20代の金融資産に100万円の差があったとしても、老後まで40年近くあります。
その間に給与も増え、転職や結婚、住宅購入などさまざまな出来事があります。
若いうちの100万円程度の差なら、いずれなくなるようにも思えます。
しかし、その100万円が投資され、その後も積立額に差があり、運用益が再投資されていけば話は変わります。
若いうちの小さな資産差が、長い時間と複利によって大きくなる可能性があるからです。
若者の金融資産格差は、現在だけの問題ではありません。
数十年後の老後の経済格差につながる可能性を持つ問題なのです。
若者には長い運用期間がある
20代の資産形成で最も大きな強みの一つが時間です。
例えば25歳から65歳までは40年間あります。
35歳からでも30年間です。
若いうちに投資を始めれば、短期間で大きな利益を狙わなくても、長期間にわたって資産形成を続けることができます。
一方、この長い時間は資産形成に有利であると同時に、若いうちに生じた資産差を拡大させる可能性もあります。
時間はすべての人に同じように流れますが、その時間を使って運用できる資産額は同じではないからです。
20代の小さな差が積み重なる
例えば25歳の2人がいるとします。
一人は毎月3万円を積み立て、もう一人は毎月1万円を積み立てるとします。
毎月の差は2万円です。
1年間では24万円です。
10年間なら、運用益を考えなくても240万円の差になります。
40年間続けば960万円です。
さらに投資による運用益が生じれば、差はそれ以上になる可能性があります。
若いうちの月数万円の違いは小さく見えますが、それが何十年間も続くと大きな違いになります。
複利が資産差にも働く
投資で得た利益を再投資すると、元本だけでなく過去の利益も次の利益を生み出す可能性があります。
これが複利です。
例えば資産を多く持っている人ほど、同じ運用利回りでも金額ベースの利益は大きくなります。
その利益を再投資すれば、翌年の運用元本もさらに大きくなります。
つまり複利は、資産形成を助ける仕組みであると同時に、元本の違いを長期的に拡大させる可能性も持っています。
若いうちの資産格差を考えるときには、この時間と複利の組み合わせが重要です。
積立を始める時期でも差が生まれる
毎月の投資額が同じでも、始める年齢によって運用期間は違います。
25歳から毎月積み立てる人と、40歳から始める人では15年間の差があります。
40歳から投資を始めた人が悪いわけではありません。
40歳からでも資産形成を進めることには十分意味があります。
ただ、25歳から始めた人には15年間多く積み立てられる時間があります。
さらに、その期間に得た運用益を再投資できる可能性があります。
若いうちに投資できる経済的余裕があるかどうかは、老後資産にも影響する可能性があるのです。
退職時点の金融資産に差が残る
現役時代には、多くの人が給与を中心に生活します。
しかし、退職すると給与収入はなくなるか、大きく減少することがあります。
そこで重要になるのが、それまでに形成してきた金融資産です。
預貯金が多い人。
NISAなどで株式や投資信託を保有している人。
企業年金や個人年金などを準備している人。
こうした資産をどの程度持っているかによって、退職後の生活の選択肢も変わります。
若いうちから積み重なった資産差が、退職時点でも残っていれば、その差は老後生活に直接影響することになります。
公的年金だけが老後資金ではない
日本の老後生活では公的年金が重要な柱です。
しかし、老後の経済状況を決めるのは公的年金だけではありません。
退職金、企業年金、預貯金、株式、投資信託、不動産なども家計によって異なります。
同程度の公的年金を受け取る2人でも、一人には3000万円の金融資産があり、もう一人には300万円しかないとすれば、使えるお金やリスクへの対応力は違ってきます。
住宅修繕や医療、介護などでまとまった支出が発生したときにも、保有資産の差が影響します。
老後格差を見る場合には、年金額だけでなく保有資産も重要なのです。
資産がある人ほど選択肢を持ちやすい
老後の金融資産には、単に生活費を補う以上の意味があります。
資産に余裕があれば、働く時間を減らすという選択肢を持ちやすくなります。
住宅の修繕や住み替えにも対応しやすくなります。
旅行や趣味などにお金を使う余裕も生まれます。
反対に金融資産が少なければ、予想外の支出に備えるため消費を抑える必要があるかもしれません。
資産格差は、老後に使える金額の差だけではありません。
人生の選択肢の差にもつながる可能性があります。
若者の資産格差が固定されるとは限らない
もっとも、20代で金融資産が少ない人が、そのまま老後まで資産の少ない状態になると決まっているわけではありません。
若い世代には長い職業人生があります。
昇給することがあります。
転職によって所得が増えることもあります。
資格取得や学び直しによって人的資本を高めることもできます。
支出を見直し、30代や40代から積立額を増やすこともできます。
反対に、若いうちに多くの資産を持っていた人でも、失業や病気、投資による損失などで資産が減る場合があります。
若者の資産格差は将来を完全に決めるものではありません。
だからこそ早い段階の支援に意味がある
将来が決まっていないからこそ、若い時期の資産形成支援には意味があります。
少額でも貯蓄を始める。
生活防衛資金を作る。
NISAなどを理解する。
無理のない範囲で長期積立を始める。
同時に、教育や資格取得などを通じて将来の所得を高める。
こうした行動を早い段階から取ることができれば、その後の資産形成に使える時間を長くできます。
重要なのは、若者全員に大きな投資をさせることではありません。
少額からでも資産形成へ参加できる環境を整えることです。
NISAだけでは老後格差を解消できない
NISAは長期的な資産形成を後押しする重要な制度です。
しかし、これまで見てきたように、同じNISAが利用できても投資できる金額は人によって違います。
所得が高い人。
生活費の負担が小さい人。
親から資産援助を受けられる人。
すでに金融資産を持っている人。
こうした人ほど、早い段階から大きな金額を投資できる可能性があります。
制度を利用できることと、同じ結果を得られることは別です。
若者の資産格差を老後まで持ち越さないためには、金融制度だけでなく賃金、教育、雇用なども含めて考える必要があります。
結論
若者の資産格差は、現在の預貯金や投資額だけの問題ではありません。
20代や30代には、その後数十年間という長い時間があります。
若いうちに多くの資産を持ち、継続的に積み立てることができれば、長期運用と複利によって資産形成が進む可能性があります。
反対に、生活に余裕がなく資産形成を始められなければ、その間の運用期間を利用することができません。
その差が退職時点まで残れば、公的年金以外に持つ老後資産にも大きな違いが生まれる可能性があります。
ただし、20代の資産額だけで老後が決まるわけではありません。
所得を増やし、支出を見直し、30代や40代から資産形成を加速することもできます。
だからこそ重要なのは、若いうちの資産格差を運命として捉えることではありません。
できるだけ多くの人が早い段階から無理なく資産形成を始められる環境を作ることです。
若者の資産格差を考えることは、数十年後の老後格差を考えることでもあります。
若い時期の小さな差を放置するのではなく、長い時間を味方につけられる人を増やすことが、人生100年時代の資産形成では重要なのです。
参考
日本経済新聞 2026年9月10日 朝刊 若者の金融資産、格差拡大