自己株式の取得について学んでいると、どうしても税金の話に目が向きがちです。
「みなし配当はどうなるのか」
「譲渡所得はどう計算するのか」
「時価はいくらなのか」
これらはもちろん重要です。
しかし、自己株式の取得は税務だけで完結する制度ではありません。
会社が自社の株式を買い取る以上、会社法で定められたルールにも従わなければなりません。
もし税務だけを考えて会社法上の手続を軽視すると、思わぬトラブルにつながる可能性があります。
今回は、自己株式の取得で会社法の手続が重要とされる理由について解説します。
自己株式の取得は会社法で認められた制度
会社が自社の株式を取得することは、現在では会社法で認められています。
しかし、会社のお金を使って株式を買い戻すことは、会社の財産が減少することでもあります。
そのため、
「自由にいつでも好きな価格で買い取ってよい」
という制度にはなっていません。
株主や債権者を保護するため、会社法ではさまざまな手続や条件が定められています。
なぜ手続が必要なのか
会社は経営者だけのものではありません。
株主全員の財産であり、取引先や金融機関など多くの利害関係者とも関わっています。
もし経営者が自由に自己株式を買い取れるとすれば、
特定の株主だけを優遇したり、
会社の資金を不適切に社外へ流出させたりすることも可能になってしまいます。
そこで会社法は、
一定の手続を経なければ自己株式を取得できない仕組みにしています。
株主総会の決議が必要になることがある
自己株式を取得する際には、
会社法に基づき株主総会の決議などが必要となる場合があります。
これは、
会社のお金を使う重要な取引だからです。
株主全体に影響する可能性があるため、
経営者だけで決定するのではなく、
法律で定められた意思決定手続を経ることが求められています。
会社の規模や取得方法によって必要となる手続は異なりますが、
「会社法上のルールを確認すること」が重要です。
財源にもルールがある
自己株式は、
会社に十分なお金があれば無制限に買い取れるわけではありません。
会社法では、
会社の財産を守るため、
取得できる財源にも一定の制限を設けています。
これは、
株主へ過度に資金を流出させることで、
債権者が不利益を受けることを防ぐためです。
つまり、
会社の経営状態も考慮しながら自己株式を取得しなければならないということです。
税務と会社法は別々に考える
ここで重要なのは、
会社法上問題がなくても、税務上問題になることがある
という点です。
反対に、
税務上適正な価格であっても、
会社法上の手続が不足していれば、
法律上の問題が生じる可能性があります。
つまり、
会社法と税法は別々のルールであり、
両方を満たして初めて適正な自己株式取得になります。
講義資料でも、自己株式の取得では会社法上の手続と税務上の課税関係の双方を理解する必要があることが前提として示されています。
事業承継では特に見落としやすい
中小企業の事業承継では、
親族間で話がまとまっているため、
形式的な手続を軽視してしまうことがあります。
例えば、
「家族全員が納得しているから」
という理由で、
正式な決議を省略してしまうケースもあります。
しかし、
税務調査や将来の相続が発生した際には、
適正な手続が行われていたかどうかも確認されることがあります。
そのため、
身内だけの取引であっても、
会社法上の手続を省略してはいけません。
書類を残すことも重要
自己株式を取得した場合には、
議事録や契約書、
株価算定資料など、
さまざまな書類を作成・保存することになります。
これらは、
会社法上の手続を証明するだけではありません。
税務調査において、
「なぜこの価格になったのか」
「どのような手続を経たのか」
を説明するための重要な資料にもなります。
適切な記録を残しておくことは、
会社法と税務の両面で会社を守ることにつながります。
手続を軽視すると後で修正できないこともある
自己株式の取得は、
一度実行すると簡単にやり直せる取引ではありません。
もし必要な決議を欠いていたり、
価格設定に問題があったりすると、
後から修正することは容易ではありません。
だからこそ、
実行する前に、
会社法、
税法、
株価評価、
資金計画などを総合的に確認することが大切です。
結論
自己株式の取得は、税務だけでなく会社法にも基づいて進めなければならない制度です。
適正な株価を算定することはもちろん重要ですが、それだけでは十分ではありません。
株主総会など必要な手続を適切に行い、議事録や契約書などの記録を整備することで、法律面・税務面の双方から取引の適正性を説明できるようになります。
自己株式の取得を成功させるためには、「価格」と「手続」の両方を重視する姿勢が欠かせません。
次回は、「自己株式取得で株価評価が重要になる理由とは何か」をテーマに、なぜ株価算定が税務判断の出発点となるのかを詳しく解説します。
参考
東京地方税理士会「非上場株式を譲渡・移転する場合の税務 自己株式を買取る場合の課税上の注意点」講義資料 江本尚浩税理士・東京国際大学非常勤講師