正社員と非正規社員の待遇差を考えるとき、重要になる考え方の一つが継続雇用確保目的です。
会社には、社員にできるだけ長く働いてもらうために設けている待遇があります。
たとえば家族手当や病気休職、夏季冬季休暇などです。
こうした待遇について、
正社員だけに認めて、非正規社員には認めない
という取扱いが常に合理的とは限りません。
契約社員やパート社員であっても、契約更新を繰り返し、長期間働くことが予定されている人はいるからです。
正社員と仕事内容や責任が違っていても、その待遇の目的が長く働いてもらうことにあるのであれば、同じように長期間働く非正規社員を対象外にする理由が問題になります。
ここが、基本給など仕事そのものと強く結び付いた待遇とは異なるところです。
継続雇用確保目的とは何か
継続雇用確保目的とは、従業員に長期間継続して働いてもらうことを目的として待遇を設ける考え方です。
会社にとって、経験を積んだ社員に長く働いてもらうことには大きな意味があります。
社員が頻繁に退職すれば、そのたびに採用や教育が必要になります。
反対に長く勤務してもらえば、仕事の経験や知識が蓄積されます。
そのため会社は、さまざまな待遇によって社員の継続勤務を支えることがあります。
重要なのは、その目的が正社員だけに当てはまるとは限らないことです。
有期雇用社員であっても契約更新を繰り返し、長期間働くことが見込まれている場合があります。
そのような社員については、継続雇用を確保する必要性が正社員だけに存在するとは言い切れなくなります。
正社員人材確保目的とは何が違うのか
前回取り上げた正社員人材確保目的と、継続雇用確保目的は似ているように見えます。
しかし、区別して考える必要があります。
正社員人材確保目的では、単に長く働いてもらうことだけが問題になるわけではありません。
業務内容や責任の程度、職務内容や配置変更の範囲などを踏まえ、会社から重要な役割を期待される人材を確保し、定着させることが前提になります。資料でも、正社員人材確保目的は継続雇用確保目的とは異なるものとして整理されています。 02121ea7-51b0-43f2-ab19-7ccfb5f…
たとえば正社員を将来の管理職候補として採用し、幅広い配置転換を経験させ、長期的に育成するとします。
こうした人材を確保するために賞与や退職金を手厚くするという考え方が、正社員人材確保目的です。
一方、継続雇用確保目的では、
その社員に長く働いてもらう
ということ自体が重要になります。
したがって非正規社員についても長期勤務が見込まれているのであれば、その目的が当てはまる可能性があります。
有期雇用でも長期間働く人はいる
非正規社員という言葉から、短期間だけ働く人を想像することがあります。
しかし実際には、有期雇用契約を何度も更新し、同じ会社で長期間働いている人もいます。
契約期間が6カ月や1年であっても、それだけで短期的な雇用とは限りません。
更新が繰り返されていれば、実態として長期間の勤務が見込まれている場合があります。
そのため、
有期雇用だから長期雇用ではない
という形式的な判断だけでは十分ではありません。
待遇の目的が継続勤務を促すことにあるのであれば、その非正規社員についても同じ目的が当てはまるのかを検討する必要があります。
家族手当と継続雇用確保目的
家族手当は、この問題を理解しやすい待遇の一つです。
家族手当は一般に、扶養家族がいる従業員の生活を支援する性質を持つことがあります。
会社によっては、それによって社員の生活を安定させ、長く勤務してもらうという目的を持つ場合もあります。
ここで正社員と有期雇用社員の仕事内容が違っていたとします。
正社員には幅広い仕事や大きな責任があり、有期雇用社員は限定された仕事だけを担当しているという場合です。
基本給であれば、この仕事内容や責任の違いが待遇差につながることは理解しやすいでしょう。
しかし家族手当は、必ずしも仕事の難しさや責任に対して支給されるものではありません。
扶養家族がいることによる生活上の負担は、正社員でも有期雇用社員でも生じます。
さらに双方について長期間の継続勤務が見込まれているのであれば、
正社員だけに家族手当を支給する理由は何か
という問題が生じます。
仕事が違うというだけで、家族手当の待遇差まで当然に説明できるわけではないのです。
病気休職でも同じ問題が起きる
病気休職についても考え方は似ています。
病気休職制度は、病気などによって一時的に働けなくなった社員について、すぐに雇用関係を終了させず、一定期間休職できるようにする制度です。
社員が回復した後に職場へ戻ることができれば、会社としても経験のある人材を失わずに済みます。
つまり、継続雇用を支える性質があります。
ここでも、
正社員は休職できるが非正規社員は一切休職できない
という制度が常に合理的とは限りません。
非正規社員であっても、契約更新を繰り返し、相応に長期間の勤務が見込まれている場合があるからです。
