非流動性ディスカウントとは何か 売りにくい非上場株式は価値が低いのか編

税理士
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株式の価値を考えるとき、利益や純資産、配当といった会社の財務内容に目が向きがちです。しかし、もう一つ重要な要素があります。その株式を「売りたいときに売れるか」という問題です。

上場株式には証券市場があり、多数の投資家が日々売買しています。これに対して非上場株式には通常、そのような市場がありません。会社の業績が良く、計算上は高い株価になったとしても、その価格で実際に買ってくれる人がすぐに現れるとは限らないのです。

こうした売却の難しさに着目して株式価値を考えるのが「非流動性ディスカウント」です。非上場株式の相続税評価を考える際にも、「売りにくいという事情を税務上の価値にどこまで反映させるべきなのか」という重要な問題があります。

流動性とは何か

流動性とは、資産をどれだけ容易に現金化できるかを表す考え方です。

現金は、それ自体が決済手段ですから極めて流動性の高い資産です。

上場株式も一般的には流動性の高い資産です。証券取引所で売買されているため、市場が開いていれば売却注文を出すことができます。

もちろん、株価が希望する水準にあるとは限りません。

それでも、売買のための市場が存在し、日々価格が形成されているという点が重要です。

これに対して、不動産や非上場株式などは、現金化するまでに時間がかかる場合があります。

資産の価値を考えるときには、「いくらの価値があるのか」だけでなく、「その価値をどれだけ容易に現金へ換えられるのか」という視点もあるのです。

非流動性ディスカウントとは何か

非流動性ディスカウントとは、容易に売却できない資産について、その売却の難しさを理由として価値を低く見る考え方です。

英語ではディスカウント・フォー・ラック・オブ・マーケタビリティと呼ばれ、DLOMと略されることがあります。

例えば、経済的な条件がほぼ同じ二つの株式があるとします。

一方は証券取引所でいつでも売買できる株式です。

もう一方は非上場会社の株式で、売却市場がなく、買い手を自分で探さなければならないとします。

投資家の立場から見れば、この二つをまったく同じ価格で取得したいとは限りません。

自由に売却できない株式を取得すれば、資金が長期間固定される可能性があるからです。

その不便さやリスクを考慮すれば、売りにくい株式について価格の引き下げを求めることには経済的な合理性があります。

これが非流動性ディスカウントの基本的な発想です。

上場株式との最大の違いは市場の有無

上場株式と非上場株式の大きな違いの一つが、公開された市場が存在するかどうかです。

上場株式の場合、証券取引所という市場があります。

多数の買い手と売り手が参加し、売買によって価格が形成されます。

一方、非上場株式には通常、そのような市場がありません。

株式を売りたいと思っても、

誰に売るのか

いくらで売るのか

いつ売れるのか

ということから考えなければなりません。

会社の財務内容を分析して一株100万円と評価できたとしても、明日100万円で買ってくれる人がいるとは限りません。

「計算上の価値」と「実際に換金できる価値」の間に差が生じる可能性があるのです。

買い手を見つけること自体が難しい

非上場株式では、買い手探しそのものが難しい場合があります。

上場会社であれば、その会社とまったく関係のない投資家でも市場を通じて株式を購入できます。

しかし、中小企業の株式を第三者が購入する場合には事情が違います。

買い手は、

会社の事業内容

財務状態

将来の収益性

経営者

株主構成

配当政策

株式の譲渡条件

などを確認する必要があります。

少数株式を購入するのであれば、「取得した後に自分は何をできるのか」という問題もあります。

簡単に買い手が見つからないのは不思議ではありません。

譲渡制限株式という問題もある

日本の非上場会社では、株式に譲渡制限が設けられているケースが少なくありません。

譲渡制限株式の場合、株主が株式を第三者へ譲渡する際に、会社の承認など所定の手続きが必要になります。

これは会社側から見れば、望ましくない第三者が株主になることを防ぐための重要な仕組みです。

一方、株主側から見れば、株式を自由に売却できない要因になります。

上場株式のように、

「株価が上がったから今日売却しよう」

と簡単に処分できるとは限りません。

こうした法的、制度的な制約も、非上場株式の流動性を考える際には重要になります。

売却までの時間にも価値がある

流動性の問題は、単に「売れるか、売れないか」だけではありません。

「いつ売れるのか」も重要です。

例えば、1000万円の価値がある二つの資産があるとします。

一方は今日1000万円で売却できます。

もう一方は1000万円で売れる可能性はあるものの、買い手が見つかるまで3年かかるかもしれません。

この二つを経済的にまったく同じと考えてよいでしょうか。

後者では、その間1000万円を別の投資や事業に使うことができません。

さらに、売却を待っている間に会社の業績が悪化する可能性もあります。

つまり流動性には、時間価値とリスクの問題も含まれています。

少数株主ディスカウントとは何が違うのか

非流動性ディスカウントと混同しやすいのが、前回取り上げた少数株主ディスカウントです。

両者は関連しますが、考え方は異なります。

少数株主ディスカウントは、

会社を支配できないこと

に着目します。

非流動性ディスカウントは、

株式を容易に売却できないこと

に着目します。

例えば、会社を支配できるほど大量の非上場株式を所有していても、すぐに買い手が見つかるとは限りません。

この場合、支配権は持っていても流動性の問題は残ります。

逆に、少数持分であることと売却困難であることが重なるケースもあります。

したがって、二つの概念を分けて考える必要があります。

M&Aでは流動性の問題をどう考えるのか

企業価値評価やM&Aでは、非上場会社の株式価値を検討する際、流動性が論点になることがあります。

非上場株式には市場価格がありません。

そこで、

将来キャッシュフロー

類似上場会社の株価

過去の取引事例

純資産

