みなし贈与の中でも、実務で最も判断に迷うのが低額譲渡です。
時価より低い価格で取引をした場合、どこまでが許容され、どこからが課税対象となるのか。この線引きは明確な基準が示されているわけではありません。
第6回では、判例の考え方をもとに、低額譲渡の判断軸を整理します。
低額譲渡の基本ルール
税法上、時価より著しく低い価額で財産を譲渡した場合、その差額は贈与とみなされます。
ここで重要なのは、「低い価額」ではなく「著しく低い価額」という点です。
つまり、すべての割安取引が課税対象となるわけではなく、一定の範囲内であれば許容される余地があります。
問題は、その境界が明確でないことです。
判例が示す重要な視点
判例では、低額譲渡の判断においていくつかの重要な考え方が示されています。
第一に、当事者の意思は基本的に考慮されないという点です。
税務上は、贈与の意思があったかどうかではなく、経済的利益が移転しているかどうかが判断基準となります。
第二に、時価との差額に着目するという点です。
差額が存在する場合、その部分に担税力があると考えられ、課税の対象となり得ます。
第三に、取引の形式ではなく実態で判断されるという点です。
売買という形式であっても、実質的に贈与と評価されれば課税されます。
「時価」とは何か
低額譲渡の判断において、最も重要な概念が時価です。
判例では、時価とは「不特定多数の当事者間で自由な取引が行われた場合に通常成立する価額」とされています。
つまり、特殊な関係や事情を排除した、客観的な市場価格が基準となります。
この点は、親族間取引や同族会社間取引において特に重要になります。これらの取引は、一般の市場価格とは異なる条件で成立することが多いためです。
何%なら安全かという誤解
実務では、「時価の○%なら安全」という考え方がよく見られます。
しかし、判例はこのような画一的な基準を否定しています。
確かに、不動産評価においては一定の割合が目安として意識されることがありますが、それだけで課税の有無が決まるわけではありません。
あくまで個別の事情を踏まえた総合判断となります。
この点を誤解すると、形式的には安全に見える取引でも課税されるリスクがあります。
評価方法の違いが生む問題
さらに複雑なのは、時価の評価方法です。
税務実務では、評価通達に基づく評価額が用いられることが多いですが、これはあくまで簡便な基準です。
実際の市場価格と乖離がある場合には、その差が問題となる可能性があります。
特に不動産や非上場株式では、評価方法によって大きく金額が変わるため、慎重な判断が必要になります。
同族会社取引の特殊性
低額譲渡が問題となる場面として、同族会社との取引があります。
同族会社では、株主や経営者の意向が強く反映されるため、一般の市場取引とは異なる価格設定が行われやすくなります。
判例でも、このような取引については、客観的な交換価値とは異なる要素が含まれているとして、慎重な評価が求められています。
結果として、形式的な取引価格ではなく、実質的な価値に基づいて課税される可能性があります。
実務での判断ポイント
低額譲渡のリスクを回避するためには、以下の点が重要になります。
- 時価の根拠を明確にする
- 評価方法を合理的に説明できるようにする
- 親族間・同族会社間取引では特に慎重に判断する
特に、「第三者間でも成立する価格か」という視点が重要です。
どこからが危険か
結論として、明確な安全ラインは存在しません。
ただし、次のような場合はリスクが高いといえます。
- 時価との差が大きい場合
- 取引の合理性が説明できない場合
- 特殊な関係に基づく価格設定の場合
これらが重なると、みなし贈与と判断される可能性が高くなります。
結論
低額譲渡の判断は、単純な数値基準ではなく、実質的な経済価値に基づいて行われます。
判例が示しているのは、「形式ではなく実態」という一貫した考え方です。
したがって、重要なのは安全なラインを探すことではなく、合理的に説明できる取引を行うことです。
次回は、非上場株式や同族会社におけるみなし贈与の問題について、さらに具体的に整理していきます。
参考
東京税理士協同組合 教育情報事業 全国統一研修会資料
みなし贈与と事業承継税制(令和8年)
国税庁 公表資料
財務省 公表資料