相続税や贈与税の土地評価では、道路と土地の間に高低差がある場合、その高低差が土地の利用価値にどの程度影響しているかが重要になります。
例えば、道路よりも土地が3m高い場合や、道路から階段を上らなければ敷地に入れない場合です。
このような土地は、道路と同じ高さにある土地と比較して利用しにくいため、相続税評価額を減額できるのではないかと考えられます。
実際、国税庁の取扱いでは、利用価値が著しく低下している宅地について、一定の条件のもとで10%の評価減が認められる場合があります。
しかし、高低差があるという理由だけで、すべての土地について10%の評価減が認められるわけではありません。
特に注意したいのが、複数の道路に接している土地や、周辺の土地にも同じような高低差がある場合です。
今回は、2026年度の税理士研修資料で紹介された事例をもとに、高低差による10%評価減の判断基準と、実務上の注意点を解説します。
高低差による10%評価減とは何か
相続税の土地評価では、原則として財産評価基本通達に基づいて評価額を計算します。
路線価地域の宅地であれば、路線価を基礎として、奥行価格補正率や不整形地補正率などを適用します。
しかし、土地によっては、これらの補正だけでは利用上の不利な条件が十分に反映されない場合があります。
その代表例が、周辺の宅地と比較して著しい高低差がある土地です。
国税庁の質疑応答事例では、利用価値が著しく低下している宅地について、その利用価値の低下が路線価などに反映されていない場合には、評価額から10%を減額する取扱いが示されています。
ただし、これは土地に高低差があれば自動的に適用される制度ではありません。
高低差によって土地の利用価値が著しく低下していることが必要です。
また、その利用価値の低下が、すでに路線価などに織り込まれている場合には、重ねて評価減することはできません。
北側道路と南側道路で5mの高低差がある事例
今回の研修資料では、2つの道路に接している土地が紹介されています。
評価対象地は、北側道路と南側道路の両方に接しています。
北側道路と土地の間には高低差がなく、道路からそのまま敷地に出入りできます。
一方、南側道路と土地の間には5mの高低差があります。
土地の地盤面が南側道路より5m高いため、南側道路から直接出入りすることはできません。
また、北側道路の路線価は60,000円、南側道路の路線価は70,000円です。
つまり、路線価が高い南側道路は利用できないものの、路線価が低い北側道路からは問題なく出入りできる状況です。
この場合、南側道路との間に5mもの高低差があることを理由に、土地全体の評価額を10%減額できるのでしょうか。
研修資料では、この事例について、高低差による10%評価減は妥当ではないと判断しています。
その理由は、北側道路から高低差なく出入りできるためです。
10%評価減を判断する4つの条件
研修資料では、過去の国税不服審判所の裁決例などを参考に、高低差による10%評価減を検討するための4つの条件が示されています。
これは研修講師が実務経験などから整理した判断の目安であり、法令や財産評価基本通達に定められた一律の要件ではありません。
第一の条件は、評価対象地だけ、または評価対象地の並びだけが、周辺の土地よりも少なくとも1m以上の高低差を有していることです。
重要なのは、高低差の大きさだけではありません。
周辺の土地と比較して、評価対象地に特有の不利な条件があるかどうかです。
第二の条件は、高低差による利用価値の低下が路線価に反映されていないことです。
すでに路線価に高低差の影響が織り込まれている場合には、追加の評価減は認められません。
第三の条件は、高低差のない場所から敷地に出入りできず、造成などによって高低差が解消されていないことです。
高低差があっても、別の道路から容易に出入りできるのであれば、土地全体の利用価値が著しく低下しているとは限りません。
第四の条件は、高低差を利用した駐車場や物置などが設けられていないことです。
例えば、道路と敷地の高低差を利用して地下車庫を設けている場合には、その高低差が土地の利用上の利益につながっていることがあります。
研修資料では、これら4つの条件をすべて満たす場合に、10%評価減を検討することが妥当であると説明しています。
高低差が1m以上あれば減額できるわけではない
ここで注意したいのが、1mという数値の意味です。
研修資料では、周辺の土地との高低差が少なくとも1m以上あることを判断の目安としています。
しかし、国税庁が1m以上の高低差について一律に10%評価減を認めているわけではありません。
例えば、道路から土地まで1.5mの高低差があっても、周辺の住宅がすべて同じような高さに建っている場合があります。
このような地域では、高低差が地域全体の一般的な土地条件になっている可能性があります。
その場合、路線価にも高低差の影響が反映されていることが考えられます。
反対に、周辺の土地が道路とほぼ同じ高さにあるにもかかわらず、評価対象地だけが2m高い場合には、特有の利用上の制約がある可能性があります。
つまり、高低差の絶対的な数値よりも、周辺の土地と比較した不利な条件が重要になるのです。
丘陵地の住宅団地では評価減が難しい場合がある
高低差のある土地として、丘陵地を造成した住宅団地があります。
このような団地では、道路と住宅敷地の間に高低差があることが珍しくありません。
道路から階段を上って玄関に入る住宅や、擁壁の上に住宅が建っている土地もあります。
しかし、周辺の住宅も同じような条件で建築されている場合には、高低差がその地域の一般的な土地条件と考えられます。
研修資料でも、丘陵地帯を宅地開発して形成された団地や、似たような高低差のある街並みでは、10%評価減が認められない可能性が高いと説明されています。
一方、もともと平坦な土地が多い地域で、評価対象地だけが周辺より著しく高い場合には、評価減を検討する余地があります。
そのため、現地調査では評価対象地だけを見るのではなく、周辺の住宅や道路の状況も確認することが重要です。
路線価に高低差が織り込まれているかを確認する
