かつて日本は「黄金の国ジパング」として海外に知られました。
元記事によると、江戸時代には世界の金生産量の約20%を日本が占め、その約半分を佐渡金山が生産していたとされています。
現在の日本の金生産量は2024年で約4トンです。
2025年の世界の金鉱山生産量約3,300トンと比べれば、かつてのような金生産大国ではありません。
ところが今、日本の金を取り巻く環境が変わり始めています。
北海道などでは新しい金鉱脈の探鉱が進み、都市では廃棄物から金を回収する技術が進歩しています。
さらに水から金を回収する研究や、鉱山でのドローン活用も進んでいます。
現代の「黄金の国ジパング」は、地下の金鉱山だけで考えるものではなくなっているのです。
北海道で新しい金鉱山を探している
北海道雄武町では、カナダのアービング・リソーシズとJX金属が金鉱脈を調査しています。
アービングは2026年6月、調査地域の一部で高品位の鉱脈を確認したと発表しました。
ただし金鉱脈を発見したからといって、すぐに鉱山になるわけではありません。
さらにボーリングなどを行い、
金品位
鉱脈の広がり
資源量
採掘方法
事業性
などを確認する必要があります。
鉱業権や許認可、環境対策、設備投資なども必要です。
JX金属は、順調に進んだ場合でも事業化は2030年代になるとみています。
鉱山開発は非常に長い時間を必要とする事業なのです。
実現すれば数十年ぶりの新規金鉱山になる
現在、日本で操業する代表的な金鉱山が鹿児島県伊佐市の菱刈鉱山です。
菱刈鉱山は1985年に操業を開始しました。
北海道雄武町での鉱山開発が実現すれば、菱刈鉱山以来、数十年ぶりとなる国内の新規金鉱山になります。
これは単に金の生産量が増えるという話ではありません。
日本国内で、
探鉱
鉱山開発
採掘
鉱石処理
鉱山運営
という一連の技術や人材を維持することにもつながります。
国内に実際の鉱山があるからこそ蓄積できる技術があります。
日本にはまだ探鉱余地がある
北海道だけが注目されているわけではありません。
アービングは鹿児島県霧島市の旧山ヶ野金山周辺で、住友商事や米ニューモントと探鉱を進めています。
石川県志賀町でも初期的な地表調査を行っています。
アービング側は、日本には大きな探鉱余地があるとの見方を示しています。
過去には言葉の壁や円高などもあり、日本は世界の探鉱投資から取り残されていたとしています。
つまり「昔たくさん掘ったから、もう日本には金がない」と単純に考えることはできません。
十分に調べられていない地域が残っている可能性があるのです。
金価格上昇が地下資源の価値を変えた
日本で再び金探鉱への関心が高まっている大きな理由が金価格です。
2026年9月17日時点のニューヨーク金先物価格は1トロイオンス4,000ドル台前半となり、10年前の3倍を超えています。
さらに日本では円安の影響があります。
元記事では、円建て金価格は日本で金探鉱が下火になった1990年代末ごろの10倍以上になっているとされています。
地下にある金そのものが増えたわけではありません。
金の価格が上昇したことで、以前なら採算が取れなかった鉱石まで経済的な資源になる可能性が出てきたのです。
日本の強みは天然鉱山だけではない
現代の日本の金戦略を考える場合、天然鉱山だけを見るのでは十分ではありません。
もう一つの重要な資源が都市鉱山です。
日本では大量の電子機器や電気製品が利用されています。
その中には、
金
銀
銅
レアメタル
などさまざまな金属が含まれています。
海外から輸入した資源が製品となって日本国内で使われ、使用後も国内に残っています。
つまり資源輸入国である日本の都市には、長年輸入してきた金属資源が蓄積されているのです。
ゴミの焼却灰まで金鉱石になる
都市鉱山の考え方は、使用済み電子機器を回収するだけにとどまりません。
日本製鉄系の日本電工は、茨城県鹿嶋市で自治体のゴミ焼却灰から金属を回収する設備を拡充しています。
現在4基の炉を2030年までに7基へ増やす計画です。
元記事によると、回収される金属に含まれる金の濃度は一般的な金鉱石の約10倍とされています。
捨てられた携帯扇風機やクレジットカードなどに含まれていた金属が、焼却後に濃縮された可能性があります。
地下の岩石だけが鉱石なのではありません。
これまで廃棄物として扱っていたものも、回収技術と価格条件が整えば資源になるのです。
海水や温泉まで資源候補になる
さらに研究段階では、水に含まれる金を回収する技術も開発されています。
IHIは東北地方の温泉から採取した藻類を利用し、金を回収する技術を研究しています。