など、さまざまな情報から企業価値や株主価値を推定します。

しかし、上場会社のデータを基礎として非上場会社を評価する場合には、

「上場株式と非上場株式では換金性が違うのではないか」

という問題が生じます。

この差をどのように評価へ反映するのかが、企業価値評価における論点の一つになります。

非流動性ディスカウントは何パーセントなのか

では、非上場株式なら一律に何パーセント値引きすればよいのでしょうか。

それほど単純ではありません。

流動性は会社や株式によって異なるからです。

例えば、

株式の譲渡制限

会社の規模

収益力

配当状況

将来の上場可能性

M&Aによる売却可能性

株主構成

潜在的な買い手の存在

などによって、売却の難しさは変わります。

したがって、

「非上場株式だから一律30パーセント減額する」

といった考え方が当然に導かれるわけではありません。

そもそも何を基準となる株式価値とするのかによっても、ディスカウントの考え方は変わります。

相続税評価ではどう考えるのか

ここで相続税における非上場株式評価を考えてみます。

相続税法では、財産は原則として取得時の時価によって評価します。

取引相場のない株式については、実務上、財産評価基本通達に定められた評価方法によって評価することになります。

原則的評価方式では、

類似業種比準方式

純資産価額方式

両者を組み合わせる方式

などが用いられます。

また、一定の少数株主については配当還元方式が用いられる場合があります。

では、このような方法で計算した株価から、

「非上場株式だから売りにくい」

として、さらに非流動性ディスカウントを差し引くことができるのでしょうか。

ここが税務上の重要な論点になります。

税務評価では自由に値引きできない

相続税評価では、納税者が独自に、

「この株式は売りにくいので30パーセント減額します」

という形で自由に非流動性ディスカウントを適用できるわけではありません。

財産評価基本通達による評価は、取引相場のない株式について一定の統一的な評価方法を設けることで、納税者間の公平性や評価の予測可能性を確保する役割を持っています。

個々の納税者がそれぞれ異なる割合の非流動性ディスカウントを主張できることになれば、同じような財産でも評価額が大きく異なる可能性があります。

一方で、経済的な視点から見れば、

「自由に売却できない株式と上場株式を同じように評価してよいのか」

という疑問が生じます。

ここに税務評価と経済的評価の難しい関係があります。

客観的交換価値との関係が問題になる

相続税における時価は、一般に客観的交換価値と理解されています。

ここで一つの疑問が生じます。

実際に第三者へ売却することが難しい株式であれば、その売却の難しさも客観的交換価値に影響するのではないでしょうか。

市場で取引するとき、買い手が、

「この株式は取得後に簡単に売れない」

と考えれば、その分だけ低い価格を提示する可能性があります。

そう考えれば、流動性は現実の交換価値を構成する要素の一つとも考えられます。

しかし税務制度としては、個々の取引事情をすべて評価することも現実的ではありません。

そこで、

現実の経済価値をどこまで精密に反映するのか

統一的な評価基準をどこまで重視するのか

という問題が生じます。

評価の正確性と簡便性には緊張関係がある

財産評価制度には、常に難しいバランスがあります。

個々の財産について、

売却可能性

株主の立場

買い手の存在

会社の将来性

譲渡制限

などを細かく検討すれば、経済的な価値に近づける可能性があります。

しかし、その分だけ評価は複雑になります。

専門家によって評価額が大きく違うことも考えられます。

反対に、一定の計算式によって画一的に評価すれば、制度は分かりやすくなります。

同じ条件なら同じ評価額を計算できるため、予測可能性も高まります。

しかし、現実の取引価格との乖離が生じる可能性があります。

非流動性ディスカウントの問題は、

評価の正確性

公平性

客観性

簡便性

という財産評価制度が抱える複数の要請を象徴する論点でもあります。

非上場株式評価の本質が見えてくる

非流動性ディスカウントを考えていくと、非上場株式評価の難しさがよく分かります。

会社の利益が同じでも、株式の価値が必ず同じになるとは限りません。

純資産が同じでも同様です。

株式の価値には、

会社の収益力

純資産

配当

会社支配権

株主としての立場

換金可能性

など、さまざまな要素が関係します。

だからこそ「非上場会社の一株はいくらなのか」という問いに、一つの絶対的な答えを出すことは難しいのです。

財産評価基本通達の見直しを考える場合にも、計算式だけでなく、こうした株式価値の性質そのものを考える必要があります。

結論

非流動性ディスカウントとは、株式などの資産を容易に売却できないことを理由として、その価値を低く見る考え方です。

上場株式には証券市場がありますが、非上場株式には通常、日々売買できる市場がありません。

買い手を探す必要があり、譲渡制限が設けられている場合もあります。

さらに、売却できるまで長い時間がかかる可能性もあります。

そのため経済的には、自由に売却できる株式と売却困難な株式について、同じ価値でよいのかという問題が生じます。

一方、相続税評価では、非上場株式だからという理由だけで、納税者が任意の非流動性ディスカウントを適用できるわけではありません。

ここには、現実の経済価値をできるだけ正確に測ろうとする考え方と、統一的で公平な税務評価を実現しようとする考え方との緊張関係があります。

非上場株式の評価を考えるときに重要なのは、単に会社の利益や純資産から一株の価格を計算することではありません。

「その株式を実際に市場へ出したとき、誰が、いくらで買うのか」

という視点も、物の価値を考えるうえで欠かすことのできない論点なのです。

参考

税のしるべ 2026年8月3日 連載「続・傍流の正論~税相を斬る」第101回「評価論①、物の価値」 弁護士・税理士 品川芳宣

相続税法第22条

国税庁 財産評価基本通達 取引相場のない株式の評価

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