高低差による10%評価減を判断するうえで、特に重要なのが路線価との関係です。
路線価は、道路に面する標準的な宅地の1㎡当たりの価額を示しています。
土地の所在する地域の状況や道路条件などを踏まえて設定されています。
そのため、高低差による利用上の不利な条件が、すでに路線価に反映されている場合があります。
研修資料では、その確認方法として、周辺の路線価との比較が紹介されています。
まず、評価対象地の正面路線と同じ路線価が設定されている道路を周辺で探します。
次に、その道路に接する土地と評価対象地の高低差や利用状況を比較します。
そして、評価対象地だけに特有の不利な条件が存在するかどうかを確認します。
例えば、同じ路線価が設定されている周辺の土地は平坦であるにもかかわらず、評価対象地だけが道路より著しく高い場合です。
このような場合には、高低差による不利な条件が十分に反映されていない可能性があります。
ただし、路線価の比較だけで結論が出るわけではありません。
土地の地形、道路との接続状況、周辺の利用実態などを総合的に確認する必要があります。
高低差のない道路から出入りできる場合はどうなるか
今回の事例では、北側道路から高低差なく敷地に出入りできます。
一方、南側道路とは5mの高低差があり、直接出入りできません。
研修資料では、このような場合、北側道路から通常どおり利用できることを重視しています。
そのため、土地全体の利用価値が著しく低下しているとは判断せず、10%評価減は適用しないという見解です。
ここで重要なのは、高低差のある道路が存在することと、土地全体の利用価値が著しく低下していることは別の問題だという点です。
土地の一方に高低差があっても、別の方向から支障なく出入りできるのであれば、利用上の制約が限定的である可能性があります。
したがって、道路との高低差を調査する際には、すべての接道部分について出入りの可否を確認する必要があります。
正面路線と裏面路線の判断にも影響する
今回の事例では、もう1つ重要な論点があります。
それは、正面路線をどちらの道路とするかという問題です。
北側道路の路線価は60,000円です。
南側道路の路線価は70,000円です。
通常、二方路線に接する宅地では、路線価に奥行価格補正率を適用した価額などを比較して、正面路線を判定します。
しかし、今回の南側道路は土地との間に5mの高低差があり、直接出入りできません。
研修資料では、このような状況を踏まえ、高低差のない北側道路を正面路線とし、南側道路については裏面路線影響加算を行わないという評価方針が示されています。
ただし、これは高低差による利用制約を踏まえた個別事例についての実務的見解です。
高低差がある道路について、常に正面路線から除外できるわけではありません。
また、裏面路線影響加算を行わない場合には、その理由を具体的に説明する必要があります。
道路の高さ、出入りの可否、利用状況などを確認し、評価方針の合理性を検討することが重要です。
10%評価減と裏面路線影響加算をどう考えるか
今回の事例では、南側道路について裏面路線影響加算を行ったうえで、高低差による10%評価減を適用する方法も考えられます。
しかし、研修資料では、この方法を積極的には推奨していません。
理由は、北側道路から高低差なく出入りできるため、そもそも土地全体の利用価値が著しく低下しているとは判断しにくいからです。
つまり、道路との高低差による不利な条件を、どの評価項目で適切に反映させるかが問題になります。
同じ利用上の制約を複数の評価減に重複して反映させることは避けなければなりません。
また、10%評価減の適用が難しいからといって、必ず裏面路線影響加算を省略できるわけでもありません。
それぞれの評価方法について、財産評価基本通達の取扱いと個別の土地条件を確認する必要があります。
実務では現地写真と評価根拠を残しておく
高低差による評価減を検討する場合には、現地調査の記録が重要です。
まず、道路と土地の高低差を確認します。
次に、敷地への出入り口や階段、擁壁、駐車場などの状況を調べます。
また、周辺の土地にも同じような高低差があるかを確認します。
さらに、路線価図を使って、周辺の道路に設定されている路線価を比較します。
評価減を適用する場合には、なぜその土地の利用価値が著しく低下しているのか、路線価にその影響が反映されていないと判断した理由は何かを整理する必要があります。
研修資料では、裏面路線影響加算を行わない場合についても、その理由を申告書に添付することが推奨されています。
税務調査では、単に高低差が存在するという説明だけでは不十分な場合があります。
周辺の土地と比較してどのような不利な条件があるのかを、客観的な資料に基づいて説明できるようにしておくことが重要です。
結論
高低差のある土地について、相続税評価額を10%減額できる場合があります。
しかし、高低差があるという事実だけで、10%評価減が認められるわけではありません。
今回の研修資料では、周辺の土地との高低差、路線価への反映状況、敷地への出入りの可否、高低差を利用した設備の有無という4つの条件が、実務上の判断の目安として示されています。
特に重要なのは、土地全体の利用価値が著しく低下しているかどうかです。
今回のように、南側道路とは5mの高低差があっても、北側道路から高低差なく出入りできる場合には、10%評価減は妥当ではないという見解が示されています。
また、道路との高低差は、正面路線の判定や裏面路線影響加算の検討にも関係します。
ただし、これらの判断は個別の土地条件によって異なるため、一律に適用できるものではありません。
相続税の土地評価では、土地の高低差を単純に数値だけで判断するのではなく、周辺の土地との比較や実際の利用状況を踏まえることが重要です。
適正な評価額を算出するためには、現地調査と路線価の分析を組み合わせ、評価減の根拠を丁寧に確認する必要があるのです。
参考
東京税理士会 2026年8月13日 令和8年度第16回会員研修会資料 相続・贈与の土地評価実務Q&A
国税庁 質疑応答事例 No.4617 利用価値が著しく低下している宅地の評価
国税庁 財産評価基本通達 正面路線の判定及び二方路線影響加算