地震や台風、豪雨などの自然災害に加え、新型コロナウイルス感染症の流行によって、「病院そのものが機能を維持できるか」が大きな課題となりました。
病院は災害の被害を受けても、診療を止めることはできません。むしろ災害時ほど、多くの患者を受け入れる必要があります。
そこで重要になるのが「病院BCP」です。
近年、老朽化した病院の建て替えが進められている背景にも、災害時でも医療を継続できる病院づくりという考え方があります。
今回は、病院BCPの基本と、その重要性について解説します。
BCPとは何か
BCPとは「Business Continuity Plan」の略で、日本語では「事業継続計画」と呼ばれます。
企業では、大規模災害や感染症、システム障害などが発生しても、重要な業務をできるだけ継続し、早期に復旧させるための計画として活用されています。
病院BCPは、この考え方を医療機関に取り入れたものです。
災害によって建物や設備が被害を受けても、救急医療や入院患者への対応を続けられるよう、あらかじめ行動計画や役割分担を定めておくことが目的です。
病院ならではのBCPが求められる理由
一般企業では、一時的に業務を縮小できる場合があります。
しかし病院では、診療を止めることが患者の命に直結することがあります。
人工呼吸器を使用している患者や集中治療室の患者は、停電が起きても治療を続けなければなりません。
また、災害発生時には救急搬送が急増し、通常以上の医療体制が求められます。
つまり病院は、自らも被災者でありながら、地域住民を救うという二重の役割を担っているのです。
そのため、一般企業以上に実効性の高いBCPが必要になります。
感染症への備えも重要なテーマ
病院BCPは地震や水害だけを想定するものではありません。
新型コロナウイルス感染症では、多くの医療機関が感染拡大への対応を迫られました。
通常診療を続けながら感染患者を受け入れるためには、動線を分けたり、陰圧室を活用したりするなど、施設面の工夫も必要になります。
さらに、防護具や医薬品の備蓄、職員が感染した場合の勤務体制の見直しなどもBCPの重要な内容です。
感染症への対応経験は、現在の病院BCPを大きく進化させるきっかけとなりました。
新しい病院に求められる設備とは
病院を建て替える際には、BCPの考え方を取り入れた設計が重要になります。
例えば、長時間稼働できる非常用発電設備や燃料の備蓄、断水時にも利用できる給水設備、多重化された通信システムなどが挙げられます。
さらに、医療ガス設備や電子カルテサーバーを災害から守る仕組みも欠かせません。
最近では、浸水リスクを避けるために非常用設備を高層階へ設置したり、災害時にも物流を維持できる搬入口を確保したりする病院も増えています。
建物そのものだけではなく、医療機能を維持するための設備全体がBCPの対象となるのです。
訓練を繰り返して初めて機能する
BCPは書類を作成するだけでは意味がありません。
実際の災害では、想定外の事態が次々に発生します。
そのため、多くの病院では定期的に防災訓練や停電訓練、通信訓練などを実施しています。
消防や自治体、自衛隊、DMATなどの関係機関と合同訓練を行うこともあります。
日頃から訓練を積み重ねることで、職員一人ひとりが緊急時にも冷静に行動できるようになります。
BCPは計画書ではなく、「実際に機能する仕組み」として育てていくことが大切なのです。
結論
病院BCPは、大規模災害や感染症などの非常時でも医療を継続するための事業継続計画です。
非常用設備の整備だけでなく、職員の役割分担や物資の備蓄、関係機関との連携、そして日頃の訓練まで含めた総合的な取り組みが求められます。
今後の病院建て替えでは、最新の医療設備だけではなく、「どのような状況でも医療を止めない」という視点がますます重要になります。
地域住民の命を守るためには、平時から災害を見据えた病院づくりを進めていくことが欠かせないでしょう。
参考
日本経済新聞 2026年7月28日 朝刊
老朽病院の建て替えに補助 厚労省、来年度予算要求へ 病床削減と両立探る