日本の金融を取り巻く環境が大きく変わっています。
長く続いた超低金利の時代が終わり、長期金利は30年ぶりとなる3パーセント台まで上昇しました。
一般的に金利が上昇すると、銀行にとっては貸出金利を引き上げやすくなり、預貸利ざやの改善が期待できます。そのため金利上昇は銀行経営にとって追い風と考えられがちです。
しかし、金利が上がれば上がるほど、これまで低金利を前提として積み上がってきたリスクも表面化しやすくなります。
金融庁が2026事務年度の金融行政方針で注目しているのが、不動産融資や超長期住宅ローン、そして銀行の預金を含めた資金管理です。
金融庁が不動産融資を注視する理由
金融庁が重点的な監視対象の1つとしているのが、不動産業向け融資です。
日本では不動産価格の上昇に伴い、金融機関による不動産業向け融資も大きく増えています。
国内銀行の不動産業向け融資残高は2026年6月時点で123兆円に達し、前年同月比で8パーセント増えました。
2024年3月に日本銀行がマイナス金利政策を解除した後だけをみても、約2割増加しています。
不動産価格が上昇すれば、同じマンションやビルを購入する場合でも必要な借入額は大きくなります。
つまり、不動産価格の上昇と銀行融資の大型化が同時に進んでいるわけです。
問題は不動産価格が下がったときです
不動産融資で重要なのは、融資した時点の状況だけではありません。
例えば、銀行が10億円の不動産に対して8億円を融資したとします。
不動産価格が上昇している間は大きな問題が起きにくいでしょう。
ところが金利上昇によって不動産投資への需要が弱まり、物件価格が大きく下落すると状況が変わります。
借り手の返済負担が増える一方で、担保となっている不動産の価値が下がる可能性があるからです。
返済が滞れば銀行は担保を処分することになりますが、売却価格だけでは融資残高を回収できないこともあります。
これが銀行の不良債権につながります。
だからこそ金融庁は、不動産価格が上昇している現在の段階から金融機関の融資姿勢を確認しようとしているのです。
融資残高だけを見ているわけではありません
金融庁が確認するのは、不動産融資が増えているかどうかだけではありません。
重要なのは、銀行がどのような基準で融資しているかです。
不動産向けの投融資方針、個別案件の審査、担保評価、借り手の返済能力、融資後の管理などが適切に行われているかが重要になります。
不動産価格が上昇している局面では、担保価格の上昇によって融資の問題が見えにくくなることがあります。
だからこそ価格上昇局面での目利きが重要になります。
データセンター融資にも注意が必要です
金融庁が注目しているのは一般的な不動産融資だけではありません。
海外ファンド向け融資やデータセンターなど、大口になりやすい融資についても点検を進めます。
企業の設備投資やM&Aなどによる資金需要が強くなれば、銀行にとって融資を増やす機会になります。
一方で、特定の業種や特定の企業に巨額の融資が集中すると、1件の融資先の経営悪化が銀行全体に大きな影響を及ぼす可能性があります。
融資が増えること自体ではなく、どこにどれだけリスクが集中しているかを見る必要があります。
50年住宅ローンも監視対象です
今回の金融行政方針でもう1つ注目したいのが住宅ローンです。
住宅価格が上昇するなか、借入期間を50年などに延ばした超長期住宅ローンが広がっています。
東京23区の2026年1月から6月までの新築分譲マンションの平均価格は1億4249万円となっています。
住宅価格が高くなるほど、一般的な35年ローンでは毎月の返済額が大きくなります。
そこで返済期間を50年に延ばせば、毎月の返済額を抑えることができます。
一見すると合理的に見えます。
しかし、返済期間が長くなるほど将来の不確実性も大きくなります。
収入が想定通り増えるとは限りませんし、転職や退職などによって収入が変化する可能性もあります。
さらに金利条件によっては、返済期間を延ばすことで総返済額が大きくなる可能性があります。
金融庁は、利用者の将来の収入見込みなどに照らして適切な住宅ローンが組まれているかという利用者保護の観点から監視を強化します。
銀行は預金を集める競争にも直面します
金利上昇は銀行の資金調達にも影響します。
銀行は預金者から集めたお金を企業や個人に貸し出しています。
低金利時代には預金金利も非常に低かったため、銀行は比較的低いコストで資金を集めることができました。
しかし金利が上昇すると、預金者もより高い金利を求めるようになります。
銀行同士の預金獲得競争が強くなれば、預金金利を引き上げる必要があります。
貸出金利が上昇しても、それ以上に預金金利などの資金調達コストが上昇すれば、銀行の利益が単純に増えるとは限りません。
ALMが重要になる理由
ここで重要になるのがALMです。
ALMとは資産と負債の総合管理です。
銀行にとって企業向け融資や住宅ローン、国債などは資産です。
一方、顧客から預かっている預金は銀行にとって負債です。
銀行は資産側だけを見るのではなく、預金などの負債側も含めて金利や期間、流動性を管理する必要があります。
例えば長期間固定金利で貸し出している一方、預金金利が急速に上昇すると収益が圧迫される可能性があります。
反対に、預金が急速に流出すれば資金繰りそのものが問題になります。
金利3パーセント時代には、銀行の貸出能力だけではなく資金調達能力も重要になるのです。
金利上昇は銀行すべてに同じ恩恵を与えるわけではありません
金利上昇局面では一般的に銀行の預貸利ざやが改善します。
実際、大手金融機関では高い収益を上げる動きがみられます。
しかし、すべての金融機関が同じ条件にあるわけではありません。
預金を集めやすい銀行もあれば、預金獲得のために高い金利を提示しなければならない銀行もあります。
融資先が豊富な銀行もあれば、地域の人口減少などによって貸出先を見つけにくい金融機関もあります。
さらに過去に保有した債券の含み損や不動産融資の集中度などによって、金利上昇の影響は大きく異なります。
金利上昇によって銀行業界全体の収益環境が改善する一方で、金融機関ごとの差が広がる可能性があります。
結論
金利3パーセント時代の金融行政で重要になるのは、金利上昇そのものを危険視することではありません。
重要なのは、長く続いた低金利時代に作られた金融の仕組みが、急速な金利上昇に耐えられるかを確認することです。
不動産価格の上昇によって膨らんだ不動産融資。
住宅価格の高騰によって広がる50年住宅ローン。
企業の旺盛な資金需要によって大型化する融資。
そして預金金利の上昇による銀行の資金調達コストの増加。
これらはすべて金利上昇という1つの環境変化につながっています。
金利上昇は銀行に利益をもたらす一方で、それまで見えにくかったリスクを表面化させる力も持っています。
これから金融機関を見るときには、単純に利益が増えたかどうかだけではなく、不動産融資などへのリスク集中、住宅ローンの長期化、預金の安定性、そしてALMによる資産と負債の管理まで見ることが重要になりそうです。
参考
日本経済新聞 2026年9月16日 朝刊 不動産融資のリスク注視
金融庁 2026年9月15日 2026事務年度金融行政方針