住宅価格や家賃の上昇が続く中、賃貸住宅市場にも大きな変化が起きています。その象徴ともいえるのが「定期借家契約」の増加です。
これまで賃貸住宅といえば、契約を更新しながら長く住み続ける普通借家契約が一般的でした。しかし近年は、契約期間が満了すると原則として退去する定期借家契約を採用する物件が急速に増えています。
一見すると契約方法が違うだけのように思えますが、この変化は家賃の決まり方や住宅市場、さらには私たちの住まい方そのものに影響を与えています。
今回は、定期借家契約が増えている背景と、これから住宅を借りる人が知っておきたいポイントについて考えてみます。
定期借家契約とは何か
定期借家契約とは、契約期間があらかじめ決められており、その期間が終了すると契約も終了する賃貸契約です。
住み続けるためには貸主と借主が改めて合意し、新たに契約を結ぶ必要があります。
一方、多くの人が利用している普通借家契約では、正当な理由がない限り貸主は更新を拒否することができず、借主は比較的安心して住み続けることができます。
つまり、定期借家契約は契約終了時の自由度が貸主にあり、普通借家契約は借主の居住権が強く保護されている制度といえます。
なぜ定期借家契約が増えているのか
背景には住宅市場の変化があります。
東京ではマンション価格が高騰し、購入を見送って賃貸を選ぶ人が増えています。その結果、賃貸住宅の需要が高まり、貸主が入居者を選びやすい環境になっています。
さらに、物価上昇によって建物の修繕費や管理費、人件費も上昇しています。
普通借家契約では入居中の家賃を自由に引き上げることは容易ではありません。
しかし定期借家契約であれば、契約終了後に市場価格を反映した新しい家賃で再契約を提案することができます。
貸主にとっては、物価上昇リスクに対応しやすい契約形態になっているのです。
定期借家だから家賃が安い時代ではなくなった
かつては「定期借家は更新できない代わりに家賃が安い」というのが一般的な考え方でした。
ところが最近では状況が変わっています。
人気エリアや築浅、高級マンションなど、もともと需要の高い物件で定期借家契約が採用されるケースが増えています。
つまり、「条件が悪いから定期借家」ではなく、「人気物件でも定期借家」が当たり前になりつつあるのです。
市場全体が貸主優位になると、契約条件よりも物件の魅力が優先されるようになります。
これは不動産市場の需給バランスが大きく変化していることを示しています。
借主にもメリットはある
定期借家契約は貸主に有利な制度という印象がありますが、借主にも活用できる場面があります。
例えば、
・子どもの進学期間だけ住む
・転勤までの数年間だけ利用する
・住宅購入予定地域に試しに住んでみる
このように、居住期間が明確な場合には非常に合理的な契約になります。
人生100年時代では、働き方や家族構成の変化によって住み替えの機会も増えています。
「一つの家に何十年も住み続ける」という価値観だけではなく、「必要な期間だけ住む」という考え方も広がっていくでしょう。
住宅市場は所有から利用へ変わりつつある
近年はカーシェアリングやサブスクリプションなど、「所有する」から「利用する」へ価値観が変化しています。
住宅も同じ流れの中にあります。
住宅価格が上昇し続けるなかで、購入を急がず、まずは賃貸で暮らしながら生活スタイルに合った地域を見極める人も増えています。
定期借家契約は、そのような柔軟な住み方を支える制度としても注目されています。
住宅は人生最大の買い物ですが、必ずしも最初から購入することだけが正解ではありません。
ライフステージに応じて住まいを選び直すという発想が、今後はますます重要になっていくでしょう。
結論
定期借家契約の増加は、単なる契約方法の変化ではありません。
物価上昇、住宅価格の高騰、人口移動、ライフスタイルの多様化など、社会全体の変化を映し出す現象でもあります。
借主にとっては更新できないという制約がありますが、その一方で、自分のライフプランに合わせて柔軟に住まいを選択できるメリットもあります。
これから住宅を探す際には、「普通借家か定期借家か」という契約形態だけで判断するのではなく、自分がどれくらいの期間住む予定なのか、将来のライフプランと照らし合わせて選ぶことが大切です。
住まいもまた、人生設計の一部です。制度を正しく理解することが、後悔しない住まい選びにつながるのではないでしょうか。
参考
日本経済新聞(2026年7月3日 朝刊)
定期借家の家賃、上昇加速 23区家族向けマンション、昨年度7%高