生成AIをはじめとするデジタルサービスが急速に普及するなか、「抱き合わせ販売」という言葉を耳にする機会が増えています。従来は家電製品やソフトウェアの販売方法として問題になることがありましたが、現在ではAIやスマートフォン、クラウドサービスなどにも議論が広がっています。
一見すると、複数のサービスをまとめて利用できることは便利に思えます。しかし、その便利さが市場の競争を弱め、新しい企業の参入を妨げる場合には、独占禁止法上の問題になることがあります。
今回は、抱き合わせ販売とは何か、なぜ問題視されるのかを分かりやすく解説します。
抱き合わせ販売とは何か
抱き合わせ販売とは、人気のある商品やサービスを利用する条件として、別の商品やサービスの購入や利用も求める販売方法をいいます。
例えば、
・人気のソフトを使うために別のソフトも契約しなければならない
・特定のスマートフォンを利用すると、特定のアプリやサービスが最初から設定されていて削除できない
・生成AIを利用するには、自社の検索サービスやクラウドサービスも利用することが事実上必要になる
このようなケースが抱き合わせ販売として議論されることがあります。
もちろん、すべてのセット販売が違法というわけではありません。利用者にとって利便性が高く、自由に選択できるのであれば問題はありません。
なぜ独占禁止法の問題になるのか
独占禁止法が重視しているのは、企業同士が公正に競争できる環境を守ることです。
市場で圧倒的な力を持つ企業が抱き合わせ販売を行うと、本来なら選ばれる可能性のあった他社の商品やサービスが利用されなくなります。
その結果、
・競争相手の成長機会が失われる
・新規参入が難しくなる
・消費者の選択肢が減る
といった問題が生じます。
価格が安いか高いかだけではなく、市場そのものの競争が失われることが問題なのです。
デジタル時代は形が見えにくい
昔の抱き合わせ販売は、「商品Aを買うなら商品Bも買ってください」という分かりやすい形でした。
しかし、デジタル時代では状況が変わっています。
例えば、
・無料サービス同士が連携している
・初期設定で特定サービスだけが優遇される
・複数サービスを一つのアカウントでしか利用できない
・AI機能が自社サービスだけで最適化される
こうした仕組みは、表面的には利用者の利便性向上にも見えます。
しかし、他社サービスへの乗り換えが難しくなれば、実質的な囲い込みとなる可能性があります。
AIが抱き合わせ販売を加速させる理由
生成AIは単独で利用するよりも、検索、メール、クラウド、オフィスソフトなどと連携することで便利になります。
そのため、大手IT企業は自社サービス同士を積極的に組み合わせています。
利用者にとっては便利ですが、一方で競合するAI企業は利用者を獲得しにくくなります。
AIの性能だけではなく、サービス全体の仕組みで競争が決まる時代になったともいえます。
過去にも似た問題はあった
抱き合わせ販売は、AI時代になって初めて生まれた問題ではありません。
過去には、パソコン向け基本ソフトとブラウザーを組み合わせた販売方法や、スマートフォンに特定のアプリを標準搭載する方法などが国内外で議論されてきました。
当時も、
「便利だから利用者の利益になる」
という意見と、
「競争相手が排除される」
という意見が対立しました。
AIの普及によって、この議論が再び注目されているのです。
消費者にも影響がある
独占の問題は企業同士の話と思われがちですが、最終的に影響を受けるのは消費者です。
競争が十分に行われれば、
・より性能の高いAIが登場する
・価格競争が進む
・新しいサービスが生まれる
・利用者が自由に選べる
というメリットがあります。
反対に、一社だけが市場を支配すると、技術革新のスピードが鈍り、選択肢も少なくなる恐れがあります。
便利さと競争は両立できるのか
企業が複数のサービスを連携させること自体は、技術革新の成果でもあります。
問題なのは、その連携が利用者の利益のためなのか、それとも競争相手を排除するためなのかという点です。
公正取引委員会をはじめ各国の競争当局は、この違いを慎重に見極めながらルールづくりを進めています。
AI時代は技術の進歩が非常に速いため、従来以上に柔軟で実態に即した判断が求められています。
結論
抱き合わせ販売は、一見すると便利なサービス提供のように見えます。しかし、市場で強い立場にある企業がその力を利用して利用者を囲い込み、競争相手を排除する手段となれば、独占禁止法上の問題になる可能性があります。
生成AIの普及によって、サービス同士の連携は今後ますます進むでしょう。だからこそ、便利さだけではなく、公正な競争が維持されているかという視点も重要になります。AI時代の競争政策を理解するうえで、抱き合わせ販売は基本となる考え方の一つといえるでしょう。
参考
日本経済新聞 2026年7月26日 朝刊
直言〉AIの進歩に後れ取らず 茶谷栄治・公正取引委員会委員長
日本経済新聞 2026年7月26日 朝刊
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