自己株式の取得について学んでいると、「株価評価」という言葉が何度も登場します。
「会社が株主から株式を買い取るだけなのに、なぜそこまで株価が重要なのだろう」
そう思う方もいるでしょう。
実は、自己株式の取得では、株価評価が税務判断の出発点になります。
株価が適正でなければ、みなし配当や譲渡所得だけでなく、高額取得や低額取得といった問題にも発展する可能性があります。
今回は、自己株式取得において株価評価がなぜ重要なのかを解説します。
株価が分からなければ適正価格も分からない
自己株式を取得するとき、最初に決めなければならないのが取得価格です。
しかし、価格を決めるためには、
「その株式はいくらの価値があるのか」
を知らなければなりません。
上場会社であれば株式市場の価格があります。
一方、非上場会社には市場価格がありません。
そのため、税務上の評価方法を用いて株価を算定する必要があります。
株価評価が税務判断の基準になる
税務では、適正な時価を基準としてさまざまな判断が行われます。
例えば、
- 高額取得ではないか
- 低額取得ではないか
- みなし配当はいくらになるか
- 譲渡所得はいくらになるか
これらはすべて、
適正な株価が分かって初めて判断できるものです。
つまり、株価評価は税務計算の土台になる作業なのです。
非上場株式には複数の評価方法がある
これまでのシリーズでも紹介してきたように、
非上場株式には複数の評価方法があります。
代表的なものとして、
- 類似業種比準価額方式
- 純資産価額方式
- 配当還元方式
があります。
どの方法を用いるかは、
会社の規模や株主の立場などによって異なります。
そのため、
同じ会社の株式でも、
誰が評価するのか、
どの場面で評価するのかによって評価額が変わることがあります。
「社長の感覚」では価格は決められない
中小企業では、
「このくらいの金額なら妥当だろう」
という感覚で価格を決めてしまうことがあります。
しかし、
税務ではそのような説明は通用しません。
例えば、
「長年会社に貢献してくれたから」
「親族だから」
という理由だけでは、
時価から大きく離れた価格設定を正当化することは難しくなります。
価格には、
客観的な根拠が必要になります。
株価評価は税務調査でも確認される
自己株式の取得が行われると、
税務調査では、
「どのように株価を算定したのか」
が確認されることがあります。
その際、
評価資料が残っていなければ、
取得価格の妥当性を説明することが難しくなります。
一方、
評価方法や計算過程が整理されていれば、
税務上の説明もしやすくなります。
講義資料でも、自己株式の取得では、非上場株式の適正な評価額を基礎として課税関係を判断することが前提とされています。
事業承継では株価評価が成功の鍵になる
自己株式の取得は、
事業承継で利用されることが少なくありません。
そのため、
株価評価を誤ると、
事業承継全体の計画に影響することがあります。
例えば、
株価を高く評価し過ぎれば、
会社の資金負担が重くなります。
反対に、
低く評価し過ぎれば、
税務上の問題が発生する可能性があります。
適正な株価を把握することは、
円滑な事業承継の第一歩なのです。
株価評価は一度行えば終わりではない
非上場会社の価値は、
毎年同じではありません。
会社の利益が増えれば、
株価も変わる可能性があります。
反対に、
業績が悪化すれば、
株価が下がることもあります。
そのため、
数年前に算定した株価をそのまま使うのではなく、
自己株式を取得する時点での状況を踏まえて評価することが重要です。
専門家の支援を活用する意義
非上場株式の評価は、
会社の決算内容や資産構成、評価方式など、多くの要素を考慮する必要があります。
そのため、
実務では税理士などの専門家が株価評価を行うケースも多くあります。
専門家が作成した評価資料があれば、
取得価格の合理性を説明しやすくなり、
税務上のリスクを抑えることにもつながります。
結論
自己株式取得において株価評価が重要なのは、適正な取得価格を決めるためだけではありません。
高額取得や低額取得の判定、みなし配当や譲渡所得の計算など、税務上のさまざまな判断は、すべて適正な株価を前提として行われます。
非上場株式には市場価格がないため、客観的な評価方法に基づいて株価を算定し、その根拠を残しておくことが重要です。
自己株式取得を円滑に進めるためには、「価格を決める前に株価を評価する」という基本を忘れないことが、最も大切なポイントといえるでしょう。
参考
東京地方税理士会「非上場株式を譲渡・移転する場合の税務 自己株式を買取る場合の課税上の注意点」講義資料 江本尚浩税理士・東京国際大学非常勤講師