現実の工場や建物をコンピューター上に再現し、故障の予測や最適な運用に役立てる「デジタルツイン」という技術が、医療の世界でも注目されています。
もし、一人ひとりの体の状態をコンピューター上で再現できれば、病気の進行を予測したり、治療方法の効果を事前にシミュレーションしたりすることが可能になるかもしれません。
まるで自分の「もう一人の体」をデジタル空間に持つような発想です。
今回は、デジタルツインの仕組みと、医療の未来をどのように変えていく可能性があるのかを分かりやすく解説します。
デジタルツインとは
デジタルツインとは、現実の人や物、設備などをデジタル空間に再現し、その状態をリアルタイムで把握・分析する技術です。
「ツイン」とは双子という意味で、現実世界とデジタル世界に二つの存在を持つことから、この名前が付けられました。
工場や航空機、都市計画などで活用が進んできましたが、近年は医療分野でも研究開発が活発になっています。
医療では、患者一人ひとりの身体の状態をできるだけ正確に再現し、診断や治療に役立てることが目標となっています。
一人ひとりに合わせた医療が可能になる
現在の医療は、多くの患者のデータをもとに標準的な治療法を選択することが一般的です。
しかし、人によって体質や病気の進行速度、薬の効き方は異なります。
デジタルツインが実用化されれば、患者本人の検査結果や画像データ、遺伝情報、生活習慣などを反映した「個人専用のモデル」を構築できる可能性があります。
その結果、その人に最も適した治療方法を選びやすくなり、より精度の高い個別化医療が実現すると期待されています。
治療を事前にシミュレーションできる可能性
デジタルツインの大きな特徴は、現実の治療を始める前にシミュレーションを行えることです。
例えば、新しい薬を使用した場合の変化や、手術方法の違いによる影響などをコンピューター上で予測できれば、より安全な治療計画を立てやすくなります。
もちろん、現時点ではすべてを正確に再現できるわけではありませんが、医師の判断を支援する新しいツールとして期待されています。
日常生活のデータも活用される
医療のデジタルツインは、病院で得られる情報だけでは完成しません。
ウェアラブル端末で取得した心拍数や睡眠時間、歩数などの日常生活のデータや、PHRに蓄積された健康情報も重要な材料になります。
これらをAIが分析することで、病気の兆候を早期に発見したり、健康状態の変化を予測したりできる可能性があります。
医療は病院の中だけで完結するものではなく、日々の生活と結び付いたものへと進化していくでしょう。
実用化には多くの課題がある
一方で、デジタルツインはまだ発展途上の技術です。
人体は非常に複雑であり、完全に再現することは容易ではありません。
また、大量の医療データや健康情報を利用するため、個人情報の保護や情報セキュリティの確保も重要になります。
さらに、高度な計算能力や医療機関同士のデータ連携など、多くの技術的課題も残されています。
社会全体で信頼できる仕組みを整えることが、普及への第一歩となるでしょう。
医療DXの次のステージへ
医療DXは、紙の書類を電子化する段階から、医療データを活用してより良い医療を実現する段階へ進みつつあります。
デジタルツインは、その先にある次世代の医療基盤として期待されています。
AIやゲノム医療、電子カルテ情報共有サービスなどと連携することで、一人ひとりに最適な医療を提供する社会が現実味を帯び始めています。
今後の医療は、「病気を治す」だけでなく、「病気を予測し、防ぐ」方向へと大きく変化していくかもしれません。
結論
デジタルツインとは、現実の人の身体や健康状態をデジタル空間に再現し、診断や治療、病気の予測などに活用する次世代技術です。
まだ研究・開発段階の分野も多いものの、個別化医療や予防医療の実現に向けて大きな期待が寄せられています。
AIやウェアラブル端末、PHRなどと組み合わせることで、医療DXはさらに進化し、一人ひとりに最適な医療を提供する時代へ近づいていくでしょう。
参考
日本経済新聞 2026年7月21日朝刊
紙の保険証、月末終了 スマホ搭載800万人