産した取引先への債権で特に問題になるのが、法人税基本通達9-6-2による事実上の貸倒れです。

この取扱いでは、債務者の資産状況や支払能力などからみて、金銭債権の全額が回収できないことが明らかになった場合に、その明らかになった事業年度に貸倒れとして損金経理することが認められます。

つまり、

破産手続開始決定があったか

ではなく、

その時点で全額回収不能が明らかだったか

が問題になります。

破産手続中で配当の可能性が残っている場合には、全額回収不能という判断には慎重さが必要です。

破産手続の中で配当を受ける可能性がある

破産手続では、債務者が保有していた現預金、不動産、売掛金などの財産を換価していきます。

そこから手続費用や優先順位の高い債権などを処理し、配当できる財産が残れば一般の破産債権者にも配当が行われる可能性があります。

したがって、取引先が破産しても、

配当率10パーセント

配当率1パーセント

というように、一部分を回収できる場合があります。

回収率が極めて低かったとしても、「一部回収できる」と「全額回収不能」は税務上同じではありません。

事実上の貸倒れは全額回収不能を前提とするため、この違いは重要です。

配当がほとんど期待できない場合はどうするのか

それでは、破産管財人からの情報などによって、配当がほとんど期待できないことが分かっている場合はどうでしょうか。

この場合にも、単なる予想だけで判断するのではなく、客観的な状況を確認することが重要です。

例えば、

破産財団にほとんど財産がない

換価できる資産が存在しない

優先する債権だけで財産がなくなる

一般破産債権者への配当が見込まれない

といった事情が明らかになれば、回収不能についての判断材料になります。

重要なのは、「破産した会社だから回収できないだろう」という推測ではなく、実際の財産状況などに基づいて判断することです。

破産手続が終わるまで必ず待つのか

ここで疑問になるのが、

破産手続がすべて終わるまで貸倒損失を計上できないのか

という点です。

必ずしも、手続の形式的な終了だけが判断基準になるわけではありません。

事実上の貸倒れでは、金銭債権の全額が回収できないことが「明らかになった」時点が重要になります。

したがって、破産手続が形式的には継続していても、債務者の資産状況などから一般破産債権について配当の可能性がなく、全額回収不能であることが客観的に明らかになったのであれば、その時点で貸倒損失を検討する余地があります。

反対に、破産手続が始まっていても配当可能性が残っているのであれば、開始決定だけを理由に全額を貸倒損失にすることは適切ではありません。

つまり重要なのは手続の名称ではなく、回収可能性の実態です。

破産手続廃止とは何か

破産事件では、債権者への配当に回せる財産がほとんどないケースもあります。

破産財団の財産では破産手続の費用さえ十分に賄えないなどの場合には、破産手続が廃止されることがあります。

このような事実は、債権の回収可能性を判断するうえで重要な材料になります。

一般債権者に配当できる財産がないことが手続上明らかになれば、全額回収不能を説明しやすくなるからです。

ただし、税務処理は個々の事実関係によって判断する必要があります。

破産手続に関する特定の書類が出たから自動的に貸倒損失になる、とだけ理解するのではなく、その資料が何を意味しているのかを確認することが重要です。

法律上の貸倒れになる場合との違い

破産に関連する債権処理を考えるときには、法律上の貸倒れとの違いも理解しておく必要があります。

法人税基本通達9-6-1では、会社更生法や民事再生法など一定の法的整理によって金銭債権が切り捨てられた場合などに、その切り捨てられた金額を貸倒れとして取り扱います。

