相続した土地をどうするか――。これは人生100年時代において、多くの人が避けて通れない課題になっています。特に地方では、利用予定のない土地を相続したものの、売却も活用もできずに困っているケースが増えています。
こうした状況を背景に、政府は所有者不明土地対策を強化しています。2026年6月には関係閣僚会議が基本方針と工程表を改訂し、今後の制度整備の方向性を示しました。
今回は、所有者不明土地対策の現状と今後の課題について考えてみます。
所有者不明土地が社会問題になった理由
所有者不明土地とは、登記簿を見ても所有者が分からない土地や、所有者が判明しても連絡が取れない土地を指します。
背景には相続登記の未実施があります。
親から子へ、さらに孫へと相続が繰り返される中で登記が放置されると、権利者が何十人にも増えてしまいます。その結果、土地の売却や開発、公共事業が進まなくなります。
国土交通省の推計では、所有者不明土地は九州本島の面積を上回る規模に達しているともいわれています。
人口減少が進む日本では、今後さらに増加することが懸念されています。
固定資産税制度も見直しが進む
今回公表された総務省資料によると、令和2年度税制改正で導入された制度の活用が進んでいます。
一つ目は「現に所有している者の申告制度」です。
相続登記が終わっていなくても、実際に所有している人が市町村へ申告する仕組みです。
2025年4月時点で1,599団体が条例を整備しており、2024年度の申告件数は44万6,238件に達しています。
二つ目は「使用者を所有者とみなす制度」の拡大です。
本来の所有者が不明な場合でも、実際に土地を使用している人に固定資産税を課税できる制度です。
2025年度には409団体で適用され、1,550件の課税が実施されました。
自治体にとっては課税の公平性を確保できる一方で、土地利用の実態把握も進むことになります。
相続土地国庫帰属制度の利用状況
2023年に始まった相続土地国庫帰属制度も徐々に利用が広がっています。
この制度は、一定の要件を満たした土地を国へ引き取ってもらえる仕組みです。
法務省資料によると、2026年4月30日時点で申請件数は5,421件となっています。
そのうち、
・帰属決定 2,681件
・却下・不承認 162件
・取下げ 1,005件
・審査中 1,573件
となっています。
審査中を除く申請に対する帰属割合は69.6%です。
制度開始当初は利用が限定的との見方もありましたが、一定のニーズが存在することが数字から読み取れます。
国が抱える新たな課題
もっとも、制度には新たな課題も見えてきています。
国庫に帰属した土地は年々増加していますが、その多くは市場価値が低く、活用が難しい土地です。
現時点では宅地や森林などを含めて売却実績はないとされています。
つまり、所有者不明土地問題は個人から国へ管理主体が移っただけで、土地そのものの価値が高まったわけではありません。
今後は、
・地域での利活用促進
・民間事業者との連携
・地域コミュニティによる管理
・再生可能エネルギー活用
・森林管理との連携
などが重要なテーマになるでしょう。
電子遺言制度への期待
今後の工程表には電子データによる遺言制度の創設も含まれています。
パソコン等で作成した遺言を法務局が保管する「保管証書遺言」が実現すれば、遺言作成のハードルは大きく下がる可能性があります。
相続トラブルを未然に防ぎ、所有者不明土地の発生そのものを抑制する効果も期待されています。
所有者不明土地問題は、相続の問題であると同時に、日本社会の人口減少問題でもあります。
予防策としての遺言制度整備は今後ますます重要になるでしょう。
税理士や司法書士に求められる役割
所有者不明土地問題は不動産だけの問題ではありません。
相続税申告や遺産分割協議、相続登記、家族信託、遺言作成など多くの専門分野が関係しています。
今後は税理士が相続税だけを扱うのではなく、
・相続発生前の財産整理
・遺言作成支援
・家族信託活用
・不要土地の処分相談
・国庫帰属制度の活用提案
まで含めた総合的な助言が求められるようになるでしょう。
また司法書士との連携もますます重要になります。
土地を相続した後の手続きではなく、土地を残さないための対策を考える時代に入りつつあります。
結論
所有者不明土地対策は、相続登記義務化や相続土地国庫帰属制度の導入によって着実に前進しています。しかし、真の課題は土地の所有者を明確にすることではなく、その土地をどう活かすかにあります。
これからの相続対策では「財産を残す」だけでなく、「管理できる形で残す」「不要な資産は生前に整理する」という視点が欠かせません。
人生100年時代の相続対策は、相続税対策から資産管理対策へと大きく転換し始めているのです。
参考
税のしるべ 2026年6月22日
関係閣僚会議が所有者不明土地等対策の基本方針等を改訂、使用者を所有者とみなす制度等の適用状況なども