会計不正はなぜなくならないのか 経営者責任とガバナンスを考える

会計

企業の会計不正は、一部の企業だけの特殊な問題ではありません。毎年のように粉飾決算や会社資金の着服が発覚し、そのたびに投資家や取引先、従業員が大きな損害を受けています。

近年はコーポレートガバナンス改革や内部統制制度の整備が進み、監査も高度化しています。それにもかかわらず、不正は完全にはなくなっていません。

なぜ会計不正は繰り返されるのでしょうか。そして、企業はどのような仕組みを構築すれば不正を防げるのでしょうか。

この記事では、会計不正が発生する背景と、日本企業が取り組むべき課題について考えてみます。

会計不正は経営者が関与するケースが多い

会計不正というと、一部の経理担当者が勝手に行う不祥事を想像する人もいるかもしれません。

しかし、近年公表されている事例を見ると、実際には経営者や役員、管理職が主体となっているケースが数多くあります。

これは非常に重要な点です。

現場社員だけであれば内部統制や承認制度によって防止できる場合がありますが、経営トップ自身が不正を指示した場合、通常の内部統制は機能しにくくなります。

「トップが言うなら仕方がない」

この空気が組織全体に広がることで、不正は組織ぐるみへと発展してしまいます。

不正は突然始まるわけではない

多くの会計不正は、最初から巨額の粉飾を行うわけではありません。

例えば、

・利益目標を少しだけ達成したい

・赤字決算を避けたい

・金融機関への説明を乗り切りたい

このような小さな動機から始まることが少なくありません。

最初は一時的な修正だったものが、翌年度には元へ戻せなくなり、さらに粉飾を積み重ねる悪循環に陥ります。

これが「粉飾はやめられない」と言われる理由です。

一度始めると、毎年帳尻合わせが必要となり、不正は雪だるま式に拡大していきます。

業績プレッシャーが組織をゆがめる

企業では業績目標が設定されます。

本来、目標は組織を成長させるためのものですが、過度なプレッシャーになると逆効果になります。

「絶対に達成しろ」

「赤字は認めない」

「株価を維持しろ」

このような強い圧力が続けば、現場では正しい会計処理よりも数字を合わせることが優先される危険があります。

不正の背景には、制度だけではなく企業文化も深く関係しています。

内部統制にも限界がある

日本では内部統制制度(J-SOX)が導入され、企業は財務報告の信頼性を高める体制整備が求められています。

しかし、内部統制には弱点があります。

それが「経営者による無効化」です。

社長やCFOが自ら不正を行えば、部下は反対しにくく、承認手続も形だけになってしまいます。

そのため、制度だけ整備しても十分とは言えません。

内部監査、監査役、社外取締役、監査法人などが相互に牽制する体制を機能させることが重要になります。

日本と米国では経営者責任の重さが異なる

米国では、大規模な会計不正事件を契機として、経営者の責任を厳しく問う制度が整備されました。

経営トップは財務報告の適正性について自ら宣誓し、虚偽であれば重い刑事罰や高額の罰金が科されます。

さらに、投資家による集団訴訟も一般的であり、不正を行った場合の経済的リスクは非常に大きくなります。

一方、日本では刑事責任が問われる事例は限られ、経営者個人への抑止力は必ずしも十分とは言えません。

近年は制度見直しの議論も始まっていますが、今後どこまで実効性ある改革が進むかが注目されています。

AI時代でも最後は人の倫理が問われる

近年はAIやデジタル技術の活用により、不正検知の精度は大きく向上しています。

異常な仕訳

通常とは異なる取引

売上計上の偏り

こうしたデータはAIによって以前より発見しやすくなっています。

しかし、AIは不正を完全になくす魔法の道具ではありません。

最終的に判断し、不正を指示するのは人間です。

だからこそ、企業文化や倫理観、内部通報制度など、人を中心としたガバナンスが引き続き重要になります。

投資家が注目すべきポイント

個人投資家も決算書の数字だけを見る時代ではありません。

次のような点も確認すると、企業のガバナンスを判断する材料になります。

・社外取締役が十分に機能しているか

・内部統制報告書の内容

・監査法人の交代理由

・内部通報制度の運用状況

・経営者が業績だけでなくリスクも説明しているか

長期投資では、利益成長と同じくらい「信頼できる経営」が重要な企業価値になります。

結論

会計不正は、単なる経理上のミスではなく、企業統治そのものの問題です。

制度を整えるだけでは不十分であり、経営者自身への責任の明確化、内部統制の実効性向上、企業文化の改革が不可欠です。

投資家にとっても、企業の利益だけではなく、その利益が適正な会計処理の上に成り立っているかを見極める視点が求められます。

企業への信頼は、一度失われると簡単には回復できません。だからこそ、会計不正を未然に防ぐ仕組みづくりは、企業価値を守るための最も重要な経営課題の一つと言えるでしょう。

参考

日本経済新聞 2026年7月17日朝刊

会計不正の温床(上)経営者へ抑止力弱く 金商法の罰金、米の80分の1 日本株投資拡大に水

日本経済新聞 2026年7月17日朝刊

会計不正40社、なお高水準 前期、プライム企業が4割

タイトルとURLをコピーしました