生成AIは、質問に答えたり文章を作成したりする段階から、自ら判断し、複数の作業を連続して実行する「AIエージェント」の時代へ進み始めています。
例えば、旅行の計画を立てるだけでなく、航空券やホテルを比較し、予約まで自動で行うAIも登場しています。企業では、調達や営業、顧客対応までAIが担う場面も増えつつあります。
便利になる一方で、「AIが自律的に判断する時代には、競争ルールはどう変わるのか」という新しい課題も生まれています。
今回は、AIエージェントの普及が独占禁止法や競争政策にどのような影響を与えるのかを分かりやすく解説します。
AIエージェントとは何か
生成AIは、人から質問されて回答を作ることが基本でした。
一方、AIエージェントは、利用者から目的を伝えられると、自ら必要な作業を考え、順番に実行します。
例えば、
・情報を収集する
・複数の商品を比較する
・条件に合う商品を選ぶ
・予約や注文を行う
・結果を報告する
といった一連の作業を、人の細かな指示がなくても進められるようになります。
つまり、「答えるAI」から「行動するAI」へ進化した存在といえます。
市場での競争はどう変わるのか
AIエージェントが普及すると、企業同士の競争の形も変わります。
これまでは、人が商品を比較し、自分で購入を決めていました。
しかし今後は、AI同士が価格や品質、納期などを比較し、最適な取引先を選ぶ場面が増えると考えられています。
その結果、
・価格競争が激しくなる分野
・逆に一部のAIが特定企業ばかり選ぶ分野
など、市場構造そのものが変わる可能性があります。
AIが市場を左右する時代になる
もし多くの利用者が同じAIエージェントを利用していたら、そのAIの判断基準が市場へ大きな影響を与えることになります。
例えば、
あるAIが特定の商品やサービスを優先的に提案すれば、その企業へ利用者が集中する可能性があります。
逆に、優れた商品でもAIが紹介しなければ、市場で選ばれにくくなることも考えられます。
つまり、AIエージェントが「新しい流通経路」になる可能性があるのです。
競争政策が注目するポイント
公正取引委員会などの競争当局は、AIそのものを問題視しているわけではありません。
注目しているのは、
・AIが公平に商品を選んでいるか
・特定企業だけを優遇していないか
・利用者が他のAIへ乗り換えられるか
・新しい企業にも市場へ参加する機会があるか
といった点です。
AIの判断が市場競争をゆがめるようであれば、新しい競争政策が必要になる可能性があります。
責任は誰が負うのか
AIエージェントが自律的に判断するようになると、新しい問題も生まれます。
例えば、
AIが特定企業の商品ばかり選んだ場合、
・AIを開発した企業の責任なのか
・AIを利用した企業の責任なのか
・AI自身の判断なのか
という問題です。
現在の法律は、人や企業が意思決定することを前提としているため、自律型AIへの対応は世界各国で議論が始まっています。
透明性が重要になる
AIエージェントが社会に広く普及するためには、「なぜその判断をしたのか」を説明できることも重要です。
例えば、
・なぜこの商品を選んだのか
・どのような条件で比較したのか
・広告が影響していないか
などが分からなければ、公正な競争が行われているか確認することができません。
そのため、AIの判断過程をできるだけ透明にする仕組みも重要な課題となっています。
競争政策は新しい段階へ進む
これまでの競争政策は、
・価格カルテル
・市場独占
・抱き合わせ販売
など、人間や企業の行動を中心に考えてきました。
しかしAIエージェントの時代には、
・AIの判断
・アルゴリズムの設計
・データの利用方法
・AI同士の相互作用
まで視野に入れた競争政策が求められるようになります。
競争当局には、技術の進歩に合わせてルールも進化させる柔軟さが必要になります。
結論
AIエージェントは、人の指示に従うだけのAIではなく、自ら判断して行動する新しい技術です。その普及によって、企業同士の競争だけでなく、消費者が商品を選ぶ仕組みも大きく変わる可能性があります。
だからこそ、AI時代の競争政策では、企業だけでなくAIの判断が市場へ与える影響も考慮しなければなりません。
AIがイノベーションを加速させる一方で、公正な競争も維持する。その両立を実現することが、自律型AI時代の競争政策に求められる新たな使命といえるでしょう。
参考
日本経済新聞 2026年7月26日 朝刊
直言〉AIの進歩に後れ取らず 茶谷栄治・公正取引委員会委員長
日本経済新聞 2026年7月26日 朝刊
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