会社員の夫に扶養されている妻が、第3号被保険者になっているとします。
妻自身の働き方や収入が何も変わっていなくても、夫が会社を退職すると妻の年金区分が変わることがあります。
なぜでしょうか。
第3号被保険者は、
収入が少ない人
専業主婦
というだけで該当する制度ではないからです。
第2号被保険者である配偶者に扶養されていることが重要な条件です。
そのため夫が会社を退職して第2号被保険者ではなくなれば、それに連動して妻も第3号被保険者ではなくなる場合があります。
配偶者の退職は、本人だけでなく夫婦双方の年金を確認する重要なタイミングなのです。
第3号は第2号の配偶者であることが前提
国民年金の加入者は、大きく第1号、第2号、第3号被保険者に分けられます。
第1号被保険者は、自営業者や学生などが中心です。
第2号被保険者は、厚生年金に加入している会社員などです。
そして第3号被保険者は、第2号被保険者に扶養されている一定の配偶者です。
つまり第3号は、単独で成立している区分ではありません。
第2号被保険者である配偶者の存在を前提としています。
この関係を理解すると、配偶者の退職によって第3号にも影響が及ぶ理由が分かります。
夫が退職すると第2号資格を失うことがある
例えば夫が会社員として厚生年金に加入しているとします。
この夫は第2号被保険者です。
妻が一定の要件を満たして扶養されていれば、第3号被保険者になります。
ところが夫が会社を退職します。
退職によって勤務先の厚生年金の資格を失い、他の厚生年金にも加入しない状態になれば、それまでの第2号被保険者としての資格関係が変わります。
すると、
第2号被保険者である夫に扶養されている妻
という第3号の前提も崩れます。
妻自身の収入がまったく変わっていなくても、第3号ではなくなることがあるのです。
夫婦とも第1号になるケースがある
分かりやすいのが、夫が会社を退職した後、しばらく働かないケースです。
例えば夫婦とも20歳以上60歳未満で、夫が退職後に厚生年金へ加入せず、妻も勤務先の厚生年金に加入していないとします。
この場合、一定の要件のもとで夫婦とも国民年金の第1号被保険者になることがあります。
夫は、
会社員の第2号
から、
第1号
へ変わります。
妻は、
第2号である夫に扶養される第3号
から、
第1号
へ変わります。
つまり夫が1人退職したことで、夫婦2人の年金区分が同時に変わることがあるのです。
妻にも国民年金保険料の負担が生じる
第3号被保険者だった妻にとって大きな変化は、国民年金保険料です。
第3号である間は、本人が国民年金保険料を直接納める必要はありません。
しかし第1号被保険者になれば、原則として自分の国民年金保険料を納める必要があります。
夫も第1号になれば、夫にも国民年金保険料の負担が生じます。
したがって退職後の家計では、
夫の給与収入がなくなる
という変化に加えて、
夫婦の国民年金保険料負担が生じる
ということもあります。
退職後の生活設計では見落としたくない点です。
妻が働いていなくても第1号になる
ここで特に誤解しやすいのが、
妻は働いていないのだから第3号のままではないか
という考え方です。
第3号被保険者は、
働いていない人を保険料無料にする制度
ではありません。
第2号被保険者に扶養される一定の配偶者を対象とした制度です。
したがって夫が第2号でなくなれば、妻に収入がなくても第3号の資格を維持できない場合があります。
専業主婦かどうかではなく、
配偶者が第2号被保険者なのか
を見る必要があります。
夫がすぐ再就職した場合はどうなるのか
夫が退職後、別の会社へ再就職することもあります。
新しい勤務先で厚生年金に加入すれば、夫は再び第2号被保険者になります。
そして妻が扶養など第3号の要件を満たせば、再び第3号被保険者になることがあります。
つまり、
第2号
第1号
再び第2号
と夫の年金区分が変化すれば、妻もそれに応じて、
第3号
第1号
再び第3号
と変化する可能性があります。
転職期間が短い場合でも、資格関係を確認することが大切です。
退職日の翌日から状況が変わる
社会保険では、会社を辞めた日と資格を失う日の関係も重要です。
一般に勤務先の健康保険や厚生年金の資格は、退職日の翌日に喪失します。
例えば9月30日付で退職すれば、原則として10月1日に資格を喪失します。
その後すぐ別の勤務先で社会保険に加入するのか。
国民年金の第1号になるのか。
それによって手続きが変わります。
妻についても夫の資格変更に連動して確認する必要があります。
退職日を境として社会保険の資格が切り替わるため、
月末になってから考えればよい
というものではありません。
再就職まで空白期間がある場合は注意する
例えば夫が9月末に会社を辞め、12月から新しい会社で働き始めるとします。
11月までの間は前の会社の厚生年金には加入していません。
新しい会社の厚生年金にもまだ加入していません。
その期間について、夫婦がどの年金区分になるのかを確認する必要があります。
妻が、
12月になればまた扶養に入るから、それまで何もしなくてよい
と考えるのは適切ではありません。
公的年金の加入関係は、空白期間についても整理する必要があります。
短期間だからといって、自動的に第3号として扱われるわけではありません。
妻自身が厚生年金に入る場合もある
夫の退職をきっかけとして、妻自身の働き方を変える場合もあります。
