会社員が退職すると、勤務先から退職金を受け取ることがあります。
退職金にも税金がかかりますが、毎月の給与とは税金の計算方法が大きく異なります。
長年の勤務に対する報償という性格を持つことから、退職所得控除などを設け、税負担を軽減する仕組みが採用されているためです。
そして退職金にかかる税金は所得税だけではありません。
個人住民税についても、退職所得に対する課税があります。
通常の給与に対する住民税は前年の所得を基に翌年度に課税されますが、退職所得に対する住民税は基本的に退職金が支払われる際に計算され、会社が退職金から差し引いて自治体へ納入します。
令和8年9月24日に予定されているeLTAXのシステム更改では、退職所得に係る納入申告に関する手続きもPCdeskのWEB版で利用することになります。
今回は、退職所得に対する住民税の仕組みと会社が行う特別徴収、納入申告、eLTAX更改後の手続きについて整理します。
退職所得とは何か
退職所得とは、退職によって勤務先から受け取る退職手当などに係る所得です。
通常の給与とは区別して税額を計算します。
退職金は、何十年にもわたって働いた結果として一度にまとまった金額を受け取ることがあります。
これを通常の給与と同じようにそのまま課税すると、退職した年だけ所得が大きくなり、税負担が重くなる可能性があります。
そこで退職所得については、長期間の勤務などを考慮した独自の課税方法が設けられています。
その中心となるのが退職所得控除です。
退職所得控除とは何か
退職所得控除は、退職金に対する税負担を計算する際に差し引くことができる控除です。
基本的には勤続年数が長いほど控除額も大きくなります。
一般的な退職所得控除額は、勤続年数が20年以下の場合には、勤続年数1年につき40万円を基本として計算します。
20年を超える場合には、800万円に20年を超える部分について1年につき70万円を加えて計算します。
例えば勤続30年であれば、
800万円に、10年分の700万円を加え、
退職所得控除額は1500万円となります。
長く勤務した人ほど大きな控除を受けられる仕組みです。
なお、障害者になったことを直接の原因として退職した場合などには、別の取扱いがあります。
退職所得は原則として分離して計算する
退職所得には、もう一つ大きな特徴があります。
通常の給与所得などとは分けて税額を計算する仕組みが採用されています。
一般的な退職金では、退職金の収入金額から退職所得控除額を差し引き、さらに一定の場合にはその残額の2分の1を退職所得として税額計算の基礎とします。
例えば退職金が2000万円、退職所得控除額が1500万円であれば、その差額は500万円です。
一般的なケースでは、その2分の1である250万円が退職所得となります。
ただし、役員等の勤続年数が5年以下の場合や短期勤続年数に該当する場合などには、2分の1課税が適用されない部分があるなど特別なルールがあります。
退職金ならすべて単純に2分の1になるわけではない点には注意が必要です。
退職所得にも住民税がかかる
退職所得には所得税だけでなく個人住民税も課税されます。
ここで重要なのが、通常の給与に対する住民税との違いです。
給与所得などに対する個人住民税は、原則として前年の所得を基に翌年度に課税されます。
例えば令和8年中の給与所得であれば、基本的には令和9年度の住民税に反映されます。
ところが、退職所得に対する住民税については基本的にこの方法を取りません。
退職金が支払われる際に税額を計算し、その時点で徴収します。
これを退職所得に対する住民税の現年分離課税といいます。
退職した翌年になって退職金に対する住民税を納めるのではなく、退職金の支給時点で課税関係を処理するわけです。
会社が住民税を特別徴収する
退職所得に対する住民税についても、会社が重要な役割を担います。
会社が退職金を支給する際に、一定の方法によって住民税額を計算し、退職金から差し引きます。
そして徴収した住民税を自治体へ納入します。
つまり、退職者本人が後日、自分で退職金に対する住民税を納付するのが基本なのではありません。
退職金を支払う会社が特別徴収義務者として処理します。
給与から毎月徴収している通常の住民税と同じ「特別徴収」という言葉が使われますが、税額計算や納入の仕組みは異なります。
給与担当者や退職金担当者は、この違いを理解しておく必要があります。
住民税は市町村民税と道府県民税からなる
退職所得に対する住民税も、市町村民税と道府県民税から構成されます。
退職所得控除などを反映して算出した退職所得の金額を基に、それぞれの税額を計算します。
一般的には、市町村民税と道府県民税を合わせた税率は10パーセントとなります。
ただし、退職金の支給額そのものに単純に10パーセントを掛けるわけではありません。
退職所得控除などを反映した課税退職所得金額を求めたうえで税額を計算します。
