企業経営では、経営不振に陥った取引先や子会社を支援するために、売掛金や貸付金を放棄する場面があります。
「どうせ回収できないのだから債権を放棄してしまおう。」
経営判断としては合理的に思える場合もあります。しかし、税務上は債権放棄を行ったからといって、その全額が当然に損金になるわけではありません。
場合によっては、「寄附金」と判断され、損金算入が制限されることがあります。
今回は、債権放棄と寄附金課税の関係について解説します。
債権放棄とは何か
債権放棄とは、本来回収できる権利を持っている債権者が、その権利の全部または一部を放棄することをいいます。
対象となる債権には、
・売掛金
・貸付金
・未収金
・立替金
などがあります。
債権放棄によって債務者の返済義務は消滅しますが、税務上は「なぜ放棄したのか」が重要になります。
回収不能と債権放棄は別の考え方
「回収できないから放棄した」という場合でも、税務では回収不能と債権放棄は区別して考えます。
すでに法的整理が行われ、回収不能が客観的に確定しているのであれば、貸倒損失として処理できる可能性があります。
一方、まだ回収の可能性が残っているにもかかわらず、自社の判断だけで債権を放棄した場合には、貸倒損失ではなく寄附金と判断されることがあります。
つまり、「放棄した」という事実だけでは、損金算入の根拠にはならないのです。
寄附金と判断される理由
法人税では、相手に経済的利益を無償で与えた場合、原則として寄附金として取り扱われます。
債権放棄も、債務者から見れば返済義務がなくなるため、大きな経済的利益を受けたことになります。
そのため、
・経営支援のため
・取引先との関係維持のため
・グループ会社を救済するため
といった理由だけで債権放棄を行うと、寄附金と認定される可能性があります。
寄附金には損金算入限度額があるため、放棄した全額を費用にできない場合があります。
経済合理性が重要になる
税務で重視されるのは、その債権放棄に経済合理性があるかどうかです。
例えば、
「一部の債権を放棄することで事業が再建され、今後も重要な取引を継続できる。」
このような事情が客観的に説明できれば、単なる利益供与とは異なる評価がされる場合があります。
経営判断として合理性があることを示す資料を残しておくことが重要です。
グループ会社への債権放棄は特に注意
親会社が子会社へ貸し付けた資金を放棄するケースでは、税務調査でも重点的に確認されます。
グループ全体としては資金移動にすぎないように見えても、法人税は会社ごとに課税されます。
そのため、
・なぜ放棄が必要だったのか
・他の支援方法はなかったのか
・再建計画は存在したのか
などが確認されます。
十分な根拠がなければ、寄附金として損金算入が制限される可能性があります。
税務調査ではどのような資料が求められるのか
債権放棄を行った場合、税務調査では次のような資料が確認されます。
・取締役会議事録
・経営改善計画
・事業再生計画
・財務資料
・専門家の意見書
・債権放棄契約書
これらの資料から、放棄が合理的な経営判断だったことを説明できるかが重要になります。
貸倒損失との違いを理解する
貸倒損失は、回収不能という事実に基づいて認められる制度です。
一方、債権放棄は、債権者が自ら権利を放棄する行為です。
似ているように見えますが、税務上は全く異なる制度です。
この違いを理解しないまま処理すると、想定していた損金算入が認められず、追徴課税につながるおそれがあります。
結論
債権放棄は、経営上必要な判断となる場面がありますが、税務上は貸倒損失とは異なる考え方で取り扱われます。
回収不能が客観的に確定していない段階で債権を放棄すると、寄附金と認定され、損金算入が制限される可能性があります。特にグループ会社や関係会社への債権放棄では、経済合理性や再建計画の有無などが厳しく確認されます。
債権放棄を行う際には、税務上の影響を十分に検討し、判断の根拠となる資料を整備しておくことが、将来の税務リスクを防ぐために重要です。
参考
税のしるべ
2026年7月20日
連載「不良債権に係る税務上の取扱いの再確認」税理士・東辻 淳次
第3回/通達で貸倒損失の計上可否が明らかに