給付付き税額控除は日本に定着するのか 英国ユニバーサル・クレジットに学ぶ制度設計

税理士
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近年、日本では給付付き税額控除の導入に向けた議論が活発になっています。物価上昇への対応や低所得者支援、働く人への所得補完などを目的として検討が進められていますが、日本にはまだ本格的な制度が存在していません。

その一方で、海外では既に同様の仕組みが導入されています。なかでも英国のユニバーサル・クレジットは、社会保障給付と就労支援を一体化した代表的な制度として知られています。

今回は英国の制度を参考にしながら、給付付き税額控除が日本でどのような役割を果たす可能性があるのかを考えてみます。

給付付き税額控除とは何か

給付付き税額控除とは、税額控除を行った結果、控除額が納税額を上回る場合に、その差額を現金で給付する制度です。

例えば所得税が5万円で、税額控除額が8万円の場合、通常の税額控除であれば5万円までしか減税できません。しかし給付付き税額控除では差額の3万円が給付されます。

この仕組みによって、所得税をあまり納めていない低所得世帯にも支援を届けることができます。

欧米諸国では勤労意欲を維持しながら所得再分配を行う政策として広く活用されています。

英国ユニバーサル・クレジットの仕組み

英国では2013年からユニバーサル・クレジットの導入が始まりました。

それまで英国には失業給付、住宅給付、児童関係給付など複数の制度が存在していました。しかし制度が複雑で、利用者にも行政にも大きな負担が生じていました。

そこで英国政府は複数の給付制度を統合し、一つの制度として運営する改革を実施しました。

ユニバーサル・クレジットの特徴は次のとおりです。

  • 複数の給付制度を一本化
  • 所得や家族構成に応じて給付額を決定
  • 就労による収入増加に応じて給付を段階的に減額
  • デジタル申請を原則化
  • 就労支援と所得保障を一体化

単なる生活保護制度ではなく、「働くほど有利になる仕組み」を目指した点に大きな特徴があります。

制度導入によって期待された効果

英国政府が目指したのは、いわゆる「福祉の崖」の解消でした。

従来制度では、少し収入が増えただけで給付が大幅に減額されるケースがありました。その結果、働く意欲を失う人も少なくありませんでした。

ユニバーサル・クレジットでは、所得が増加しても給付が段階的に減る仕組みを採用しました。

これにより、

  • 就労意欲の向上
  • 貧困対策の強化
  • 行政コストの削減
  • 制度の簡素化

などが期待されました。

また、申請や管理をオンライン化することで行政効率の向上も目指しました。

導入後に明らかになった課題

しかし制度導入後、さまざまな問題も指摘されるようになりました。

代表的な課題として挙げられるのが支給までの待機期間です。

申請から初回給付まで一定期間を要するため、その間の生活資金に困る世帯が発生しました。

また、デジタル申請を原則としたことで、高齢者やIT利用が苦手な人への対応も課題となりました。

さらに、

  • 制度が依然として複雑
  • 給付額の算定が分かりにくい
  • システム障害への対応
  • 不正受給対策
  • 行政データの連携不足

なども問題として指摘されています。

制度統合そのものは評価される一方で、運営面では改善の余地が残されているのです。

日本が学ぶべきポイント

日本でも給付付き税額控除の導入が議論されています。

しかし制度だけを導入しても十分ではありません。

英国の経験から学ぶべき点は少なくありません。

第一に、税と社会保障の情報を一体的に管理する仕組みが必要です。

給付付き税額控除は所得情報を正確に把握できなければ機能しません。マイナンバー制度の活用や行政データの連携が重要になります。

第二に、デジタル化と対面支援の両立です。

オンライン申請は効率的ですが、すべての人が利用できるわけではありません。高齢者やデジタル弱者への支援体制が欠かせません。

第三に、働く意欲を損なわない設計です。

給付が急激に減少すると就労意欲が低下する可能性があります。所得増加と給付減額のバランスが重要になります。

社会保障改革との関係

給付付き税額控除は単独の制度ではありません。

今後の日本では、

  • 給付付き税額控除
  • マイナンバー制度
  • 歳入庁構想
  • 社会保険制度改革
  • デジタル政府の推進

といった政策が相互に関係しながら進んでいく可能性があります。

特に税と社会保険を一体的に管理する方向性が強まれば、給付付き税額控除は制度改革の中核になるかもしれません。

結論

英国のユニバーサル・クレジットは、給付制度の統合と就労支援を目指した大規模な社会保障改革でした。

制度の簡素化や働く人への支援という成果がある一方で、支給の遅れやデジタル格差などの課題も明らかになりました。

日本が給付付き税額控除を導入する場合には、制度そのものだけでなく、行政システムやデジタル基盤、所得把握の仕組みまで含めた総合的な設計が求められます。

今後の社会保障改革を考えるうえで、英国の経験は貴重な参考事例になるでしょう。

参考

・東京税理士界 2026年6月1日号 Vol.833 「英国のユニバーサル・クレジットの現状と問題点 わが国への給付付き税額控除の導入に向けて」 望月雨(専修大学法学部教授)

・英国政府(UK Government) Universal Credit 関連資料

・英国労働・年金省(Department for Work and Pensions) 公表資料

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