国税庁は令和8事務年度に向けて、全国524税務署での内部事務センター化、次世代システムであるKSK2への移行、そしてGSS環境への移行を進める方針を明確にしました。
これらは単なるシステム更新ではありません。税務行政そのもののあり方を大きく変える改革です。
多くの税理士は税務署のデジタル化を「税務署側の話」と捉えがちですが、本質的には税理士業界にも大きな影響を与える変化です。
これからの税理士は何を求められるのでしょうか。
税務署は大きな転換期を迎えている
国税庁は近年、「人が行うべき業務」と「システムが行う業務」の切り分けを進めています。
今回の課税部長会議では、
・全国524署の内部事務センター化
・KSK2への移行
・GSS環境への移行
・オンラインツールの活用拡大
などが主要テーマとして議論されました。
これまで税務署は地域ごとに独立した組織として運営されてきましたが、今後は全国規模で業務を集約し、標準化していく方向へ進みます。
民間企業でいえば、本社への業務集約やシェアードサービス化と同じ流れです。
税務行政も民間企業と同様に、人手不足と業務効率化への対応を迫られているのです。
税務調査はさらにデータ重視になる
今回の会議で注目すべきなのは「コンプライアンスリスクに応じた最適な事務運営」です。
国税庁は今後、
オンライン調査
電子データ分析
AI活用
デジタル証拠の収集
などを積極的に進める方針です。
紙資料をスキャンしてテキストデータ化し、分析に活用する仕組みも拡大されます。
従来の税務調査は、
帳簿を見る
領収書を見る
現場を確認する
という手法が中心でした。
しかし今後は、
資金移動データ
電子取引データ
クラウド会計データ
ネット取引履歴
などを分析しながら調査対象を選定する流れがさらに強まるでしょう。
税務署の目線は「帳簿」から「データ」へ移行しているのです。
租税回避スキームへの監視はさらに強化される
会議では租税回避スキームへの対応強化も大きなテーマとなりました。
近年はSNSやインターネットを通じて、
節税商品
海外投資スキーム
法人化節税
暗号資産節税
などが急速に広がっています。
国税庁は専担部署を設置し、
早期探知
調査による是正
税制改正提案
を進めています。
さらに今後は、
「どのように利用そのものを抑止するか」
という段階に入りつつあります。
税理士にとっても、
「法律上可能か」
だけではなく、
「税務リスクはないか」
「将来的に否認される可能性はないか」
まで説明する責任が重くなります。
節税提案よりもリスク説明能力が重要になる時代です。
消費税不正還付対策は新たな段階へ
消費税不正還付への対応も強化されます。
税関との情報連携
他官庁との情報共有
関係団体との連携
リファンド方式への見直し
など、多方面から不正還付を防ぐ仕組みづくりが進められています。
特に輸出取引や越境ECが増加する中で、消費税還付制度を悪用した事案は年々巧妙化しています。
国税庁は今後、単純な申告内容だけではなく、
物流情報
決済情報
海外取引情報
などを横断的に分析する方向へ進むでしょう。
税理士にも取引の実態確認能力が求められます。
確定申告はスマホ申告が当たり前になる
今回の会議では令和7年分確定申告の評価も行われました。
国税庁は、
マイナンバーカード方式
スマホ申告
オンライン事前予約
を中心とした運営を推進しています。
将来的には、
「税務署へ行かない確定申告」
が完全に定着する可能性があります。
銀行取引
証券取引
給与情報
ふるさと納税
医療費情報
などが自動連携されれば、確定申告そのものの姿も大きく変わるでしょう。
税理士に求められる役割も、入力代行から相談業務へ移行していきます。
税理士は入力代行業から相談業へ進化できるのか
税務行政のDX化が進むほど、単純な作業は減少していきます。
一方で増えるのは、
税務判断
制度選択
相続対策
事業承継
資産運用
法人化判断
国際税務
などの高度な相談です。
AIやシステムは計算を行うことはできますが、人生設計や経営判断までは行えません。
だからこそ、これからの税理士は「申告書を作る人」ではなく、「意思決定を支援する人」へ変わる必要があります。
税務署のDX化は税理士の仕事を奪うのではありません。
むしろ税理士が本来価値を発揮すべき相談業務へ集中できる環境を作る改革とも言えるでしょう。
結論
令和8年事務年度は、国税庁にとって大きな転換点になります。
全国税務署のセンター化、KSK2への移行、オンライン調査の拡大、租税回避スキーム対策の強化などにより、税務行政は本格的なデジタル時代へ入ろうとしています。
この変化の影響を最も受けるのは納税者だけではありません。税理士もまた大きな変革を迫られています。
これからの税理士に求められるのは、入力や計算のスピードではなく、複雑な制度を分かりやすく説明し、顧客の意思決定を支援する力です。
税務行政DXの進展は、税理士が真の相談業へ進化するための大きな転機になるのではないでしょうか。
参考
税のしるべ 2026年6月22日
令和8年5月・課税部長会議、全署センター化やKSK2移行で対応整備を議論