NISAによって、若い世代でも資産形成を始めやすくなりました。
しかし、制度は同じでも、毎月5万円を投資できる人もいれば、5000円なら投資できる人、まったく投資できない人もいます。
この違いを考えるうえで重要なのが「投資余力」です。
資産形成では、どの商品を選ぶかだけでなく、そもそも投資に回せるお金がどれだけあるのかが大きな意味を持ちます。
投資余力とは何か
投資余力とは、生活に必要なお金や近い将来使う予定のお金を確保したうえで、投資に回すことのできる資金の余裕と考えることができます。
例えば毎月の手取り収入が25万円で、生活費などに20万円必要な人がいるとします。
単純に考えれば5万円が残ります。
しかし、その5万円をすべて株式や投資信託へ投資できるわけではありません。
急な病気や失業、家電の故障、冠婚葬祭などに備える現金も必要だからです。
近いうちに車を買う予定があれば、その資金も確保しておかなければなりません。
こうしたお金を差し引いて、それでも残る余裕資金が投資の原資になります。
同じ給料でも投資余力は違う
投資余力は年収だけでは決まりません。
例えば、同じ手取り25万円の若者が2人いたとします。
一人は実家で暮らしていて住居費の負担が小さく、もう一人は都市部で一人暮らしをして毎月8万円の家賃を払っているとします。
収入が同じでも、毎月残るお金には大きな差が生まれます。
さらに、奨学金を返済している人もいれば、自動車ローンを払っている人もいます。
家族への仕送りが必要な人もいるでしょう。
給与額だけを比べても、その人が実際にいくら投資できるのかは分からないのです。
生活防衛資金を先に考える
投資余力を考えるときに欠かせないのが生活防衛資金です。
生活防衛資金とは、失業や病気など予想外の出来事が起きたときに生活を維持するための現金です。
例えば毎月の生活費が20万円なら、生活費の6カ月分を確保する場合は120万円になります。
このお金まで株式や投資信託に入れてしまうと、必要になったときに相場が下落している可能性があります。
100万円投資したものが一時的に70万円になっているときに、生活費のために売却しなければならなくなるかもしれません。
投資は長期で続けることが重要ですが、そのためには投資しない現金を持っておくことも重要なのです。
余裕資金がなければNISAも使えない
NISAは投資によって得た利益が一定の範囲で非課税になる有利な制度です。
しかし、NISAそのものがお金を増やしてくれるわけではありません。
NISAはあくまで投資をするための税制上の器です。
その器に入れる資金は自分で用意する必要があります。
毎月の収入から生活費を払うだけで精いっぱいであれば、非課税枠が用意されていても十分に利用できません。
ここにNISAをめぐる重要な問題があります。
制度上は多くの人に同じ仕組みが用意されていても、その制度をどこまで活用できるかは家計によって違うのです。
月5000円と5万円では長期で大きな差になる
投資できる金額の違いは、短期間ならそれほど大きく見えないかもしれません。
しかし、資産形成は何十年という期間で考える必要があります。
毎月5000円なら年間6万円です。
毎月5万円なら年間60万円です。
10年間では、運用益を考えなくても元本だけで60万円と600万円になります。
20年間なら120万円と1200万円です。
さらに実際の長期投資では運用によって利益が生まれ、その利益が再投資される可能性があります。
投資余力の違いが長期間積み重なることで、金融資産の差も拡大していく可能性があるのです。
投資知識だけでは解決できない
若者の資産形成を促すために金融教育の重要性が指摘されています。
もちろん、投資の基本やリスク、分散投資などを学ぶことは大切です。
しかし、金融知識を身につければ誰でも資産形成できるとは限りません。
どれだけNISAに詳しくても、毎月の生活費で収入を使い切ってしまえば投資する資金は残りません。
投資余力を決めるのは金融知識だけではないからです。
賃金、家賃、社会保険料、税金、教育費、奨学金返済など、家計を取り巻くさまざまな要素が関係します。
若者の資産形成を考えるときには、「なぜ投資しないのか」だけでなく「投資できる余裕があるのか」という視点も必要です。
投資額を無理に増やす必要はない
SNSなどを見ると、毎月数万円、あるいは10万円以上をNISAで積み立てている人の情報を目にすることがあります。
それを見て、自分も同じ金額を投資しなければならないと考える必要はありません。
家計の状況は一人ひとり違います。
生活防衛資金が十分でなければ、まず現金を増やすことも立派な資産形成です。
毎月5000円しか投資できなくても、生活を圧迫せず長く続けられるのであれば意味があります。
重要なのはNISAの非課税枠を使い切ることではなく、自分の家計に合った金額で継続することです。
投資余力を増やす方法は節約だけではない
投資資金を増やそうとすると、節約ばかりに目が向きがちです。
もちろん固定費などを見直すことには意味があります。
しかし、特に若い世代では収入を増やすという視点も重要です。
資格取得や学び直しによって専門性を高める。
より条件の良い仕事へ転職する。
仕事の経験を積んで賃金を上げる。
こうした自分自身への投資によって将来の所得が増えれば、その後の投資余力も大きくなる可能性があります。
若いうちは金融資産だけでなく、自分の稼ぐ力である人的資本も非常に大きな資産なのです。
結論
NISAによって若者が投資を始める環境は大きく改善しました。
しかし、同じ制度が用意されていても、全員が同じ金額を投資できるわけではありません。
手取り収入、住居費、奨学金返済、家族構成、生活防衛資金などによって投資余力には大きな差があります。
そして、その差が何十年も積み重なれば、金融資産の差へつながる可能性があります。
だからこそ、若者の資産形成を考えるときに「NISAを使っているか」だけを見るのでは十分ではありません。
その一歩手前にある「投資できる余裕資金を持っているか」を見る必要があります。
資産形成は、投資商品を選ぶところから始まるのではありません。
毎月の収入から生活を安定させ、現金を確保し、そのうえで投資できるお金をつくるところから始まっているのです。
参考
日本経済新聞 2026年9月10日 朝刊 若者の金融資産、格差拡大