カスハラの証拠はどう残すのか 録音や防犯カメラで従業員を守る方法編

経営

カスタマーハラスメントが発生したとき、企業にとって重要になるのが記録です。

顧客から暴言を受けた。

何時間も電話で拘束された。

店舗で威嚇された。

従業員を無断で撮影された。

こうした問題が起きても、後になって顧客から、

そんなことは言っていない

従業員の説明のほうが間違っている

と主張されることがあります。

そこで役立つのが、電話の録音や防犯カメラ、従業員が作成する対応記録などです。

2026年10月1日から企業にカスハラ対策が義務付けられることで、問題が起きたときに対応するだけでなく、その経緯を会社として記録する仕組みも重要になります。

ただし、録音や映像には顧客や従業員の個人情報が含まれることがあります。

証拠を残せばよいというだけではなく、保存や利用の方法にも注意する必要があります。

なぜカスハラでは証拠が重要なのか

カスハラの判断では、実際にどのような言動があったのかを確認する必要があります。

暴力など目に見える行為であれば比較的分かりやすいでしょう。

一方、問題の多くは会話の中で発生します。

どのような言葉を使ったのか。

どの程度の大声だったのか。

同じ要求を何回繰り返したのか。

従業員はどのような説明をしたのか。

顧客はそれに対して何と答えたのか。

時間がたつほど、人の記憶だけで正確に再現することは難しくなります。

録音や記録があれば、会社が事実関係を確認するときの重要な材料になります。

電話録音は有力な記録になる

コールセンターなどでは、顧客との電話を録音している企業があります。

カスハラ対策でも電話録音は有効です。

たとえば顧客が、

人格を否定する発言を繰り返した

危害を加えることを示唆した

何度説明しても同じ要求を続けた

といった場合、録音があれば実際の会話を確認できます。

相談を受けた上司や本社担当者が、従業員本人の説明だけに頼らず状況を把握できることも大きな利点です。

同じ顧客とのトラブルが繰り返された場合にも、過去の経緯を確認できます。

録音は従業員自身を守ることにもなる

録音は顧客の問題行為を確認するだけのものではありません。

従業員の対応が適切だったかを確認する材料にもなります。

カスハラ案件では、顧客側から、

店員の態度が悪かった

挑発された

説明を拒否された

といった主張が出る可能性があります。

録音が残っていれば、従業員がどのような説明を行い、どのように注意し、どの段階で対応を終了したのかを確認できます。

適切に対応していた従業員にとっては、自分の対応を客観的に示す材料になります。

店舗では防犯カメラが役立つ場合がある

対面で発生するカスハラでは、防犯カメラの映像が重要になる場合があります。

たとえば、

机をたたいた

商品を投げた

従業員へ接近して威嚇した

店舗内に長時間居座った

物を壊した

といった行為です。

音声が記録されていなくても、映像から当時の状況を確認できる場合があります。

特に暴力や器物損壊などが問題になれば、警察など外部機関へ相談するときにも客観的な資料となる可能性があります。

ただし、防犯カメラは本来、防犯や安全管理など一定の目的で設置されるものです。

撮影した映像を目的と無関係に利用することは避ける必要があります。

従業員が作成する対応記録も重要になる

すべての企業が電話録音システムや防犯カメラを導入できるわけではありません。

そこで基本になるのが、従業員自身が作成する対応記録です。

重要なのは、できるだけ具体的に記録することです。

たとえば、

発生日時

発生場所

対応した従業員

顧客の要求内容

具体的な発言

対応時間

会社側が説明した内容

責任者へ引き継いだ時刻

最終的な対応

などを残します。

単に、

顧客からひどい暴言を受けた

と記録するより、

どのような言葉を何回程度言われたのか

まで記録したほうが、後から状況を確認しやすくなります。

できるだけ早く記録する

対応記録は、問題が発生してからできるだけ早く作成することが重要です。

時間がたつと記憶が曖昧になるからです。

カスハラ対応が終了した後、当日中に記録するなどのルールを決めておく方法があります。

重大なケースでは、対応した従業員だけではなく、近くにいた従業員からも話を聞いて記録しておくことが考えられます。

それぞれの証言を照らし合わせることで、より正確に状況を把握できます。

記録する習慣をつくること自体が、会社のカスハラ対応能力を高めることにつながります。

SNS上のカスハラも記録する

カスハラは店舗や電話だけで発生するものではありません。

SNSや口コミサイトなどインターネット上で従業員が攻撃されるケースもあります。

たとえば、

従業員の実名を掲載する

顔写真を投稿する

人格を攻撃する投稿を繰り返す

勤務先や個人情報を拡散する

といった行為です。

インターネット上の情報は、投稿者によって削除される可能性があります。

