企業経営では、ルールを増やせばガバナンスが強くなると思われがちです。しかし実際には、細かなルールが増えすぎることで、本来の目的が見えなくなることがあります。
2026年、金融庁と東京証券取引所はコーポレートガバナンス・コードを5年ぶりに改訂し、原則の数を大幅に削減しました。この改訂は単なる整理ではなく、「企業が自ら考え、自ら説明する」という原点へ戻ろうとする大きな転換点でもあります。
今回は、この改訂から学べる経営の本質について考えてみます。
ガバナンスの目的はルールを守ることではない
コーポレートガバナンスとは、企業が持続的に成長し、企業価値を高めるための仕組みです。
ところが制度は改訂を重ねるたびに細分化され、企業は「何を守るか」ばかりに意識が向き、「なぜ守るのか」を考える機会が減っていきました。
本来のガバナンスは、経営者が主体的に判断し、その理由を株主や投資家へ説明するための考え方です。
ルールそのものが目的になってしまえば、本来のガバナンスとは言えません。
原則主義は経営者に考える責任を求める
今回の改訂では、「補充原則」が廃止され、原則数は83から30へと約6割削減されました。
一見すると規制緩和のようにも見えますが、実際には経営者へより大きな責任を求めています。
「なぜこの判断をしたのか」
「自社にとって最適な選択は何か」
こうした問いに対して、自分たちの言葉で説明できることが求められるからです。
つまり、「決められたことをやる経営」から、「自ら考えて説明する経営」への転換と言えるでしょう。
説明責任が企業価値を左右する時代
近年の投資家は、形式的な開示だけでは企業を評価しません。
経営戦略
人的資本への投資
設備投資
研究開発
資本配分
こうした経営判断について、「なぜそう考えたのか」を重視するようになっています。
数字だけでは企業の将来性は判断できません。
だからこそ、経営者自身が企業のストーリーを語る力が重要になっています。
中小企業にも同じ考え方が求められる
コーポレートガバナンス・コードは上場企業向けの制度ですが、その考え方は中小企業にも十分当てはまります。
例えば、
・設備投資を行う理由
・人材育成へ投資する理由
・借入を増やす理由
・事業承継を進める理由
これらを社員や金融機関、取引先へ説明できる企業は信頼を得やすくなります。
反対に、「昔からそうしている」という説明では、これからの時代は理解を得にくくなるでしょう。
企業規模に関係なく、説明できる経営が求められる時代になっています。
AI時代だからこそ経営者の言葉が価値を持つ
AIは制度やルールを整理することは得意です。
しかし、
「この会社は何を目指しているのか」
「なぜこの挑戦をするのか」
「社員とどんな未来をつくりたいのか」
こうした想いを語れるのは経営者しかいません。
ルールはAIでも理解できます。
理念や覚悟は、人しか語れません。
これからの経営では、その違いが企業価値を生み出していくでしょう。
ガバナンスは経営者の思考力を映す鏡
今回の改訂は、単なるルールの削減ではありません。
企業に対して「もっと自分で考えてください」というメッセージでもあります。
制度が細かくなるほど、企業は受け身になります。
一方で原則だけが示されれば、経営者は自ら考え、説明し、責任を持つ必要があります。
それこそが本来のガバナンスです。
これからは「ルールを守る会社」よりも、「自分たちの考えを語れる会社」が市場から高く評価される時代になっていくでしょう。
結論
コーポレートガバナンス・コードの見直しは、企業に対して「細かなルールに従うこと」ではなく、「自ら考え、自ら説明すること」を求める改革です。
これは上場企業だけの話ではありません。中小企業や個人事業主にとっても、自社の経営方針や投資判断を自分の言葉で説明する力は、金融機関や取引先、従業員からの信頼を得る重要な要素になります。
人生100年時代、企業が長く成長し続けるためには、制度に依存する経営ではなく、自らの理念と戦略を語れる経営がますます重要になっていくのではないでしょうか。
参考
日本経済新聞(2026年7月3日 朝刊)
解説ガバナンス指針(1) 原則の数、6割削減 金融庁など5年ぶり改訂 「細かすぎ・複雑」反省