この場合は、法的手続によって債権の一部が法律上切り捨てられることがポイントです。

これに対して破産手続開始決定は、それだけで債権額を確定的に切り捨てるものではありません。

そのため、

法的手続が始まった

という共通点だけで同じ貸倒処理をすることはできません。

法的整理の種類と、その手続によって債権にどのような法律効果が生じたのかを確認する必要があります。

貸倒引当金を検討する段階もある

破産手続が始まったものの、まだ最終的な回収額が分からない場合には、貸倒損失とは別に貸倒引当金が問題になることがあります。

貸倒損失として処理できる段階には至っていなくても、回収リスクが極めて高くなっていることは明らかです。

税務上、貸倒引当金制度を利用できる法人であり、個別評価金銭債権について所定の要件を満たしていれば、貸倒引当金の設定を検討することになります。

つまり、

破産したから全額貸倒損失

という一段階の考え方ではなく、

回収可能性が大幅に低下した段階

全額回収不能が明らかになった段階

法律上債権が切り捨てられた段階

などを区別して考えることが重要です。

担保がある場合にはさらに注意する

破産した債務者への債権について担保を持っている場合には、さらに注意が必要です。

例えば1000万円の貸付金について、債務者所有の不動産に有効な担保権を設定しているとします。

債務者が破産しても、その担保から一定額を回収できる可能性があります。

その場合には、債務者が破産したというだけで1000万円全額を回収不能と判断することはできません。

前回取り上げたように、事実上の貸倒れでは原則として担保物の処分などを踏まえて最終的な回収可能性を判断します。

破産したかどうかだけでなく、

担保

保証

破産配当

その他の回収可能性

を総合的に確認する必要があります。

債権届出をしていることとの整合性も考える

破産手続が開始されると、債権者は破産手続の中で債権届出を行うことがあります。

この債権届出は、配当を受けるための重要な手続です。

一方で、税務上事実上の貸倒れとして全額回収不能と判断する場合には、

破産手続で配当を求めているのに、なぜ全額回収不能と判断したのか

という点について説明が必要になる場合があります。

もちろん、債権届出をしたという事実だけで貸倒損失が否定されるわけではありません。

債権者として必要な手続きを行うことと、経済的な回収可能性を判断することは別問題だからです。

重要なのは、貸倒損失を計上した時点でどの程度の配当可能性があったのかを客観的に説明できることです。

税務調査に備えて保存しておきたい資料

破産した取引先への債権を貸倒処理する場合には、破産に関する資料を保存しておくことが非常に重要です。

例えば、

破産手続開始決定に関する書類

破産管財人からの通知

債権届出書

債権者集会の資料

財産状況に関する報告

配当に関する通知

破産手続廃止などに関する資料

担保物に関する資料

保証人に関する資料

などです。

さらに社内でも、

いつ回収不能と判断したのか

その判断根拠は何だったのか

どの通達を根拠として貸倒処理したのか

を記録しておくと、税務調査で説明しやすくなります。

重要なのは破産日ではなく回収不能が明らかになった日

貸倒損失では「いつ損金にするのか」も重要な問題です。

例えば3月決算法人の取引先について、2月に破産手続開始決定があったとします。

この事実だけを見て、

2月に破産したのだから今期の貸倒損失

と判断するのは早計です。

その時点で配当可能性がどの程度あったのかを確認する必要があります。

その後、翌期になって破産管財人から一般債権者への配当がないことが明らかになることもあります。

事実上の貸倒れを適用するのであれば、問題になるのは破産手続開始決定の日そのものではなく、全額回収不能であることが明らかになった時期です。

貸倒損失の損金算入時期を考えるうえで非常に重要なポイントです。

結論

取引先が破産したからといって、その取引先に対する売掛金や貸付金を直ちに全額貸倒損失として処理できるとは限りません。

破産手続開始決定があっても、債権そのものが直ちに消滅するわけではなく、破産財団から配当を受けられる可能性が残っている場合があるからです。

法人税基本通達9-6-2による事実上の貸倒れを適用するためには、債務者の資産状況や支払能力などからみて、金銭債権の全額を回収できないことが明らかになっている必要があります。

したがって重要なのは、

破産したか

ではなく、

回収可能性が本当になくなったか

です。

破産配当の可能性、担保、保証なども含めて判断する必要があります。

そして、全額回収不能であることがいつ明らかになったのかを客観的な資料によって説明できるようにしておくことが重要です。

「倒産イコール貸倒れ」ではありません。

破産は貸倒れを判断する重要な事実の一つですが、税務上の貸倒損失を確定させる最後の答えではないのです。

参考

税のしるべ 2026年8月3日 「連載『不良債権に係る税務上の取扱いの再確認』税理士・東辻 淳次 第5回/回収不能の場合の貸倒れ」

国税庁 法人税基本通達 第9章第6節 金銭債権の貸倒れ

国税庁 法人税基本通達 第11章第2節 貸倒引当金

国税庁 タックスアンサー 貸倒損失として処理できる場合

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