金を採る場所と聞けば、多くの人は山の地下に掘られた鉱山を思い浮かべるでしょう。
ところが、私たちが暮らす都市にも大量の金属資源が眠っています。
使用済みのパソコンやスマートフォン、家電、電子基板などです。
こうした製品に含まれる金、銀、銅などを回収して再び資源として利用する考え方が「都市鉱山」です。
天然鉱山では地下から鉱石を掘り出します。
都市鉱山では、社会の中に蓄積された製品や廃棄物を新しい鉱石として利用します。
金価格の上昇と資源確保の重要性が高まるなか、日本の都市そのものが一つの鉱山として注目されています。
なぜ家電に金が使われているのか
そもそも、なぜパソコンやスマートフォンなどに金が入っているのでしょうか。
金には宝飾品としての価値だけでなく、工業材料として優れた性質があります。
電気を通しやすく、腐食しにくいことなどから、電子機器の接点や端子などに利用されています。
1台の電子機器に含まれる金の量はわずかでも、数百万台、数千万台と集まれば大きな量になります。
銀や銅、その他の金属も同様です。
私たちが使い終わった電子機器は、単なるゴミではありません。
さまざまな金属が組み合わされた資源の集合体でもあるのです。
都市そのものを鉱山と考える
天然鉱山では、地下にある鉱石を採掘します。
都市鉱山では、すでに社会に存在している製品を集めます。
例えば、
スマートフォン
パソコン
家電製品
電子基板
通信機器
などには、さまざまな金属が使われています。
これらを回収して分解し、金属を選別して再資源化します。
地下の鉱床ではなく、人間がこれまで製造してきた製品の中に資源が蓄積されているため「都市鉱山」と呼ばれるわけです。
都市鉱山の鉱石は高品位になることがある
都市鉱山が注目される理由の一つが、金属の濃度です。
天然の金鉱石では、1トンの鉱石を採掘しても含まれる金はわずかということがあります。
一方、電子基板などには製品として必要な金属が意図的に使われています。
そのため、適切に回収して集約すれば、天然鉱石より高い濃度で有価金属を含む材料になる場合があります。
もちろん、金の濃度が高ければ必ず採算が取れるわけではありません。
製品を集める費用。
分解する費用。
金属を選別する費用。
精錬する費用。
こうした回収コストまで含めて考える必要があります。
天然鉱山と同じように、都市鉱山でも「いくらで資源を取り出せるのか」が重要になります。
日本には製錬技術という強みがある
都市鉱山を活用するためには、廃棄物を集めるだけでは十分ではありません。
さまざまな素材が混ざった状態から目的の金属を取り出す必要があります。
ここで重要になるのが製錬やリサイクルの技術です。
電子基板には金だけが入っているわけではありません。
銅、銀など多くの物質が含まれています。
それらを効率的に分離して、高純度の金属へ戻す技術が必要です。
つまり都市鉱山の競争力は、都市にどれだけ廃電子機器が存在するかだけでなく、それを回収し、資源へ戻す仕組みまで含めて決まります。
一般ゴミまで都市鉱山になる
都市鉱山というと、使用済みパソコンやスマートフォンなどを想像しやすいでしょう。
しかし、対象はそれだけではありません。
日本製鉄系の新日本電工では、自治体が一般ゴミを焼却した後に残る灰から金などの有価金属を回収しています。
自治体から焼却灰を茨城県鹿嶋市の工場に集め、専用の炉で溶かして金属を取り出します。
元記事によると、回収された金属には、一般的な金鉱石の含有量の10倍程度に相当する金が含まれているとされています。
なぜ燃えるゴミから金が出てくるのでしょうか。
背景には、小型の電子機器などが一般ゴミに混ざって捨てられている可能性があります。
微量の金でも、大量のゴミを処理すれば集積することがあります。
「ゴミの灰」が「鉱石」に変わるわけです。
都市鉱山は資源輸入を減らす可能性がある
日本は多くの鉱物資源を海外から輸入しています。
この場合、資源価格の上昇だけでなく、為替や国際情勢、産出国の政策などの影響も受けます。
都市鉱山を活用できれば、すでに国内に存在している製品から資源を回収できます。
海外から新しい鉱石を輸入するだけではなく、国内で使用した資源を繰り返し利用する選択肢が増えます。
もちろん都市鉱山だけですべての資源需要を賄えるわけではありません。
それでも天然資源の輸入を補完する国内資源として重要な意味があります。
金価格が上がるとゴミの価値も変わる
都市鉱山でも、金価格は重要です。
例えば廃棄物から1グラムの金を回収するために1万円かかるとします。
金1グラムの価値が8,000円なら、金だけを考えれば採算は合いません。
しかし金価格が2万円になれば状況は変わります。
同じ廃棄物。
同じ金含有量。
同じ回収技術。
それでも資源としての経済的価値は変化します。
さらに技術革新によって回収コストが下がれば、採算性は一段と改善します。
天然鉱山で低品位鉱石が資源に変わるのと同じように、都市鉱山でも価格と技術によって「ゴミ」と「資源」の境界が変わるのです。
回収できなければ都市鉱山にはならない
一方、都市鉱山には大きな課題があります。
資源が社会の中に分散していることです。
天然鉱山では、一定の地域に鉱床が集中しています。
都市鉱山の場合、金属は全国の家庭や企業にある膨大な数の製品に少量ずつ含まれています。
どれほど多くの金が国内に存在していても、使用済み製品を回収できなければ再資源化できません。
家庭で眠っている古いスマートフォンなども同じです。
資源量だけでなく、
回収
分別
運搬
処理
製錬
という一連の仕組みが必要になります。
都市鉱山では、回収システムそのものが鉱山設備の一部ともいえます。
天然鉱山と都市鉱山は競争相手ではない
天然鉱山と都市鉱山は、どちらか一方を選ぶものではありません。
天然鉱山から新しい資源を供給しながら、社会で使い終わった金属を都市鉱山から回収する。
この両方を組み合わせることが重要です。
天然鉱山だけに依存すれば、資源の枯渇や海外依存などの問題があります。
一方、リサイクルだけでは需要増加に必要な資源をすべて供給できるとは限りません。
新しく採る資源と、使い終わった資源を循環させる仕組みを組み合わせることが、安定した資源供給につながります。
結論
都市鉱山とは、使用済みの家電や電子機器などを鉱石のように捉え、そこから金、銀、銅などの金属を回収する考え方です。
日本の都市には、これまで輸入して製品に使ってきた大量の金属が蓄積されています。
さらに現在では、電子基板だけでなく一般ゴミの焼却灰から金を回収する取り組みまで進んでいます。
重要なのは、都市鉱山の価値も天然鉱山と同じように価格と技術によって変化することです。
金価格が上昇すれば、以前は回収費用に見合わなかった廃棄物にも資源としての価値が生まれる可能性があります。
回収技術が進歩してコストが下がれば、その範囲はさらに広がります。
「黄金の国ジパング」の再興は、地下から新しい金鉱脈を見つけることだけを意味するのではありません。
すでに私たちの身の回りに存在している金を回収し、もう一度資源として使うことも、現代の日本にとって重要な金鉱山開発なのです。
参考
日本経済新聞 2026年9月21日 朝刊 「黄金の国ジパング」再興へ