仕事内容や責任に違いがあったとしても、それが病気になった際に雇用を維持する必要性の違いにそのまま結び付くとは限りません。
夏季冬季休暇でも仕事内容だけでは判断できない
夏季冬季休暇などについても同様です。
休暇は、基本給や役職手当とは性質が異なります。
基本給や役職手当なら、仕事の内容や責任の重さが待遇差に直接結び付きやすいでしょう。
しかし休暇について、
正社員のほうが責任の重い仕事をしているから休暇を与える
という説明は必ずしも制度の目的と一致しません。
休暇が心身の回復などを目的としているのであれば、その必要性は非正規社員にも存在します。
そのため、正社員と非正規社員で仕事内容が違うという事実だけを理由として、すべての休暇に差をつけられるわけではありません。
待遇ごとにその性質と目的を見る必要があります。
仕事側と待遇側の両方を見る
同一労働同一賃金を考えるときには、
仕事側の事情
だけで判断しないことが重要です。
資料では、待遇差の不合理性について、業務内容、責任の程度、職務内容や配置変更の範囲などの仕事側の事情と、待遇の性質や目的という待遇側の事情を総合的に見る考え方が示されています。 02121ea7-51b0-43f2-ab19-7ccfb5f…
たとえば正社員と非正規社員で責任の程度が違っているとします。
基本給については、その違いが重要な判断材料になるでしょう。
しかし同じ違いをそのまま、
だから家族手当も違ってよい
だから病気休職も違ってよい
だから休暇も違ってよい
と使うことはできません。
それぞれの待遇が何のために存在しているのかを見る必要があります。
長く働いているというだけでも決まらない
一方で、
非正規社員が長く働いているなら、正社員とすべて同じ待遇にしなければならない
という意味でもありません。
ここでも待遇ごとの判断が必要です。
正社員については、より重い責任を負い、幅広い配置転換を受け、将来の管理職候補として育成されている場合があります。
そのような違いと結び付いた待遇については、非正規社員との待遇差に理由がある場合があります。
大切なのは、
長く働いているか
だけで結論を出すのではなく、
その待遇は何のために存在しているのか
というところまで確認することです。
企業は待遇の目的を整理する必要がある
企業にとって、この問題への対応は簡単ではありません。
家族手当、休職制度、休暇などについて、
昔から正社員だけを対象にしている
という会社もあるでしょう。
しかし2026年の同一労働同一賃金ガイドライン改正を踏まえると、制度が昔から続いていること自体は、待遇差の理由にはなりません。
それぞれの待遇について、
何のために設けた制度なのか
現在もその目的は同じなのか
非正規社員にもその目的が当てはまらないか
を改めて確認する必要があります。
目的が曖昧な待遇については、その目的を明確にしたり、制度自体を見直したりすることも重要です。資料でも、自社のそれぞれの待遇がどのような性質で、どのような目的を持つのかを再検討し、曖昧であれば見直しや目的の明確化を行うことが重要とされています。 02121ea7-51b0-43f2-ab19-7ccfb5f…
正社員と同じくらい長く働く非正規社員は要注意
企業が特に確認しておきたいのが、長期間勤務している非正規社員です。
契約上は有期雇用であっても、更新を繰り返し、正社員と同じくらい長期間働いているケースがあります。
さらに正社員と同じ業務を担当している場合には、待遇差についてより慎重な検討が必要になります。
資料でも、長期間雇用され、正社員と同じ業務を行っているような非正規社員については、正社員へ転換することも対応の選択肢として挙げられています。 02121ea7-51b0-43f2-ab19-7ccfb5f…
つまり同一労働同一賃金への対応は、個々の手当を追加するだけではありません。
雇用区分そのものが実際の働き方に合っているのかまで検討する必要があるのです。
結論
継続雇用確保目的とは、従業員に長期間継続して働いてもらうことを目的として待遇を設ける考え方です。
正社員人材確保目的が、職務内容や責任、配置変更の範囲なども踏まえて重要な人材を確保し定着させる考え方であるのに対し、継続雇用確保目的では長く働いてもらうこと自体が重要になります。
そのため、契約更新を繰り返し、長期間働くことが見込まれている非正規社員については、
非正規社員だから
という理由だけで家族手当や病気休職、休暇などから除外することが合理的とは限りません。
特にこうした待遇は、仕事内容や責任の重さだけでは説明できない場合があります。
同一労働同一賃金では、仕事の違いを見るだけではなく、その待遇が何のために存在しているのかを見ることが重要です。
長く働いてもらうための制度であるならば、同じように長く働くことが見込まれる非正規社員をなぜ対象外にするのか。
企業には、その理由まで説明できる人事制度が求められるのです。
参考
企業実務 2026年9月号 同一労働同一賃金改正対応の総点検