退職金が大きくても、勤続年数が長ければ退職所得控除額も大きくなるため、退職金の額と課税対象となる退職所得の金額には大きな差が生じることがあります。
どこの自治体へ納めるのか
退職所得に対する住民税では、納入先となる自治体にも注意が必要です。
原則として、退職手当等の支払いを受けるべき日の属する年の1月1日現在における住所地の市区町村が課税することになります。
退職時点の住所だけを見ればよいとは限らないということです。
例えば年の途中で引っ越しをして、その後に退職金を受け取った場合には、1月1日現在の住所地との関係を確認する必要があります。
給与に対する住民税でも1月1日現在の住所地が重要になりますが、退職所得に対する住民税についても住所地の確認は重要な実務になります。
納入申告とは何か
会社が退職金から住民税を特別徴収したら、それを自治体へ納入します。
その際に関係するのが退職所得に係る納入申告です。
退職金を支払った会社は、退職所得に対する住民税について必要な事項を申告し、徴収した税額を納入します。
つまり会社の実務としては、
退職金額を確定する
勤続年数などを確認する
退職所得控除額などを確認する
退職所得に対する税額を計算する
退職金から住民税を特別徴収する
自治体へ納入申告を行う
徴収した税額を納入する
という流れになります。
退職金の支給は毎月発生する給与とは違い、企業によっては処理件数が少ないため、担当者が手続きに慣れていない場合があります。
そのため支給前に必要な手続きを確認しておくことが重要です。
通常の給与の住民税とは別に考える
退職時には二種類の住民税が同時に問題になることがあります。
一つは、それまで毎月の給与から徴収していた通常の個人住民税です。
もう一つが、退職金そのものに対して課税される退職所得の住民税です。
例えば年度途中に退職すれば、給与に対する住民税について翌年5月までの未徴収税額が残っている場合があります。
この未徴収税額について、一括徴収や普通徴収への切替えなどを検討します。
それとは別に、退職金を支給するのであれば、退職所得に対する住民税を計算します。
同じ退職時に処理するため混同しやすいのですが、別の税務処理です。
退職者の最終給与と退職金を処理するときには、二つの住民税を区別して確認することが重要です。
eLTAX更改後はWEB版で手続きする
令和8年9月24日のeLTAXシステム更改では、個人住民税の特別徴収に関する機能がPCdeskのWEB版へ集約されます。
退職所得に係る納入申告に関する手続きについても、PCdeskのWEB版で利用することになります。
これまでPCdeskのDL版を中心に地方税手続きを行ってきた企業や税理士は注意が必要です。
退職所得に関する手続きは、給与支払報告書のように毎年決まった時期に大量に処理するとは限りません。
そのためシステム変更後、実際に退職金を支給する段階になって初めて操作方法が変わったことに気付く可能性があります。
退職金を支給する予定がある企業では、更改前に新しい手続き方法を確認しておくことが重要でしょう。
退職手続きのデジタル化も進む
退職時には、さまざまな手続きが集中します。
給与の精算、住民税の異動届出、社会保険関係の手続き、退職金の計算、所得税の源泉徴収、退職所得に対する住民税の特別徴収などがあります。
企業から見ると、一人の従業員の退職という出来事から、多数の事務処理が発生することになります。
eLTAXによって退職所得の納入申告までWEB上で処理できるようになることは、こうした退職関連業務をデジタル化していく一つの動きといえます。
今後は、人事システム、給与システム、退職金システムと行政手続きの間で、どこまでデータを連携できるかが企業の事務効率を左右するようになるでしょう。
結論
退職所得の住民税とは、会社から支給される退職金などに対して課税される個人住民税です。
通常の給与に対する住民税が原則として前年所得を基に翌年度に課税されるのに対し、退職所得に対する住民税は基本的に退職金が支払われる際に課税されます。
会社は退職金を支給するときに住民税を計算して特別徴収し、自治体へ納入します。
退職時には、毎月の給与から徴収していた住民税の未徴収税額の処理と、退職金そのものに対する住民税の処理が同時に発生することがあります。
両者を混同しないことが重要です。
令和8年9月24日のeLTAX更改後は、退職所得に係る納入申告に関する手続きもPCdeskのWEB版で利用することになります。
退職金は従業員にとって大きな金額になることが多く、税額計算を誤れば影響も大きくなります。
企業では退職金の計算だけでなく、所得税と住民税、通常の特別徴収の残額処理、納入申告までを一連の退職実務として確認しておくことが重要でしょう。
参考
税のしるべ 2026年8月10日号 eLTAXを9月24日に更改、地方税共同機構が変更点と注意事項を公表