ただし海水に含まれる金の濃度は極めて低く、元記事では金1グラムを回収するために中禅寺湖に相当する量の水が必要になるとされています。
これでは経済的な回収は簡単ではありません。
そこで注目されるのが、海水より金濃度が高い可能性のある温泉水や鉱山廃水です。
重要なのは、海水から大量の金を採ることが直ちに実現するという話ではありません。
これまで資源と考えられていなかった場所まで、技術によって資源候補になり始めていることです。
鉱山DXも日本の資源になる
日本の金戦略で忘れてはいけないのが技術です。
菱刈鉱山では住友金属鉱山が2025年9月から坑内でドローンを活用しています。
人が目視しにくい場所へドローンを飛ばし、金鉱脈の方向を確認して次の発破方向を判断することに役立てています。
こうした技術を使えば、安全性を高めながら採掘精度を向上できる可能性があります。
さらに、
AI
自動運転
遠隔操作
センサー
3次元データ
などを組み合わせれば、人が危険な場所へ入る作業を減らすことも考えられます。
鉱山DXによって採掘コストを下げることができれば、これまで採算が取れなかった鉱石まで資源になる可能性があります。
国内鉱山は技術の実験場にもなる
国内金鉱山の価値を、生産される金の量だけで測る必要はありません。
住友金属鉱山は、菱刈鉱山で得たノウハウを海外鉱山へ展開することも視野に入れています。
国内に実際の鉱山があれば、新しい技術を現場で試すことができます。
改善した技術を海外事業で利用することもできます。
つまり国内鉱山は、
金の生産拠点
技術開発拠点
人材育成拠点
海外事業の実証拠点
という複数の役割を持つことができます。
日本の金生産量が世界全体では小さくても、鉱山技術まで含めれば別の価値が見えてきます。
天然鉱山と都市鉱山は競争相手ではない
天然鉱山と都市鉱山は、どちらか一方を選ぶものではありません。
役割が異なります。
天然鉱山は地下にある新しい資源を社会へ供給します。
都市鉱山は、すでに社会に投入された資源を回収して再利用します。
さらに焼却灰や鉱山廃水などから資源を回収できれば、これまで失われていた金属を循環させることができます。
日本のように多くの鉱物資源を海外から輸入する国では、この組み合わせが特に重要になります。
「掘る」と「回収する」を一つの資源戦略として考える必要があります。
黄金の国の意味そのものが変わる
江戸時代の「黄金の国」は、国内の山から大量の金を採る国でした。
現代では同じ形を目指す必要はありません。
天然鉱山から金を採る。
都市鉱山から金を回収する。
廃棄物から金属を取り出す。
水に含まれる資源の回収技術を開発する。
鉱山DXの技術を海外へ展開する。
こうした複数の仕組みを持つことも、新しい資源国の姿です。
資源の量だけではなく、資源を見つけ、回収し、循環させる技術まで含めて考える必要があります。
資源安全保障という視点も重要になる
金は投資対象として注目されることが多い金属です。
しかし日本の資源戦略を考える場合には、金だけを見るのではなく、金と一緒に回収できる銀、銅、レアメタルなどにも目を向ける必要があります。
世界情勢が不安定になれば、資源価格や物流が大きく変動する可能性があります。
すべての資源を国内だけで賄うことは現実的ではありません。
それでも、
海外からの輸入
国内鉱山
都市鉱山
リサイクル
技術開発
を組み合わせれば、特定の供給源だけに依存するリスクを小さくできます。
「黄金の国ジパング」再興は、資源安全保障という大きなテーマにもつながっています。
結論
「黄金の国ジパング」が、江戸時代と同じ形で復活するとは限りません。
現在の日本の金生産量は世界全体から見れば小さく、中国、ロシア、オーストラリアなどの主要生産国と量で競う状況ではありません。
しかし日本には別の可能性があります。
北海道などで新しい金鉱床を探す。
菱刈鉱山で高度な採掘技術を磨く。
都市鉱山から金を回収する。
焼却灰を資源に変える。
温泉水や鉱山廃水から金属を回収する技術を開発する。
そして国内で磨いた鉱山技術を海外へ展開する。
これらを組み合わせれば、日本の資源戦略は「地下からどれだけ掘れるか」だけではなくなります。
かつての黄金の国は、山から金を掘る国でした。
これからの黄金の国は、地下、都市、廃棄物、水の中にある資源を技術によって見つけ、回収し、循環させる国なのかもしれません。
日本が再び「黄金の国ジパング」と呼ばれるとすれば、それは金の生産量だけではなく、限られた資源を最大限に生かす技術と仕組みによって実現する新しい姿なのです。
参考
日本経済新聞 2026年9月21日 朝刊 「黄金の国ジパング」再興へ