「家は買うもの。」
長い間、日本ではこの考え方が当たり前でした。マイホームは人生最大の買い物であり、人生の目標でもありました。
しかし、時代は大きく変わりつつあります。
住宅価格の高騰、働き方の多様化、転勤や転職の増加、そして人生100年時代の到来によって、「所有すること」が必ずしも最適な選択ではなくなってきました。
最近では定期借家契約の増加にも見られるように、「必要な期間だけ住む」という考え方が少しずつ広がっています。
まるで動画配信サービスやカーシェアのように、住まいも「利用する価値」が重視される時代へ向かっているのかもしれません。
所有することが豊かさだった時代
高度経済成長期には、住宅価格は長期的に上昇するという期待がありました。
終身雇用が一般的で、勤務地も大きく変わりませんでした。
家族構成も比較的安定していたため、一度家を購入すれば長く住み続けることが合理的だったのです。
住宅は生活の場であると同時に、資産としての役割も果たしていました。
「家を持つこと」が安心と豊かさの象徴だった時代だったといえるでしょう。
社会の変化が住まいの価値を変えた
現在は当時とは社会環境が大きく異なります。
転職は珍しいことではなくなり、リモートワークの普及によって勤務地に縛られない働き方も広がりました。
結婚や子育て、介護など、ライフステージによって必要な住環境も変化します。
さらに、住宅価格や建築費の上昇によって、購入のハードルも高くなっています。
こうした環境では、「一生住む家」を前提に考えるよりも、その時々の暮らしに合った住まいを選ぶほうが合理的なケースが増えてきました。
サブスク型の発想が住まいにも広がる
私たちはすでに、多くのものを「所有」から「利用」へ切り替えています。
音楽は配信サービスで聴き、映画は動画配信で楽しみ、車はカーシェアを利用する人も増えました。
大切なのは「持っていること」ではなく、「必要なときに利用できること」という価値観です。
住まいも同じです。
子どもの進学期間だけ学校の近くに住む。
転勤期間だけ都市部で暮らす。
住宅購入を検討する地域で試しに生活してみる。
こうした柔軟な住み方は、これからさらに一般的になっていくでしょう。
所有には見えにくいコストがある
住宅を所有すると、住宅ローンだけでは終わりません。
固定資産税や都市計画税、修繕費、火災保険、管理費、修繕積立金など、多くの維持費がかかります。
また、ライフスタイルが変わっても簡単には住み替えられません。
転勤や介護、子どもの独立など、人生には予想できない出来事が数多くあります。
そのような変化に柔軟に対応できることも、賃貸住宅の大きな価値といえるでしょう。
「買うか借りるか」ではなく「何を優先するか」
住まい選びに絶対の正解はありません。
長く住む予定があり、家族構成も安定しているのであれば、住宅購入が適している場合もあります。
一方で、転勤の可能性がある人や、将来どこで暮らすか決めていない人には、賃貸住宅のほうが選択肢を広げられることがあります。
重要なのは、「家を持つこと」を目的にするのではなく、自分らしい暮らしを実現する手段として住まいを考えることです。
人生100年時代は住み替える時代でもある
人生100年時代では、一つの家で一生を過ごす人よりも、ライフステージに応じて住み替える人が増えていくでしょう。
子育て世代には教育環境を重視した住まい。
現役時代には通勤や利便性を重視した住まい。
定年後には医療や買い物が便利な住まい。
さらに、趣味や地域とのつながりを重視した暮らしを選ぶ人も増えていくはずです。
住まいは人生の目的ではなく、人生を豊かにするための道具です。
だからこそ、その時々に最適な住まいを選ぶという発想が、これからますます重要になるでしょう。
結論
住まいも「所有する時代」から「利用する時代」へと少しずつ変化しています。
もちろん、持ち家には安心感や資産形成という魅力があります。一方で、賃貸には柔軟性という大きな価値があります。
大切なのは、世間の常識や固定観念ではなく、自分自身のライフプランに合った選択をすることです。
人生100年時代は、働き方も、生き方も、住まい方も多様化する時代です。
「家を持つこと」ではなく、「より良い暮らしを実現すること」を目的に住まいを考えることが、これからの時代の賢い選択ではないでしょうか。
参考
日本経済新聞(2026年7月3日 朝刊)
定期借家の家賃、上昇加速 23区家族向けマンション、昨年度7%高