支配権プレミアムとは何か 同じ一株でも大株主の株式価値が高くなる理由編

税理士
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株式の価値を考えるとき、「同じ会社の同じ種類の株式なら、一株の価値も同じ」と考えるのが自然です。上場株式であれば、基本的に市場で形成された同じ株価で売買されます。

ところが、非上場会社やM&Aの世界では必ずしもそうではありません。会社を支配できるほど大量の株式を取得する場合には、単なる一株の経済価値だけではなく、会社の経営を左右できる「支配権」にも価値があると考えられるからです。

この支配権に着目して生じる価格の上乗せが「支配権プレミアム」です。非上場株式の評価を考えるうえでも、株式を誰がどのような立場で保有しているのかという問題は重要になります。

支配権プレミアムとは何か

支配権プレミアムとは、会社の経営を支配できる株式を取得する際に、単純な株式価値に上乗せされる価値をいいます。

例えば、ある会社の一株当たりの経済価値を仮に1万円とします。

100株なら単純計算では100万円です。

しかし、その100株を取得することで会社の議決権の過半数を握り、会社経営を実質的に支配できるとしたらどうでしょうか。

買い手にとっては単に100株を取得するだけではありません。

会社の経営方針を決めたり、役員人事に影響を与えたり、事業戦略を変更したりできる可能性があります。

そのため、

一株1万円掛ける100株

という単純な計算だけでは、取得する経済的価値を十分に表せない場合があります。

この会社支配によって得られる追加的な価値が、支配権プレミアムの背景にあります。

会社支配権にはなぜ価値があるのか

株主にはさまざまな権利があります。

代表的なものが議決権です。

株主総会では、取締役の選任など会社経営に関する重要事項について意思決定が行われます。

多くの議決権を持つ株主は、こうした意思決定に強い影響力を持つことができます。

一定の議決権を確保すれば、

経営陣の選任

経営戦略への影響

配当政策への影響

組織再編への関与

重要な資産の活用方針

などについて、少数株主より大きな影響力を持つことになります。

さらに、株主総会の決議には普通決議だけでなく特別決議もあります。

そのため、どれだけの議決権を取得するかによって、会社に対する影響力の程度も変わります。

株式には配当を受け取る財産的な価値だけではなく、会社経営に参加する権利としての価値もあるのです。

大株主と少数株主では何が違うのか

例えば、同じ非上場会社について二人の株主がいるとします。

Aさんは発行済株式の60パーセントを所有しています。

Bさんは1パーセントだけ所有しています。

形式的には、二人が持っている一株は同じ会社の同じ種類の株式です。

しかし、その一株が集まって形成する株主としての立場は大きく異なります。

Aさんは会社経営に強い影響を与えることができます。

一方、Bさん一人では会社の重要な意思決定を左右することは通常困難です。

Bさんにとって株式を持つ主な経済的意味は、配当を受け取ることなどにあるかもしれません。

ここから、

支配株主が持つ株式

と

少数株主が持つ株式

を経済的にまったく同じものとして考えてよいのか、という問題が生じます。

非上場株式の評価が単純ではない理由の一つです。

M&Aでは会社全体を取得する

支配権プレミアムが分かりやすく表れるのがM&Aです。

企業買収では、買い手は単に株式を金融商品として取得するのではなく、対象会社そのものを自社グループに取り込むことを目的とする場合があります。

例えば、買収によって、

新しい販売網を獲得できる

技術や特許を利用できる

優秀な人材を確保できる

競合企業との競争力を高められる

自社との相乗効果を生み出せる

といったメリットが期待できることがあります。

この場合、買い手から見た会社の価値は、単純な少数持分としての株式価値より高くなる可能性があります。

TOBでもプレミアムが付くことがある

上場会社のM&Aでは、株式公開買付けであるTOBが利用されることがあります。

買収者が多数の株式を取得しようとするとき、市場価格と同じ価格では既存株主が株式を売却してくれるとは限りません。

そこで市場価格より高い価格を提示し、株主に売却を促すことがあります。

この上乗せ部分は一般にTOBプレミアムなどと呼ばれます。

ただし、TOB価格の上乗せ部分がすべて純粋な支配権プレミアムというわけではありません。

将来の成長期待や買収によるシナジー、競争入札の状況など、さまざまな要因が買収価格に反映されるからです。

それでも、「会社を支配できるだけの株式を取得することには追加的な経済価値があり得る」という点を理解するうえで、M&Aは分かりやすい例です。

支配権プレミアムは一定ではない

支配権プレミアムについて注意したいのは、「支配株式なら必ず何パーセント上乗せする」という単純なものではないことです。

