AIの進化によって、税理士業務は大きな転換期を迎えています。
記帳入力の自動化、領収書の読取、申告書作成支援、税務相談への活用など、これまで人が行っていた業務の一部は既にAIが担い始めています。
そして今、新たな技術として注目されているのがAI眼鏡です。
AI眼鏡は、利用者が見ているものを認識し、必要な情報をリアルタイムで提供するウェアラブル端末です。まだ一般的な普及段階には至っていませんが、今後数年で業務利用が進む可能性があります。
では、税理士がAI眼鏡を活用する時代は本当にやってくるのでしょうか。
今回は士業DXの未来について考えてみたいと思います。
AI眼鏡とは何か
AI眼鏡は、眼鏡型のコンピューターと考えると分かりやすいでしょう。
カメラやマイク、スピーカーを内蔵し、
・目の前の情報を認識する
・音声でAIに質問する
・翻訳する
・情報を検索する
・記録を残す
といった機能を備えています。
現在は主に一般消費者向けの製品が中心ですが、企業向けの活用も広がり始めています。
建設業では現場作業支援、医療現場では診療補助、製造業では作業手順の確認などに利用されつつあります。
税理士業界も例外ではありません。
税務調査の現場は変わるのか
AI眼鏡が最も力を発揮する場面の一つが税務調査かもしれません。
税務調査では、
・帳簿
・請求書
・領収書
・契約書
など大量の資料を確認します。
将来的にはAI眼鏡を通じて資料を読み取り、
・過去の申告内容との照合
・税法上の論点抽出
・確認すべきポイントの提示
などがリアルタイムで行われる可能性があります。
税理士は紙資料をめくりながら確認するだけでなく、AIから補助的な助言を受けながら対応する時代になるかもしれません。
もちろん最終判断は人間が行いますが、情報整理の効率は飛躍的に向上するでしょう。
顧問先訪問の姿も変わる
顧問先との面談も大きく変化する可能性があります。
例えば工場や店舗を訪問した際、
AI眼鏡が設備や在庫状況を認識し、
・設備更新の時期
・補助金の活用可能性
・固定資産管理上の注意点
などを即座に表示できるようになるかもしれません。
経営者との会話中にも、
・過去の決算内容
・資金繰り状況
・借入金残高
・利益推移
などを必要に応じて確認できれば、より深い経営助言が可能になります。
税理士が「数字を見る専門家」から「経営を支援する専門家」へ進化する後押しになる可能性があります。
ひとり税理士との相性
AI眼鏡は特にひとり税理士との相性が良いと考えられます。
ひとり税理士の最大の課題は、
・人手不足
・時間不足
・専門分野の広さ
です。
税務、会計、社会保険、相続、事業承継、補助金など、多くの知識を求められます。
AI眼鏡が普及すれば、
「その場で調べる」
という行為そのものが変わるかもしれません。
質問された瞬間に関連情報を確認できれば、業務効率は大きく向上します。
限られた人数で幅広い業務を行う小規模事務所ほど、その恩恵を受ける可能性があります。
税理士の価値は下がるのか
新しい技術が登場すると、
「税理士は不要になるのではないか」
という議論が繰り返されます。
しかし、AI眼鏡が普及したとしても税理士の価値が消えるとは考えにくいでしょう。
なぜなら経営者が求めているのは情報そのものではなく、
・意思決定の支援
・経営判断への助言
・将来への見通し
だからです。
AIは情報を提示できます。
しかし、
「今は設備投資を行うべきか」
「事業承継をどう進めるべきか」
「法人化すべきか」
といった経営判断には、人間同士の対話が欠かせません。
むしろAIによって単純業務が減るほど、税理士には相談相手としての価値が求められるようになるでしょう。
情報漏えいという新たな課題
一方でAI眼鏡には大きな課題もあります。
それが情報漏えいリスクです。
税理士は、
・決算書
・給与情報
・マイナンバー
・相続資料
など極めて機密性の高い情報を扱います。
AI眼鏡が常時カメラやマイクを利用する仕組みであれば、
・顧問先情報の漏えい
・会議内容の記録
・個人情報の流出
といったリスクも高まります。
税理士業界では今後、
AI利用ガイドラインやセキュリティルールの整備が重要になるでしょう。
士業DXの本質
AI眼鏡は単なる新しいガジェットではありません。
本質は、
「必要な情報を必要な瞬間に得られる環境」
を実現することにあります。
かつて税理士は、
紙の総勘定元帳を確認し、
電卓を叩き、
税法六法をめくっていました。
その後、
パソコン
インターネット
クラウド会計
生成AI
へと進化してきました。
AI眼鏡もその延長線上にある技術です。
道具は変わっても、顧問先を支援するという税理士の本質的な役割は変わりません。
結論
AI眼鏡は、税理士業務の効率化や高度化に大きな可能性を持っています。税務調査、顧問先訪問、経営助言などの場面で活用されれば、必要な情報を瞬時に取得できる環境が実現するかもしれません。
特にひとり税理士にとっては、限られた時間と人員を補う強力なパートナーになる可能性があります。
一方で、情報漏えいなど新たなリスクへの対応も欠かせません。
AI眼鏡が普及しても、税理士の役割がなくなるわけではありません。むしろ単純作業から解放されることで、経営者の相談相手としての価値がこれまで以上に重要になるでしょう。
士業DXの本当の目的は人間を置き換えることではなく、人間がより価値の高い仕事に集中できる環境をつくることなのかもしれません。
参考
・日本経済新聞 2026年5月31日朝刊「AI眼鏡、盗撮防止は難題」
・総務省「情報通信白書」
・デジタル庁「デジタル社会の実現に向けた重点計画」
・日本税理士会連合会 AI・デジタル化に関する各種資料
・経済産業省 DXレポート