譲渡制限付き株式とは何か すぐに売れない株を役員報酬として渡す理由編

経営

役員報酬というと、毎月支払われる現金をイメージする人が多いでしょう。

しかし現在では、現金だけではなく自社の株式を役員報酬として渡す企業が増えています。

その代表的な仕組みが譲渡制限付き株式です。

名前の通り、株式を受け取っても一定期間は自由に売却できません。

せっかく株式を渡すのであれば、自由に売れるようにした方が便利なようにも思えます。

それでも企業があえて売却できない株式を役員に渡すのはなぜでしょうか。

背景には、役員に短期的な利益ではなく中長期的な企業価値を意識してもらうという考え方があります。

譲渡制限付き株式とは何か

譲渡制限付き株式は、一定期間、譲渡などが制限される株式を役員などへ報酬として付与する仕組みです。

英語ではリストリクテッドストックと呼ばれます。

たとえば役員に一定額相当の自社株を付与し、その株式について一定期間は自由に売却できない条件を設定します。

条件を満たせば譲渡制限が解除され、その後は売却できるようになります。

現金を受け取って終わりではなく、一定期間にわたって会社との経済的な関係が続くことが特徴です。

現金報酬とは何が違うのか

現金報酬と比べると違いが分かりやすくなります。

仮に1000万円の現金報酬を受け取ったとします。

受け取った後に会社の株価が上がっても下がっても、1000万円という報酬額そのものは変わりません。

一方、1000万円相当の株式を受け取った場合は違います。

その後に株価が上昇すれば保有する株式の価値も上昇します。

反対に株価が下落すれば価値も低下します。

自分が受け取った報酬の価値と会社の企業価値が一定程度連動するわけです。

なぜすぐに売れないようにするのか

ここが譲渡制限付き株式の重要なポイントです。

株式を受け取った直後に売却できるのであれば、株式で支給してもすぐ現金に換えることができます。

それでは中長期的な企業価値を意識してもらう効果が弱くなる可能性があります。

そこで一定期間売却できないようにします。

役員として仕事をしている期間や一定の条件を満たすまで株式を保有することで、会社の中長期的な価値と自分が保有する資産の価値を結び付けます。

短期間だけ株価を上げればよいという考え方ではなく、数年先まで企業価値を高めることを意識してもらう狙いがあります。

株主との利害を共有しやすくなる

株式報酬には、役員と株主の利害を近づける効果も期待されています。

株主は企業が成長し、中長期的に企業価値が高まることを期待しています。

役員も自社株を保有すれば、株価上昇による恩恵を受けます。

一方、企業価値が低下して株価が下がれば、保有株式の価値も低下します。

株主と役員が同じ企業価値の変化に向き合うことになります。

現金だけで報酬を受け取る場合とは違ったインセンティブが生まれます。

ストックオプションとは違う

株式を利用した役員報酬にはストックオプションもあります。

両者は似ていますが仕組みが違います。

ストックオプションは、将来一定の価格で株式を取得できる権利です。

これに対して譲渡制限付き株式では、株式そのものを付与したうえで売却などに制限を設けます。

そのため、株価との関わり方も異なります。

株式報酬といっても1つの方法だけではなく、企業が何を目的とするかによって制度を使い分けることになります。

社外取締役にも導入されている

譲渡制限付き株式は、経営を直接担当する社内取締役だけのものではありません。

社外取締役への報酬として利用する企業も増えています。

国内では大企業の2割弱が社外取締役に株式報酬を導入しています。

社外取締役も取締役会を通じて経営戦略や大型投資、経営トップの選任など重要な意思決定に関わります。

株式を保有することで、中長期的な企業価値を株主と共有してもらうという考え方です。

社外取締役では独立性にも注意が必要

ただし、社外取締役への株式報酬には独特の難しさがあります。

社内取締役には、経営目標を達成するためのインセンティブを与えることが重要です。

一方、社外取締役の中心的な役割は経営の監督です。

経営陣が間違った判断をしているのであれば、反対意見を述べる必要があります。

場合によっては経営トップの交代について議論することも求められます。

そのため、自社株を持たせれば持たせるほどよいとは限りません。

株主との利害共有を進めながら、経営陣から独立した判断ができる報酬体系を維持する必要があります。

株式報酬は長期目線を保証するものではない

もう1つ注意したいのは、株式を渡せば必ず長期的な経営判断につながるわけではないことです。

株価は企業の長期的な価値だけで動くものではありません。

景気。

金利。

為替。

株式市場全体の動き。

短期的な業績予想。

さまざまな要因で変動します。

そのため、株式報酬を導入するだけで企業統治が改善するわけではありません。

譲渡制限期間や付与する金額、解除条件などを含め、制度全体をどう設計するかが重要です。

報酬は金額から設計を見る時代へ

社外取締役の報酬が上昇する中、今後は報酬額だけではなく中身を見る必要があります。

年間2000万円を現金だけで支払うのか。

一部を株式にするのか。

株式を何年間保有してもらうのか。

どのような条件で譲渡制限を解除するのか。

こうした違いによって、同じ2000万円の報酬でも役員に与えるインセンティブは変わります。

役員報酬を見るときは、いくら支払ったかだけではなく、なぜその方法で支払ったのかを見ることが重要になります。

結論

譲渡制限付き株式とは、一定期間自由に売却できない条件を付けて役員などに株式を報酬として渡す仕組みです。

現金報酬との大きな違いは、受け取った後もその価値が会社の株価と関係し続けることです。

すぐに売却できないようにすることで、短期的な株価だけではなく中長期的な企業価値を意識してもらう狙いがあります。

同時に、株主と役員の利害を共有しやすくする効果も期待できます。

一方、社外取締役の場合には独立性とのバランスも重要です。

株式報酬を導入すれば企業統治が自動的に良くなるわけではありません。

いくら支払うかだけではなく、現金と株式をどう組み合わせ、どの程度の期間保有してもらうのか。

役員報酬は金額を見る時代から、その設計を見る時代へ変わってきています。

参考

日本経済新聞 2026年9月17日 朝刊 社外取の報酬、欧州並みに

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