支配権の価値は会社によって異なります。

例えば、

収益力

成長性

財務状態

株主構成

経営改善の余地

取得後に期待されるシナジー

などによって、買い手が支配権に見いだす価値は変わります。

すでに効率的な経営が行われている会社と、経営改善によって大幅に収益力を高められる会社では、支配権の経済的意味も同じとは限りません。

したがって、支配権プレミアムは機械的に決まる価格ではありません。

相続税評価ではどう考えるのか

ここで重要になるのが、相続税における非上場株式の評価です。

相続税では、取引相場のない株式について財産評価基本通達に基づいて評価するのが一般的です。

その際、すべての株主について同じ評価方式を用いるわけではありません。

株主が同族株主など一定の立場に該当する場合には、原則的評価方式によって評価することになります。

代表的なのが、

類似業種比準方式

純資産価額方式

または両者を組み合わせた方式

です。

これに対して、会社経営への影響力が限定される一定の少数株主については、特例的な評価方式として配当還元方式が用いられる場合があります。

つまり、税務上の非上場株式評価でも、株主の立場によって評価方法を変える仕組みが設けられています。

配当還元方式との違いが重要になる

少数株主の場合、会社そのものを支配することよりも、株式を保有することによって得られる配当などの利益が重要になります。

そこで一定の要件を満たす株主については、配当を基礎とする配当還元方式によって株式を評価します。

これは、

「会社を支配する株主にとっての株式」

と

「会社を支配できない少数株主にとっての株式」

では経済的な意味が異なり得るという考え方とも関係しています。

ただし、相続税評価において支配権プレミアムという一定割合を直接加算する仕組みになっているわけではありません。

株主区分と評価方式の違いを通じて、株主の立場の違いが評価制度に反映されています。

ここはM&Aにおける企業価値評価と相続税評価を区別して理解する必要があります。

同じ一株の価値は本当に同じなのか

株式評価の根本には興味深い問題があります。

同じ会社の同じ種類の一株なら、本来一株の価値は同じなのではないか。

それとも、その株式を誰がどれだけ保有するのかによって価値は変わるのか。

上場株式の市場価格だけを見ていると、この問題はあまり意識されません。

しかし、非上場株式では重要な論点になります。

100株のうち1株だけを取得する場合と、100株すべてを取得して会社全体を支配できる場合とでは、買い手が得られる権利や経済的利益が異なる可能性があるからです。

したがって非上場株式の評価を考える際には、単純に、

会社の価値を発行済株式数で割れば一株の価値が求められる

と考えるだけでは十分でない場合があります。

「その株式によって何を得られるのか」という視点も必要になります。

財産評価見直しでも重要な論点になる

非上場株式の評価制度を考えるうえでは、客観的交換価値をどのように捉えるのかが重要になります。

会社全体としての企業価値と、一人の少数株主が持つ株式の価値は同じ考え方で測れるのでしょうか。

さらに、

会社支配権

配当を受ける権利

株式の換金可能性

株式を自由に売却できるかどうか

といった要素を税務評価にどこまで反映させるべきかという問題もあります。

評価制度を見直す場合、単に計算式を変更するだけでなく、「誰にとっての株式価値を測っているのか」という評価論そのものを考える必要があります。

結論

支配権プレミアムとは、会社を支配できる株式を取得することによって得られる追加的な経済価値を背景として生じる価格の上乗せです。

株式には配当や値上がり益を得る財産的価値だけではなく、議決権を通じて会社経営に参加する権利があります。

そのため、会社を支配できる大株主と、経営にほとんど影響を与えられない少数株主とでは、同じ会社の株式を所有していても、その経済的意味が異なる場合があります。

M&Aでは、この違いが買収価格として明確に表れることがあります。

一方、相続税の非上場株式評価では、支配権プレミアムを一定割合で直接加算するのではなく、株主の立場などに応じて原則的評価方式と配当還元方式を使い分ける仕組みが採用されています。

非上場株式の評価を考えるうえで重要なのは、「一株はいくらか」という数字だけではありません。

その株式を保有することで、株主はどのような権利と経済的利益を得るのか。

この視点が、非上場株式の価値を考える重要な出発点になります。

参考

税のしるべ 2026年8月3日 連載「続・傍流の正論~税相を斬る」第101回「評価論①、物の価値」 弁護士・税理士 品川芳宣

相続税法第22条

国税庁 財産評価基本通達 取引相場のない株式の評価

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