家族が亡くなると、葬儀や火葬などにまとまったお金が必要になります。こうした費用はすべて遺族が負担するものと思われがちですが、亡くなった人が加入していた公的医療保険によっては、葬儀を行った人などが給付を受けられる場合があります。
代表的なのが、国民健康保険などの葬祭費と、会社員などが加入する健康保険の埋葬料です。
どちらも死亡に伴って支給されるお金ですが、制度の仕組みや支給対象者は同じではありません。
しかも、自動的に振り込まれるわけではなく、原則として申請が必要です。
葬儀後はさまざまな手続きに追われるため忘れてしまうこともあります。どのような制度なのか、基本的な仕組みを知っておきましょう。
国民健康保険では葬祭費が支給される
国民健康保険の被保険者が亡くなった場合には、葬祭を行った人に葬祭費が支給される制度があります。
一般的には喪主など、実際に葬祭を行った人が申請します。
ここで重要なのは、亡くなった人本人に支給されるものではないということです。
死亡によって発生した葬祭に対して、その葬祭を行った人へ支給される給付です。
そのため、相続財産を相続人に分配するという話とは性格が異なります。
葬儀後の家族の負担を軽減するための公的医療保険からの給付と考えると分かりやすいでしょう。
葬祭費の金額は全国一律ではない
会社員などの健康保険における埋葬料とは異なり、国民健康保険の葬祭費は自治体などによって支給額が異なります。
国民健康保険では、それぞれの保険者が定めるルールに基づいて葬祭費が支給されるからです。
したがって、自分が住んでいる自治体ではいくら支給されるのかを確認する必要があります。
後期高齢者医療制度でも、被保険者が亡くなった場合に葬祭費が支給される仕組みがあります。
高齢の親が亡くなった場合には、国民健康保険ではなく後期高齢者医療制度に加入している可能性が高いため、加入していた制度を確認することが大切です。
会社員などの健康保険では埋葬料がある
会社員などが加入する健康保険では、被保険者が亡くなった場合に埋葬料という給付があります。
協会けんぽの場合、亡くなった被保険者によって生計を維持されていた人に、埋葬料として五万円が支給されます。
ここでいう生計を維持されていた人は、必ずしも法律上の相続人に限られません。
また、必ず同居していなければならないというわけでもありません。
亡くなった被保険者によって生活費の一部でも維持されていたことなどが判断のポイントになります。
つまり、相続人だから埋葬料を受け取るという制度ではなく、亡くなった被保険者との生活上の関係によって支給対象者が決まる仕組みです。
生計を維持されていた人がいない場合は埋葬費
では、亡くなった被保険者に生計を維持されていた人がいなかった場合はどうなるのでしょうか。
協会けんぽでは、その場合、実際に埋葬を行った人に埋葬費が支給される仕組みがあります。
埋葬費は一律五万円ではありません。
実際に埋葬に要した費用について、五万円を上限として支給されます。
対象となり得る費用には、霊きゅう車や遺体の運搬費、火葬料、僧侶への謝礼などがあります。
例えば実際に対象となる費用として三万円を支払った場合には、五万円ではなく実費の範囲で支給されるという考え方です。
埋葬料と埋葬費は名前が似ていますが、支給要件が異なるため区別して理解する必要があります。
被扶養者が亡くなった場合にも給付がある
健康保険では、被保険者本人だけでなく、健康保険上の被扶養者が亡くなった場合にも給付があります。
協会けんぽでは、被扶養者が亡くなった場合、被保険者に家族埋葬料として五万円が支給されます。
例えば会社員の夫の健康保険の被扶養者になっている妻が亡くなった場合などが考えられます。
この場合には、被保険者である夫が申請することになります。
死亡した人が会社員本人なのか、その被扶養者なのかによって申請する人が変わるため注意が必要です。
葬祭費と埋葬料は名前だけで判断しない
国民健康保険の葬祭費と健康保険の埋葬料は、どちらも死亡後に支給される給付ですが、制度は異なります。
大まかに整理すると、国民健康保険などでは葬祭費、会社員などの健康保険では埋葬料や埋葬費という名称が使われます。
重要なのは名称を覚えることよりも、亡くなった人が死亡時にどの医療保険へ加入していたのかを確認することです。
国民健康保険なのか。
後期高齢者医療制度なのか。
会社の健康保険なのか。
共済組合なのか。
加入制度によって申請先や支給条件が変わります。
葬儀が終わったら、まず故人が加入していた医療保険を確認するとよいでしょう。
健康保険を退職した後に亡くなった場合
会社を退職すると、原則としてそれまで加入していた健康保険の被保険者資格を失います。
それでは、退職直後に亡くなった場合には、以前の健康保険から埋葬料を受け取れないのでしょうか。
一定の場合には資格喪失後でも給付を受けられることがあります。
協会けんぽでは、被保険者が資格を喪失してから三か月以内に亡くなった場合など、一定の要件を満たせば埋葬料や埋葬費の対象となることがあります。
