非上場株式の譲渡では、「時価より安く売ると問題になる」とよく言われます。
しかし、多くの人が疑問に思うのは、
「どこまで安くすると税務上問題になるのか」
という点ではないでしょうか。
例えば、時価より10万円安く売っただけでも問題になるのでしょうか。それとも半額くらいまでなら大丈夫なのでしょうか。
このような疑問に関係する重要な考え方が、「時価の2分の1ルール」です。
今回は、このルールがどのような場面で登場し、どのような意味を持つのかを解説します。
時価の2分の1ルールとは
時価の2分の1ルールとは、個人が資産を著しく低い価格で譲渡したかどうかを判断する際の一つの重要な基準です。
例えば、時価が1億円の非上場株式を4,000万円で売却した場合、売買価格は時価の半分を下回っています。
このようなケースでは、「通常の売買ではなく、実質的に財産を無償で移転したのではないか」という観点から税務上の検討が行われます。
つまり、このルールは「半額未満なら必ず問題になる」「半額以上なら必ず問題にならない」という単純な線引きではなく、著しい低額譲渡かどうかを判断する重要な目安として位置付けられています。
なぜ2分の1が目安になるのか
税務では、親族間や同族会社間の取引では、自由に価格を決められる状況が少なくありません。
もし極端に安い価格でも自由に認められるとすれば、
本来なら贈与税や相続税の対象となる財産を、「売買」という形式に変えるだけで税負担を軽くできてしまいます。
そのため税法では、一定の基準を設けることで、形式だけの売買を防ごうとしています。
その代表的な考え方の一つが、時価の2分の1という基準なのです。
「2分の1以上なら安心」とは言えない
ここで誤解してはいけない点があります。
時価の2分の1ルールは、
「2分の1以上なら絶対に問題にならない」という意味ではありません。
例えば、
時価が1億円の株式を5,500万円で譲渡したとしても、
その価格設定に合理的な理由がなく、不自然な利益移転と判断される事情があれば、税務上の検討対象になる可能性があります。
反対に、時価の2分の1を下回っていても、法令や通達、個別事情を踏まえた判断が行われるケースもあります。
つまり、税務は数字だけではなく、取引全体を見て判断するということです。
時価の把握が出発点になる
このルールを理解するうえで最も重要なのは、
**「まず時価を正しく把握すること」**です。
時価が分からなければ、
半額なのか、
8割なのか、
適正価格なのか、
それすら判断できません。
非上場株式は市場価格がないため、
原則評価方式や配当還元方式などによって適正な時価を算定し、その上で売買価格との比較を行います。
講義資料でも、譲渡価格の妥当性を検討するためには、まず税務上の時価を適切に算定することが前提であると説明されています。
親族間取引で特に重要になる
時価の2分の1ルールが最も問題になるのは、親族間の株式譲渡です。
例えば、
- 親から子へ株式を譲渡する
- 兄弟間で株式を移転する
- 後継者へ株式を譲渡する
といった事業承継の場面では、価格を自由に決めやすい環境があります。
だからこそ税務では、
「本当に売買だったのか」
「実質的には贈与ではないか」
という点を慎重に確認します。
事業承継では、価格だけではなく、その価格を採用した理由についても説明できるようにしておくことが重要です。
法人との取引では別のルールも関係する
この2分の1ルールは、主に個人が資産を譲渡する場合に関係する考え方です。
一方、法人が関与する取引では、
法人税法上の寄附金や受贈益など、
別の規定も関係してきます。
つまり、
個人同士の譲渡なのか、
法人が関係するのかによって、
適用されるルールは異なります。
そのため、実務では取引の当事者を確認したうえで、どの税法が適用されるかを整理することが重要になります。
数字だけで判断しないことが大切
税務の世界では、
「○%なら安全」
「○円なら問題ない」
という単純な判断ができるケースは多くありません。
時価の2分の1ルールも同様です。
重要なのは、
- 適正な時価を把握していること
- 価格設定に合理的な理由があること
- 取引内容を説明できること
です。
これらが整っていれば、税務上のリスクを大きく減らすことができます。
結論
時価の2分の1ルールとは、非上場株式などを著しく低い価格で譲渡したかどうかを判断する際の重要な基準の一つです。
ただし、この基準は機械的に適用されるものではなく、時価の算定や取引の経緯、当事者の関係などを総合的に踏まえて判断されます。
そのため、「半額以上なら安心」「半額未満なら必ず課税」という単純な理解ではなく、適正な時価を把握し、その価格に基づいて取引を行うことが最も重要です。
次回からは、新たなテーマとして「自己株式の取得とは何か」を取り上げます。会社が自社の株式を買い取る仕組みと、その税務上の考え方について分かりやすく解説していきます。
参考
東京地方税理士会「非上場株式を譲渡・移転する場合の税務 自己株式を買取る場合の課税上の注意点」講義資料 江本尚浩税理士・東京国際大学非常勤講師