例えば妻がパートの勤務時間を増やし、自分の勤務先の社会保険に加入したとします。
この場合、妻は第1号ではなく第2号被保険者になります。
夫が再就職したとしても、妻自身が厚生年金に加入しているのであれば、第3号に戻る必要はありません。
妻自身の厚生年金が積み上がっていきます。
厚生年金の適用拡大が進めば、このように、
夫の扶養に戻る
のではなく、
妻自身が第2号になる
ケースも増えていくと考えられます。
夫が退職後も厚生年金の被保険者になる場合がある
退職という言葉だけで、
必ず夫が第2号ではなくなる
と決めつけることもできません。
例えば前の会社を退職した後、別の勤務先で厚生年金に加入する場合があります。
また、高齢期の働き方では年齢や勤務状況によって年金上の扱いを個別に確認する必要があります。
重要なのは、
会社を辞めた
という事実だけではなく、
退職後に配偶者がどの年金制度へ加入するのか
を確認することです。
第3号の資格を考えるときには、配偶者の現在の加入状況を見る必要があります。
健康保険も同時に変わる
夫の退職によって影響するのは年金だけではありません。
妻が夫の勤務先の健康保険で被扶養者になっていた場合、その資格も変わります。
退職後の健康保険については、
新しい勤務先の健康保険
国民健康保険
退職前の健康保険の任意継続
家族の健康保険の被扶養者
など、状況によって選択肢が変わります。
ここで注意したいのは、健康保険の被扶養者と国民年金の第3号被保険者は別制度だということです。
健康保険の手続きをしたから年金もすべて終わっているとは限りません。
夫婦それぞれについて確認することが重要です。
任意継続と第3号は同じではない
特に混同しやすいのが健康保険の任意継続です。
会社を退職した後、一定の要件を満たせば、退職前に加入していた健康保険を一定期間任意継続できる場合があります。
そこで、
夫が退職後も同じ健康保険に入っているなら、妻も第3号のままではないか
と思うかもしれません。
しかし健康保険の任意継続と、厚生年金の第2号被保険者資格は同じものではありません。
健康保険を任意継続していることだけを理由として、配偶者が国民年金の第3号を続けられるわけではありません。
健康保険と年金は分けて確認する必要があります。
退職後に保険料を払えない場合はどうするのか
夫が失業し、夫婦とも第1号被保険者になった場合、家計にとって国民年金保険料の負担が重くなることがあります。
収入が減った直後だからです。
その場合も、
払えないから放置する
ことは避ける必要があります。
国民年金には、一定の要件を満たす場合に保険料免除や納付猶予などの制度があります。
失業などが関係する場合には、それを踏まえた仕組みが利用できることもあります。
正式な免除などの手続きを行った期間と、単純な未納期間では扱いが異なります。
退職後の収入が少ない場合ほど、利用できる制度を確認することが大切です。
退職時は年金記録を確認する好機になる
長期間会社員として働いてきた人にとって、退職は社会保険が大きく変わる節目です。
本人の厚生年金。
配偶者の第3号。
健康保険。
雇用保険。
さまざまな制度が同時に動きます。
このタイミングで、
自分の年金記録
配偶者の年金記録
現在の加入区分
を確認しておくと、届出漏れを防ぎやすくなります。
特に第3号被保険者は配偶者の資格と連動するため、夫婦で確認することが重要です。
第3号制度の特徴が退職時によく表れる
配偶者の退職によって妻の年金区分まで変わることは、第3号被保険者制度の特徴をよく表しています。
本人が働いているかどうかだけで決まる制度ではありません。
本人の所得だけで決まる制度でもありません。
配偶者がどの社会保険に加入しているかによって本人の扱いが変わります。
そのため、
本人の生活は何も変わっていないのに年金区分が変わる
ことがあります。
第3号被保険者制度の見直しでは、このような配偶者との関係を基礎とした社会保険の仕組みを今後どうするのかも重要な論点になります。
結論
第3号被保険者は、第2号被保険者である配偶者に扶養される一定の配偶者を対象とした制度です。
そのため会社員の夫が退職して厚生年金の第2号被保険者ではなくなると、妻自身の収入や働き方が変わっていなくても、第3号の資格を失うことがあります。
夫婦とも20歳以上60歳未満で、どちらも厚生年金に加入しないのであれば、夫婦とも第1号被保険者になるケースがあります。
その場合、第3号だった妻にも原則として国民年金保険料の負担が生じます。
一方、夫が別の会社へ再就職して再び第2号になれば、妻が要件を満たすことで再び第3号になることもあります。
妻自身が勤務先の厚生年金へ加入すれば、第2号になります。
つまり配偶者の退職時には、
夫が今後どの年金区分になるのか
妻が今後どの年金区分になるのか
をそれぞれ確認する必要があります。
健康保険についても同時に確認が必要ですが、健康保険の任意継続と第3号被保険者制度は別の仕組みです。
夫が会社を辞めるという出来事は、夫だけの社会保険の問題ではありません。
第3号被保険者である配偶者の年金にも連動します。
だからこそ退職時には、本人だけでなく夫婦双方の年金区分を確認し、次の制度へ正しくつなぐことが重要なのです。
参考
日本経済新聞 2026年9月5日朝刊 厚労省「年金3号」縮小へ調査 働き控えの実態把握