傷病手当金や出産手当金の資格喪失後の継続給付を受けていた場合についても一定のルールがあります。
退職後に亡くなったから以前の健康保険は関係ないと決めつけず、退職時期と死亡時期を確認することが大切です。
自動的には支給されない
葬祭費や埋葬料について特に注意したいのが、基本的には申請が必要だということです。
死亡届を市区町村へ提出したからといって、すべての死亡関連給付が自動的に指定口座へ振り込まれるわけではありません。
葬儀を行った人や遺族などが必要な手続きをします。
国民健康保険の葬祭費であれば、市区町村などの国民健康保険の窓口へ申請します。
会社員などが加入する健康保険であれば、加入していた健康保険の保険者へ申請します。
協会けんぽの場合には、所定の埋葬料または埋葬費の支給申請書を提出します。
健康保険組合に加入していた場合には、その健康保険組合の手続きを確認する必要があります。
申請期限にも注意する
こうした給付には申請できる期間があります。
協会けんぽの埋葬料では、死亡日の翌日から二年で時効となります。
埋葬費の場合には、実際に埋葬を行った日の翌日から二年です。
国民健康保険の葬祭費についても期限が設けられているため、加入していた自治体などへ確認する必要があります。
二年というと十分な時間があるように感じるかもしれません。
しかし、家族が亡くなった後には非常に多くの手続きがあります。
年金、健康保険、生命保険、銀行口座、クレジットカード、公共料金、相続などへの対応が続きます。
その中で少額の給付については後回しになり、そのまま忘れてしまう可能性があります。
葬儀後の手続き一覧に加えておくとよいでしょう。
領収書などは捨てずに保管する
葬儀後は大量の書類や領収書を受け取ります。
これらはすぐに処分しないことが重要です。
特に埋葬費のように実際に支払った費用を基準として給付額が決まる場合には、費用を確認できる書類が必要になることがあります。
また、葬儀費用の領収書は健康保険の給付だけでなく、相続税の申告でも重要になる場合があります。
一定の葬式費用については、相続税を計算するときに相続財産から差し引くことができるためです。
葬儀社への支払い、火葬費用、宗教者への支払いなどについて、誰が、何のために、いくら支払ったのかが分かるように整理しておくと、その後の手続きがしやすくなります。
葬儀費用そのものが戻ってくる制度ではない
葬祭費や埋葬料について、もう一つ理解しておきたいことがあります。
これらは葬儀費用を全額補填する制度ではありません。
例えば葬儀に百万円かかったとしても、協会けんぽの埋葬料が百万円支給されるわけではありません。
あくまで公的医療保険から一定額が給付される制度です。
そのため、葬儀費用そのものについては預貯金、生命保険、互助会なども含めて別に準備する必要があります。
これまで取り上げてきた生前見積もりや互助会などと、公的な葬祭費や埋葬料を組み合わせて考えることが重要です。
死亡後にもらえるお金を一覧にしておく
家族が亡くなったときには、葬祭費や埋葬料以外にも確認すべきお金があります。
例えば生命保険に加入していれば死亡保険金があります。
年金受給者が亡くなった場合には、まだ受け取っていない年金が未支給年金として一定の遺族に支給されることがあります。
勤務中や通勤中の事故などが原因で死亡した場合には、労災保険の葬祭料などが関係する場合もあります。
死亡後の手続きは、支払うお金だけに目が向きがちです。
しかし、申請することで受け取れるお金もあります。
本人が加入している制度や保険を生前に整理しておけば、残された家族が給付を見落とす可能性を減らすことができます。
結論
家族が亡くなった場合には、公的医療保険から葬儀などに関連する給付を受けられることがあります。
国民健康保険では、一般的に葬祭を行った人へ葬祭費が支給されます。
会社員などが加入する健康保険では、被保険者によって生計を維持されていた人へ埋葬料が支給され、生計を維持されていた人がいない場合には、実際に埋葬を行った人へ一定の範囲で埋葬費が支給される仕組みがあります。
被扶養者が亡くなった場合にも家族埋葬料があります。
ただし、これらの給付は自動的に支給されるものではありません。
加入していた医療保険を確認し、必要な人が申請することが重要です。
さらに申請期限もあります。
家族が亡くなった後は葬儀や相続などに追われますが、死亡後には支払う手続きだけでなく、申請すれば受け取れるお金もあります。
生前に加入している健康保険や生命保険などを整理し、家族が分かるようにしておく。
これも葬儀そのものを準備することと同じくらい大切な終活なのです。
参考
日本経済新聞 2026年8月8日朝刊 自分の葬儀「生前見積もり」 希望を反映、トラブル回避
日本経済新聞 2026年8月8日朝刊 積み立てで費用を準備
厚生労働省 国民健康保険条例準則
全国健康保険協会 埋葬料・埋葬費