そのため問題を確認した場合には、画面を保存するなどして記録を残すことが重要になります。

投稿日時や投稿者、掲載されている内容など、後から状況を確認できる形で保存します。

証拠を一か所に集める仕組みをつくる

従業員個人が記録を持っているだけでは、会社として十分なカスハラ対策とはいえません。

店舗ごとに記録方法が違ったり、担当者のパソコンだけに保存されていたりすると、必要なときに確認できなくなる可能性があります。

そこで、

相談窓口

人事部門

コンプライアンス部門

本社のお客様相談室

など、一定の部署や担当者へ情報を集約する仕組みをつくることが重要です。

同じ顧客から複数の店舗に苦情が寄せられている場合でも、情報を集約していれば繰り返し行為に気づくことができます。

個別のトラブルを会社全体の情報として管理するという考え方が必要です。

録音や映像には個人情報が含まれることがある

録音や防犯カメラ映像を利用するときに注意したいのが、個人情報やプライバシーとの関係です。

録音には顧客の声や氏名、電話番号、相談内容などが含まれる場合があります。

防犯カメラには顧客や従業員の顔などが映ります。

そのため企業は、

何の目的で記録するのか

誰が閲覧できるのか

どこに保存するのか

どれくらいの期間保存するのか

どのように廃棄するのか

といったルールを定めることが重要です。

カスハラ対策だからといって、録音や映像を社内で自由に利用してよいということではありません。

保存期間も決めておく

記録をいつまでも保存すればよいというものでもありません。

一方で、短期間ですべて消去してしまえば、問題が再発したときに過去の状況を確認できなくなります。

そこで企業として保存期間を決めます。

記録の種類や利用目的、事業の性質などを踏まえて設定する必要があります。

特に重大なカスハラ案件については、通常の問い合わせ記録とは異なる管理が必要になる場合もあります。

保存期間が終了した情報については、適切に削除や廃棄を行う仕組みも必要です。

証拠を残すことを目的化しない

カスハラ対策では証拠が重要ですが、

証拠を取ること

そのものが目的になってはいけません。

暴力が起きているのに、従業員がスマートフォンで撮影を続ける。

危険な顧客の前で録音操作をしようとする。

このような対応では、かえって危険が高まる可能性があります。

緊急時に最優先すべきなのは従業員や周囲の人の安全です。

安全を確保したうえで、すでに設置されている防犯カメラや電話録音、目撃者の証言などを利用します。

証拠確保と安全確保の順番を間違えないことが重要です。

記録は再発防止にも利用できる

カスハラ記録は、個別案件を解決するためだけのものではありません。

一定期間の記録を分析すれば、

どのようなカスハラが多いのか

どの商品やサービスで問題が発生しているのか

どの時間帯にトラブルが多いのか

対応が長時間化する原因は何か

どの段階で責任者へ交代しているのか

といった傾向が分かります。

そこから、マニュアルや研修、商品説明、店舗運営などを改善できます。

つまり、カスハラの記録は企業のリスク管理データでもあります。

記録が従業員の安心感につながる

企業が、

問題があれば記録を残す

会社がその記録を確認する

必要なら責任者や専門家が対応する

という仕組みを整えていれば、従業員も一人で問題を抱え込まずに済みます。

反対に、

証拠がないから仕方がない

顧客と言った言わないになったら従業員が我慢する

という会社では、従業員が相談すること自体を諦めてしまう可能性があります。

録音や記録の仕組みは、会社が従業員を守るという姿勢を具体化するものでもあります。

結論

カスハラが発生したとき、会社が適切に対応するためには、客観的な記録を残すことが重要です。

電話であれば録音。

店舗であれば防犯カメラ。

SNSであれば投稿内容の保存。

そして、すべての企業で基本となるのが従業員による対応記録です。

重要なのは、

いつ

どこで

誰が

何を言われたのか

どのように対応したのか

を後から確認できる状態にしておくことです。

一方、録音や映像には個人情報などが含まれる可能性があるため、利用目的、閲覧権限、保存方法、保存期間などの管理も必要になります。

2026年10月からのカスハラ対策では、問題が起きるたびに従業員の記憶だけを頼りに対応するのではなく、会社として事実を記録し、蓄積する仕組みをつくることが重要になります。

記録は顧客と争うためだけのものではありません。

従業員を守り、会社の対応を検証し、次のカスハラを防ぐための重要な経営情報なのです。

参考

日本経済新聞 2026年8月17日 朝刊 カスハラ対策に企業奔走

日本経済新聞 2026年8月17日 朝刊 官民で広がるサポート

厚生労働省 2026年2月26日 事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針

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