会社員やパート、アルバイトなどの給与所得者は、仕事のためにスーツや通勤費、書籍代などさまざまな費用を負担しています。しかし、実際に一人ひとりの必要経費を計算することは現実的ではありません。
そこで設けられているのが「給与所得控除」です。
2026年度税制改正では、この給与所得控除が見直され、基礎控除と合わせて所得税の課税最低限が178万円へ引き上げられました。給与所得控除は、今回の「年収の壁」見直しを理解するうえで欠かせない制度です。
この記事では、給与所得控除の仕組みや最低控除額、今回の改正による影響について解説します。
給与所得控除とは何か
給与所得控除とは、会社員などの給与所得者に認められている「みなし必要経費」です。
個人事業主は実際に支払った必要経費を所得から差し引くことができますが、会社員は原則として実費を経費にできません。
その代わりに、収入額に応じて一定額を自動的に控除する制度が給与所得控除です。
この制度により、給与収入から給与所得控除を差し引いた金額が「給与所得」となり、その後に基礎控除などの所得控除を差し引いて課税所得が計算されます。
給与所得控除の仕組み
給与所得控除額は、給与収入が多くなるほど増加する仕組みになっています。
つまり、収入に応じて必要経費も増えるという考え方を採用しています。
ただし、無制限に増えるわけではなく、一定額で上限が設けられています。
このように、実際の支出額ではなく、収入に応じた一定額を控除する点が、個人事業主の必要経費との大きな違いです。
最低控除額はどのように変わったのか
2026年度税制改正では、給与所得控除の最低額が引き上げられました。
これにより、給与収入のみの人については、基礎控除と給与所得控除を合わせた課税最低限が178万円となります。
また、2026年分と2027年分には特例措置も設けられ、最低控除額の引き上げが実施されています。
この見直しは、物価上昇や最低賃金の上昇によって実質的な控除価値が低下していた状況を改善することを目的としています。
年収178万円の壁との関係
「年収178万円の壁」は、給与所得控除だけで決まる制度ではありません。
給与所得控除と基礎控除の両方が見直された結果、給与所得者の課税最低限が178万円まで引き上げられました。
そのため、「給与所得控除が増えたから178万円になった」という理解では不十分です。
両制度が組み合わさることで、新しい年収の壁が実現しています。
改正による影響
今回の改正によって、パートやアルバイトとして働く人は、以前よりも多く働いても所得税が発生しにくくなります。
また、企業側では源泉徴収税額表が変更されるため、給与計算システムの更新が必要になります。
給与計算システムが改正内容に対応していない場合は、源泉徴収税額を誤って計算し、後から還付や追加徴収が必要になる可能性もあります。
さらに、年末調整では新しい給与所得控除を前提として所得税を精算するため、従来以上に制度の理解が重要になります。
個人事業主との違い
給与所得控除は給与所得者だけが利用できる制度です。
個人事業主は、給与所得控除ではなく、実際に支払った必要経費を所得から差し引きます。
つまり、同じ「所得を計算する仕組み」であっても、会社員と個人事業主では考え方が大きく異なります。
この違いを理解しておくことで、所得税の仕組み全体も理解しやすくなります。
結論
給与所得控除は、会社員やパート、アルバイトなど給与所得者に認められた「みなし必要経費」の制度です。
2026年度税制改正では最低控除額が引き上げられ、基礎控除と合わせて所得税の課税最低限が178万円となりました。
この改正により、働き控えの緩和や税負担の軽減が期待される一方、企業では給与計算や年末調整、源泉徴収事務への適切な対応が求められます。
給与所得控除は、「年収178万円の壁」を理解するための重要な制度の一つといえるでしょう。
参考
企業実務 2026年8月号(2026年8月)「160万円から178万円へ!『年収の壁』の変化と“源泉所得税”の実務対応」 石井秀治 著