会社の株価というと、「利益が多い会社ほど高い」と考える人は少なくありません。しかし、利益がそれほど多くなくても、多額の不動産や有価証券を保有している会社は高い企業価値を持つ場合があります。
こうした会社を適切に評価するために用いられるのが「純資産価額方式」です。
非上場株式の評価では、会社の収益力を重視する「類似業種比準価額方式」と並び、会社が保有する資産そのものの価値に着目する重要な評価方法となっています。
今回は、純資産価額方式の基本的な考え方と実務上のポイントについて分かりやすく解説します。
純資産価額方式とは
純資産価額方式とは、会社が保有している資産と負債を時価で評価し、その差額である純資産から株価を算定する方法です。
簡単にいえば、
「会社を今すぐ清算したら株主にはどれだけ財産が残るのか」
という考え方に近い評価方法です。
そのため、会社が保有する財産の価値が高いほど、株式の評価額も高くなる傾向があります。
なぜ帳簿価額ではなく時価で評価するのか
会社の決算書には資産が帳簿価額で記載されています。
しかし、その金額が現在の価値を正しく表しているとは限りません。
例えば、
数十年前に購入した土地
長年保有している上場株式
含み益のある投資資産
などは、帳簿価額と実際の価値が大きく異なることがあります。
もし帳簿価額だけで評価すると、会社の本当の資産価値を反映できません。
そのため、相続税評価では時価を基本として純資産を計算します。
評価対象となる主な資産
純資産価額方式では、会社が保有するさまざまな資産が評価対象となります。
例えば、
現金・預金
土地・建物
有価証券
売掛金
機械設備
貸付金
などです。
一方で、
借入金
買掛金
未払金
などの負債は差し引かれます。
つまり、「会社全体の正味財産」が株価の基礎となります。
不動産保有会社では評価額が高くなりやすい
純資産価額方式が大きな影響を与えるのが、不動産を多く保有する会社です。
例えば、
賃貸マンションを多数所有している会社
長年保有している土地が値上がりしている会社
自社ビルを所有している会社
などでは、帳簿には表れていない含み益が存在することがあります。
その結果、決算書上では利益がそれほど多くなくても、自社株の評価額が非常に高くなるケースがあります。
事業承継の場面では、この点が相続税負担を大きく左右することも少なくありません。
なぜ評価額圧縮スキームが生まれるのか
純資産価額方式では資産が増えれば株価も上昇します。
そのため、これまでさまざまな評価額圧縮策が考えられてきました。
例えば、
資産構成を変更する
子会社との取引を利用する
オペレーティングリースを活用する
貸付を組み合わせる
などの方法です。
こうした手法は形式的には制度に沿っていても、評価額を下げることだけを目的としている場合があります。
そのため現在、国税庁では有識者会議を通じて制度全体の見直しが進められています。
純資産価額方式の長所
この方式の最大の長所は、会社が持つ財産価値を正確に反映しやすいことです。
利益は景気や一時的な要因で変動しますが、長年積み上げてきた資産は会社の安定性を示す重要な要素です。
そのため、
資産管理会社
不動産保有会社
歴史の長い企業
などでは、企業価値を把握するうえで有効な評価方法となっています。
一方で課題もある
純資産価額方式にも課題があります。
最も大きいのは、将来の収益力が十分に反映されないことです。
例えば、
高い技術力を持つ会社
急成長しているIT企業
ブランド価値の高い企業
などでは、現在保有している資産以上の価値を持つことがあります。
しかし、純資産価額方式では将来の成長性や無形資産が十分に評価されない場合があります。
そのため、税法では会社の規模や性質に応じて類似業種比準価額方式などと組み合わせて評価する仕組みが採用されています。
税理士が押さえておきたい視点
純資産価額方式は、単に資産を集計する計算ではありません。
土地の評価
有価証券の評価
含み損益
負債の内容
資本政策
事業承継計画
など、多くの要素を総合的に確認する必要があります。
また、評価額だけを下げることを目的とした対策は、今後の制度見直しや税務調査で問題となる可能性もあります。
税理士には、制度の趣旨を踏まえた適切な助言がこれまで以上に求められるでしょう。
結論
純資産価額方式は、会社が保有する資産と負債を時価で評価し、その純資産を基に株価を算定する方法です。不動産や有価証券などの資産価値を反映できるため、会社の財産的な価値を把握するうえで重要な役割を果たしています。
一方で、将来の収益力や成長性を十分に反映しにくいという課題もあり、類似業種比準価額方式などと組み合わせて活用されています。近年は評価額圧縮スキームへの対応も議論されており、今後は形式的な手法よりも経済的実態を重視した評価制度へと進んでいく可能性があります。
純資産価額方式の考え方を理解することは、自社株評価だけでなく、事業承継や相続対策を考えるうえでも欠かせない知識といえるでしょう。
参考
税のしるべ 2026年7月13日号(1面)
取引相場のない株式の評価に関する有識者会議に現評価方法を濫用したスキーム8事例、次回8月の会合に議論の「たたき台」を提示
国税庁「財産評価基本通達」